告白ゲーム~カーストトップの陽キャ女子が陰キャな僕を賭けの対象にしてたので、努力してわからせた結果修羅場になったんだけどどうしよう~

湊カケル

第1話 告白ゲーム

 「告白ゲーム! イエーイ!」


 「「いえい?」」


 教室の中からめちゃくちゃ頭の悪そうな単語が聞こえてきた。

 ノリノリな声は1人しか聞こえず他二人は困惑した声をしてる。

 

 その声に驚いて教室のドアを開けようとした僕の手も止まる。

 中の様子を窺えば教室の中にいるのは3人の女子。しかも僕が苦手な陽キャ。


 すごく入りづらい。

 こんなことなら読みかけの本を机の引き出しに忘れるんじゃなかった。後悔しても忘れたものはどうしようもない。

 

 ……さっきの声は、陸上をやっていた浜辺夏美さんの声だ。


 「それで夏美、なにその『告白ゲーム?』とかいう頭悪そうなゲームは」


 「せっかちだなぁ春奈は。いまから説明するから、2人とも黙って聞いてって」


 「そもそもうちなにも言ってないけど……まぁいいよーどうせ暇だし」


 告白ゲームのことを聞いたのがクラス委員長を務めていて少し口が悪い櫻井春奈さん。

 暇だと言ったのが、いつも気だるげな雰囲気を醸し出し明るい髪をした冬月レイカさん。

 最後に【告白ゲーム】とか言いだしたのが、陸上で好成績を出したスポーツ系女子の浜辺夏美さん。3人ともクラスカーストのトップにいる3人で推薦で高校はもう決まってるらしい。

 

 そこに陰キャの僕が、クラスきっての陽キャな3人のいる教室に入っていくのは気が乗らなすぎる。


 でもしょうがないよな本の続き気になるし…… 

 意を決して中に入ろうとして──


 「──クラスにさぁ地味で目立たない男の眼鏡君いるよね?」


 手が止まった。


 どきりとした。心当たりがあったから。

 僕のクラスに眼鏡をかけた男子なんて僕含め2人しかいない。 

 

 教室のドアを開けるのを一回止め、またこっそりと話を伺う。

 

 「……誰だっけ? 井上……だっけ?」


 「違うわよ、井中くんでしょ? 井中 彰人いなか あきと君。もう2年くらい一緒の教室にいるんだから覚えておきなさい?」


 井中彰人。

 何言おう僕の名前だ。

 てかだれやねん井上って。


 「……さすがクラス委員長の春奈さん、よく覚えてるねぇ!」


 「やめてよ、同じ図書委員だから覚えてただけよ。パッとしない男の子としか覚えてないわ」


 ぐふっ。

 

 彼女たちは何気なく話しているんだろうけどその一言一言が僕の心をどんどん傷つけていく。

 すでに回れ右して家に帰りたい。

 聞きたくない……けどさっきの【告白ゲーム】という言葉が不穏すぎるから聞くしかない。どうやら話の主題は僕のようだから。


 なにもなければいい。

 なにもなければ僕が傷つくだけでそれで……


 「……それで夏美、その井中……君? と最初の話、何が関係あるん?」


 「んふふーいい質問だねレイカー、その質問を待ってたのよー」


 待ってましたとばかりに、薄い胸を張ってドヤ顔する浜辺さん。

 これには冬月さんも「うっざ……」と心の声が漏れている。

 ただいつものことなのか、それ以上突っ込むことはせず浜辺さんが話すのを待つ2人。浜辺さんも気にすることなく話し始める。


 「うちらさぁ部活とかも引退して、正直暇じゃない? だからさちょっとしたゲームをしようと思ってー」


 「……それが告白ゲーム?」


 「そ! 卒業までの3か月間で私たちで井中君と仲良くなってあげるわけ。あ、もちろん彼に『告白ゲーム』してるってばれないようにあくまで自然と」

 

 「それでー?」


 「仲良くなってー、よく会話とかしてたら絶対女の子に関わりなさそうで免疫ない彼のことだから、可愛いうちらの誰かは好きになるでしょー? そ・れ・で井中君に告白された人が勝ちって言うゲームだよ」


 なんだそのあほみたいなゲームは。

 人の恋愛をなんだと思っているんだ。


 「……えーでもさすがにそれは可愛そうじゃない?人の恋愛心を弄ぶなんて」


 いいよ委員長よく言った。

 そのままそんなゲームやめるように言ってくれ!


