第18話 エレベーターの同乗者
やっとマンションに着いた。ボタンを押してエレベーターを待つ。腕時計を見ると、日付が変わろうとしている時間だった。
「あーあ。……仕事やめよっかなあ」
疲れていると独り言が多くなるのはなぜだろう。
まもなく扉の向こうに明るい箱が降りてきて、私を乗せるべく開かれる。
「お邪魔しますよーっと……。ええ、8階8階…………あれ?」
操作パネルを見ると、なぜかすでに、最上階である11階のボタンが押されていた。
扉が閉まり、エレベーターが動き出す。
何度押しても8のボタンは点灯しない。
「あれえ、故障? どうしよ、なんか連絡とか……ひっ、いやぁッ!!」
不安で周りを見回して気づいた。
扉で隠れていた操作パネル反対側の地面に、人形が立っている。
赤ちゃんくらいのサイズで、あちこちが黒ずんでいて、黄色の破れたシャツを着たシリコンの人形。
真っ黒な目で私を見ていた。
「な、なによ……。なんでこんなとこに……。イタズラ? あ、さては……」
脳裏に過ったのはこのマンションから徒歩で二十分くらいの場所にある、不気味なごみ屋敷。人形ごみの家と呼ばれるそこには廃棄された人形がいくつもの山を成しているらしい。
きっとどこかのうちのクソガキが盗んできて、いたずらでここに置いたんだ……。
「……ったく、残業で疲れてるのに、こんな悪趣味ないたずらでビビらされるなんて! 最悪っ……! 絶対クレーム入れてやる……」
証拠のためにとスマホを取り出して写真を撮る。ついでにSNSにそれを怒りの文章とともに投稿。少しでも鬱憤を晴らさないとやってられない。
と、なんやかんやしていたらポーンと音が鳴り「13階です」のアナウンス。
「……え、13?」
上の表示を見ると、存在しないはずの12、13の文字があった。
13が点灯している。
扉の外を見ると、空がやけに真っ暗な、灯りが一つも灯っていない階に着いていた。
「は? は? …………あ、きゃああああっ!!」
足元に人形が来ていて飛びのいた。
さっきまで、確かに反対側の手すりの下あたりにいたはずの人形は、扉の外を覗く私のすぐ前まで来ていた。
跳ねるように後ろに隅に逃げて背中を強打した。大きな音がして、後頭部と背中がいたい。
人形は、ちらりと首を動かして私を見ると、当然のように歩いて、開いたドアから外へ出て行った。
「…………は? え、……はあ……??」
しばらく動けないでいると、エレベーターはまた勝手に動き出して、今度は一階に着いた。
乗り込んできた男の人はあからさまに怪訝な顔をしてパネル前に立つと、やや間を置いて「何階ですか?」と尋ねる。
「は、8階で……」
そんなやりとりを経てようやく、さっきまでのことは過労が見せた幻なのだと、自分に言い聞かせることができるようになった。
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