価値観ゼロ一致の義姉妹、なのに今日も一緒にいる

越山あきよし

第1話 だらしない姉・間宮華と無愛想な妹・広瀬萌々

 グラウンドが喧騒けんそうに包まれていた。


 体育祭、最終種目――騎馬戦。

 団体種目ゆえに配点は高い。

 この競技の結果によって、あたし達のクラスが優勝するかが決まる。


 途中まで表示されていた点数ボードはシークレットとなっているが、みんなで確認し合って、優勝の可能性があるのは確かだ。


 ――ッパン!


 開始の合図が鳴り響き、喧騒が増す。

 声援を送る者、敵地に攻め入る者、相手の出方を見る者、息をみ行くすえを見守る者。

 各々が喧騒の一端となり、確かにこの場にいることを実感する。


 手に汗を握り、呼吸する事すらも忘れ、今、この時に全神経を捧げる。

 そんな中、あたし達の騎馬が一騎、敵と相対していた。

 やるか、やられるか。緊張が伝わってくる。


 頭に巻いたハチマキを取れば勝ち。逆に取られれば負け。

 単純ではあるけれど、真剣であればあるほど、その難易度はぐっと上がる。

 あたし達の騎馬が動き出した。


 どうなる?


「――あげる」


「へ?」

『ウエエエエエエエエェェェェェェェ!?』


 信じられないことに、あたし達の騎馬が、敵にハチマキを渡した。


「……ありがとう」


 敵は困惑しつつも、ハチマキを受け取り、去っていく。



 というのは、先月、高校1年の5月に行われた体育祭での話。


 入学したてのイベントで、仲良くなるチャンスをあいつ――広瀬ひろせ萌々ももは自ら棒に振った。

 ゆえに、広瀬ひろせはクラスで孤立し、昼休みである今も、一人で読書に耽っている。


 理由はそれだけではないのはわかっているけど、決定打になったのはあの一件であると、あたし――間宮まみやはなは思っている。


「普通、渡すか?」

「ああ、体育祭の話?」

「そう」

「普通は渡さないね」


「でしょ。だから訊いたの、どうしてあんなことをしたのか。そしたら、あいつ、なんて答えたと思う?」

「なんて答えたの?」

「優勝してなんになる、とか。ケガでもしたらどうするんだ、とか」


「まぁ、危険な競技なのは確かだからね」

「だとしてもよ。なら、最初から出なきゃいいと思っちゃうわけ」


「しょうがないよ。全員、なにかしらには出ないといけないルールだから」

「誰がそんなルール作ったんだか」

「そんなことよりさ。この前のドラマ観た?」


 友達が会話の流れを切り替えたことで、あたしは話すのを止めた。

 今はあたしを置いて、友達二人で流行りのドラマの話で盛り上がっている。


 そのタイミングで、あたしは広瀬のことを見る。

 中身はともかく、あいつのかわいさは異常だ。


 入試トップ合格者がやる新入生代表の挨拶。

 不覚にも、あたしは魅了された。

 小柄で肌は色白、髪は腰まで伸びたキレイなストレート。まるで人形みたいだと思った。


 同じクラスであることを知って歓喜したのもつかの間、話してみてわかる広瀬ひろせの性格。


「お昼、一緒に食べない?」

「一緒に食べてどうするの?」


「今度の休み遊ぼ?」

「時間の無駄」


 不愛想で、ノリが悪く、空気が読めない。

 笑っているとこなんて見たことない。


 勉強一筋のクソ真面目。

 校内どころか、全国でも一位の成績。

 確実に通う高校を間違えている。


 今は高校一年の六月。この時期ともなれば仲の良いグループができている。

 今、一緒にお昼を食べている友達二人はソフトボール部の仲間だ。


 対して、広瀬はぼっちを極めている。

 まぁ、あいつの場合はぼっちになってしまった、のではなく、ぼっちになることを選んだのだろう。


 そういえば、あたしに妹ができるんだっけ。同い年の。

 親の再婚によるもので血は繋がっていない。

 広瀬みたいなのはヤダな。

 どうせなら愛想よくてかわいいのがいい。


 ♡


間宮まみやはまだか?」

「……みたい、ですね……」

「……ったく」


 ――ッガラ!


「ギリギリセーフ!」


 間宮まみやが主審のごとく、両腕を水平に伸ばしながら教室に入ってきた。

 その瞬間、教室内が笑いの渦に包まれる。


「アウトだ!」

「先生タッチしてないじゃん」

「ソフトボールのルールを教室に持ち込むな」


「教室のルールを勝手に作らないでよ」

「私が作ったわけじゃねぇよ。いいから早く座れ」

「は~い」


 間宮まみやは片手をあげ、元気よく返事をする。


間宮まみや、遅刻、っと」

「ちょっ、先生」

「ルールはルールだ。嫌なら余裕を持った行動をするように」


「ギリギリが楽しいんじゃん。わかってないなぁ」

「わかってないのはお前の方だ」


 またもや、教室内が笑いの渦に包まれた。

 間宮まみやはいつも遅刻ギリギリに登校してくる。

 ギリギリが楽しいだとか、意味がわからない。


 私――広瀬ひろせ萌々ももが冷めた目で間宮まみやを見ていると、笑顔で手を振ってきた。

 意味がわからない。


 私は間宮まみやのだらしなさに辟易へきえきしている。

 授業中は居眠りして先生に怒られる。体を痛めるぞ。

 耳にピアスの穴を開けたのを自慢げに話す。感染症のリスクがあるのを知らないのか?


 ソフトボール部に所属し、強い日差しに肌をさらしている。適度なら幸福ホルモンが分泌されていいけど、浴び過ぎは皮膚がんなどの病気を引き起こす。

 お昼はいつもコンビニのおにぎり。栄養バランスが悪い。


 出会った当初は気さくで明るく好印象だった。

 けれど、知ってみれば、だらしなさが目立つ。

 特に健康に影響を与える行動が許せない。


 そういえば、私に姉ができるんだっけ。

 間宮まみやみたいなだらしないのはヤダな。


 ♡


 これは、そんな正反対の二人がなるお話。

 ――この時の私も、あたしも。

 まさか、あんなのと打ち解けられる日が来るなんて、思ってもみなかった。

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