第14話 探し物
「サキ姉ー! なにしてんだー?」
学ラン姿の少年が声を掛けると、ブレザーを着た女子高生はごみ山の上に立って彼の方を見た。彼女の少し後ろにはひょっこりと覗く小さな女の子もいる。
「タク坊ー! 聞いてよかわいそうなんだよこの子がー! クラスの男子にいじめられて、家の鍵ここに投げ込まれちゃったらしくてねー!」
人形でできたごみの山を崩しながら、少年の方へ降りて来る。危なっかしいなと思いながら少年も近づく。
「泣いてたから、ほっとけなくて」
「ふーん」
ちらりと女の子を一瞥する。目には赤々と泣きはらした痕が残っている。これを見てしまっては、よほど非情でない限り無視して帰ることはできないと彼は思った。
「よっ。俺、田嶋拓也。君の名前は?」
「…………かがみ、ゆり」
「よし、ゆりちゃん。俺にも教えてくれない? 探してる鍵の形とか、どの辺にありそうかとか!」
◇
「にしても見つからないもんだねー」
「サキ姉が動かしながら探したせいで、ごみ山の奥に落ちてったとかじゃないよな」
「失礼な。そんなにガサツな女じゃないよあたしは」
「えひひっ、おねえちゃん、おにいちゃん、なかよしだね」
雑談をしながら捜索を始めてかれこれ一時間。鍵が落ちたはずの場所を中心として範囲を広げながら探し、二つのごみ山の端から端まで調べたが、失せ物は出てこなかった。
「やっぱり、探し方を変えないきゃだめか」
「というと?」
「ほら、あたしたち横方向に広げて探してたじゃん。でも、癪だけどタク坊が言う通りごみ山の下に落ちてっちゃったとしたら……」
「縦に範囲を広げないと、と」
「お人形さんを、掘るの?」
二人は少女の顔を見て頷いた。少女は足元をじっと見て、やがてうるうると目を滲ませる。
「……こわいぃ……」
「ええっ、今までもちょっと横にどかしたり、なんなら踏みつけたりしてきたのに」
「ばっかタク坊。ゆりちゃんと同じ視点になってみなよ。怖いに決まってるでしょ。ねえ?」
少年はしゃがみ、女の子がしているように下を見てみた。
上を歩くときは意識していなかったのに、そうして向き合ってみると途端に罪悪感が増す。それまで布地やシリコンやゴムやプラスチックの塊としか思っていなかった物が人の指に、人の腹に、人の頭に、人の顔に。人間の一部のように見えてくる。
気づかずに靴で踏みにじってきたそれらの隙間にこれから指を入れて、搔き分けて引きづりだそうというのだ。
人形と人形の隙間を埋めている闇に手を入れるその想像が、少年の背中に冷や汗を発させた。
「なるほど……」
「まっ、あたしは怖くないからやるけどねー」
「えっ、ちょっ、サキ姉!」
女子高生はまくれるスカートを意にも介さずしゃがんで足元の人形ごみに手の指を突っ込んだ。
「うえっ、つめた、あと固い。植物の根とかが絡んでんのかなー」
「あーもうガサツじゃんかやっぱ……」
「おねえちゃん、だいじょうぶ……?」
「へーきへーき。ほれ、力にものを言わせれば持ち上がらないほどでは……なあぁっ……いぃぃぃぃ うぎゃっ!」
ごみの塊がすっぽ抜けると同時に女子高生はごみ山へ尻もちをついた。
「いたたた……あはは、やっぱなんか絡みついてたみたい……ね……」
少年と女の子が自分の持っている物を見て青ざめていることに気づき、女子高生も手元に焦点を合わせる。
持っていたのはシリコンの腕。
だが、その腕は髪の毛を鷲掴みにする形で別の人形の首から上を持っていた。
ゴム質なその首はぐるりと振り返って、黒カビ塗れの顔を女子高生に向けると。
皺とヒビを顔中に走らせ、強烈な怒りの形相を露わにした。
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