第17話 一件落着?

 河川敷で私、はな勅使川原てしがわらの三人で、ものまね勝負をしていると、いかにもガラの悪い特攻服を着た三人組に絡まれた。


「よく見たらかわいいじゃん。俺達と遊ばない?」

「結構ですわ。他をあたりなさい」


「あ゛あん! 他人ひとの庭で勝手やっといて、その口の聞き方はないんじゃないの?」

「やっちまうか」

「いいね」


 目と鼻の先まで来ているにも関わらず、臆さず物を言う勅使川原てしがわら

 その応対は火に油を注いでしまったようだ。


「マズくない? これ?」

「わかってるわよ」


 これでもかというぐらいに勅使川原てしがわらの顔に不良グループの一人が顔を近づけている。


「あれ? よく見たら震えてない?」

「ふ、震えてなんか……」

「さっきの威勢はどうしたの? お嬢ちゃん?」

「そのくらいにしてくれないかしら?」

「あ゛あん!」


「私達はここがあなた達の庭だとは知らなかったの。もうここには来ないわ。だから見逃してはくれないかしら?」

「そうかい」


 そう言いながら、その男は勅使川原てしがわらの顔に自身の顔を近づけた。


「いやー」

「おっと」


 勅使川原てしがわらが男を突き離すと、男は軽くよろめいた。


「今のは立派な暴力行為なんじゃないの?」

「せっかく、そっちの子が引こうとしてくれてたのに。君はやる気なのかな? いろんな意味で。な〜んて」

『ガッハハハハ』


 男三人が高笑いしている。不快でしかない。


「行こう」


 私は勅使川原てしがわらの手を引き、この場から離れようとする。


「まだ話は終わってねぇぞ」


 男が私に掴みかかってくる。

 それを予測していた私は勅使川原てしがわらを華の方へと避難させてから、掴みにきていた腕を、逆に掴み返す。合気道の技をかけた。


「痛つつ……なんだ?」


 手を封じ、自由を効かなくさせる。


「なにしてくれてんだ、あ゛あん!」


 封じれるのは一人だけ。

 さすがに三人相手では分が悪い。


「なにしてる」


 運よく警察が来てくれた。


「っち! 行くぞ!」


 特攻服を着た男三人組が去っていく。


「通報があって来たんだけど……したのは君たち?」

「あたしです」


 華が名乗り出た。


「君たち、高校生だよね? ケガはない?」


 三人、顔を見合わせ、ケガがないか確認し合う。


「私は大丈夫よ」

「あたしも」

「怖かったですわぁ〜」

「しっかりしなさいよ」


 勅使川原てしがわらは腰が抜けたようだ。

 地面にへたり込む。


「わたくし、もうダメかと……」

「さっきまでの威勢はどこにいったのよ」

「だってぇ〜」

「とにかく立ちなさい。制服が汚れるわよ」


 肩を貸してどうにか勅使川原てしがわらを立ち上がらせる。


「それにしても、萌々もも様はすごかったですわ」


 萌々もも様?


「私は別になにもしてないわよ」

「軽くいなしてたじゃありませんか」

「あれは昔、合気道を習ってたからで……たいしたことないわよ」


 瞳をキラキラとさせて私のことを見てくる。

 これではまるで、勅使川原てしがわら伊織いおりを見ている時のようだ。


「一生ついていきますわ」

「……あ、うん……」


 あれ?

 なんかあからさまに態度、変わってない?


「とりあえず聴取を取りたいから署まで同行してもらえるかな?」

「え? いや、その……」

「わかりました」


「あたし達、警察の世話になるの? 被害者なのに?」

「ちょっと話が聞きたいだけでしょ」

萌々もも様が行かれるのでしたら、わたくしも行きますわ」


 警察署に到着すると絡んできた人達の特徴や関係性、また河川敷にいた理由を聞かれた。

 河川敷にいた理由は遊んでいたと答えた。

 本当の理由を答える必要はないし、説明すること自体が難しい。


 それから学生証をみせ、親が迎えに来てもらうことになった。


「なんか不思議な感じ」

「呑気なものね」


「わたくし達は被害ですわよね? なにも悪いことはしてませんわよね?」

「どうだろうね。萌々が一発かましちゃったから案外、加害者だと思われてるかも」

「あれは不可抗力ですわ」


「どうでもいいわよ。それより早く家に帰りたいわ」

「同感」


 しばらく待っていると、さきさんが到着した。


「華!」

「ママ……」

「無事なのね。びっくりしちゃった、いきなり警察から連絡が来るんだもの。萌々ちゃんも無事ね」

「はい……」

「よかったぁ」


 血相変えて私達の前に現れたさきさんは本当に心配していたのだろう。

 私達の顔を見るやいなや、腰を抜けすのではないのかというぐらいに全身の力が抜けていた。


「迎えが来たから先に失礼するわね」

「わかりましたわ」

勅使川原てしがわら、また学校で」

「ええ」


 さきさんと共にお世話になった警察官に挨拶をし、家に帰った。

 結局、勝敗はあやふやなままになってしまった。

 また勝負を持ちかけられる日々が続くのかと思っていたが、そうはならなかった。


 ♡


 ――翌日。


萌々もも様、昨日は大変でしたわね」

「……そうね」

「今日はなにして遊びましょうか?」

「……そうね」


 遊び、ではなくて勝負間違いではないのか?

 そう思うも、勅使川原てしがわらの態度は明らかに友達を遊びに誘うそれだ。


 昨日までの敵視している者への態度とは明らかに違う。

 私の腕を抱き、体をべったりとくっつけている。


「ずるいよ。僕も萌々さんと遊びたい」

「なぜ伊織いおりまでいるの?」

勅使川原てしがわらから聞いたよ。不良を撃退したんだって? すごいなぁ。僕も見たかった」


「伊織様。わたくし間違ってましたわ。萌々様は魅力溢れるお方ですのね」

「わかってくれて僕は嬉しいよ」

「……私は嬉しくないわ」


「萌々さん、僕と付き合ってよ」

「前にも言ったけど、そういう相手は募集してないわ」

「どうしてだい? 僕が女だからかい? 男だったら付き合ってくれるとか?」

「そういう問題ではないわ」


「そうですわよ、伊織様。わたくし達の関係はあくまで友達であって、それ以上の関係ではないんですのよ」

「そうだね。友達以上の関係を求めるのは贅沢だもんね」

「そうですわ」


 勅使川原てしがわらに関しては友達の関係も了承した記憶はないのだけれど……まぁ、いいか。


 なんにしてもこれで勝負を持ち込まれることはなくなったわけだ。

 代わりに遊びに誘われるようにはなったけれど。


「わたくしの家に来ませんか? 定期試験も近いことですし、勉強会を致しましょう」

「いいね。僕も混ぜてよ」

「もちろんですわ」


「そんなことより自分達の教室に戻りなさい。休み時間終わるわよ」

『はーい』


 二人は教室へと戻っていく。


 なにはともあれ一件落着。

 落ち着いた日々にはもう戻らなそうだけれど、ある程度言うことを聞いてくれるだけ前よりかはましか。


 その後、行われた定期試験では、華が赤点をギリギリで回避した。

 私との点数差は圧倒的なのに、普段から勉強していないことを考えると、なんか納得がいかない。


 ――一時完結。

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価値観ゼロ一致の義姉妹、なのに今日も一緒にいる 越山あきよし @koshiyama

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