 「いやいや何言ってるの、こう言っちゃなんだけどこれは井中君もうれしいはずだよ? 井中君ってさ正直、地味だし、もさい感じじゃん? パッとしなくて」


 は、浜辺さんさすがに言いすぎなんじゃ?


 「あー、確かにー。それにちょっとぽっちゃり系だし、このまま一生彼女とかも出来なさそー」


 「……勉強もあまり出来る感じしないし、お先真っ暗ね」


 ぼろくそに言いすぎじゃないか?!

 何気委員長の櫻井さんが一番ひどいこと言ってるし。


 というかなんでそんな好き勝手僕が言われてるの?何も悪いこともしてないけど。


 僕が心の葛藤をしている間にも話は続く。


 「そんな彼に私たちが話してあげるんだよ? こんな機会そうそうないし、私たちに話しかけられたら井中君も喜ぶに決まってるじゃん。これからの人生夢も希望も持てない井中君に、私達が夢を見させてあげるんだよ? 話しかけに行くんだよ、むしろ優しいっしょ? オタクに優しい女みたいな?」


 ……くそっ。

 もしこの件を知らなかったら普通に喜んでた気がして、否定できない。

 『モテ期が来た』とか喜んでたよ絶対。


 「それに彼には、最後まで告白ゲームってネタ晴らししないし、幸せなままだよ」


 いやもう知っちゃったんだけど、もう幸せでいられないんだけど?!


 「……それ告白されたあとは私たちどうするのよ」


 「……まぁ適当に付き合って、でも進学で他県に行くからすぐ別れようって言えばよくない?円満別れみたいな」


 「いや円満別れって、私たちの進学先の高校、都内なんだけど」


 「それはまぁ嘘も方便ってやつでしょ」


 「……それもそうね」


 いや委員長納得しちゃったよ!

 結構無理ない?僕どんだけあほだと思われてるの!?


 「まぁ別にその井中のことはどうでもいいんだけどさ―、ゲームっていうからには勝った時になにか景品みたいなものあるんでしょー? 重要なのそれじゃない?」


 それじゃないよ!絶対僕の方が重要だろう。


 「そりゃもちろんあるに決まってるっしょ? 景品はなんとカラオケ2回分!」


 やっす!


 「やっす!!」 


 冬月さんと心の声が被った。

 いや安すぎるだろ僕の告白。


 「いやさすがに乗り気しないわー、カラオケ2回分の労力に見合ってないっしょー。あんなもさい男に媚びうるんでしょー?」


 「……とか言ってほんとはレイカ自信ないんでしょ?」


 「は?」


 明らかに浜辺さんの今のは挑発だ。

 ただどうもそれが冬月さんの勘に触ったらしい。


 「ほんとはレイカが井中君を惚れさせる自信がないだけっしょ?」


 「あるけど?」


 「なら余裕じゃん、受けないわけなくない?うちに負けるのそんなに怖いんだー?」


 浜辺さんが煽りに煽る。

 ぴきぴきと冬月さんの額に青筋が浮かぶ。


 「あっそ!そんなこと言うんだー、へぇいいわ受けてあげる。カラオケ2回分ね、うち料理とかも頼むからね?」


 「全然いいよ、払うのどうせあたし以外だし?……春奈はどうするん?自信ないならやめてもいいけど」


 「夏美の馬鹿、私はそんな挑発には乗らないわよ」


 呆れたように浜辺さんを見る櫻井さん。

 そうだその調子でこのゲームをやめるように言ってくれ。


 「──でもやってみるのはありよね」


 ……なんでそうなった?拒否する流れじゃなかった?


 「今後好きな人ができた時の練習だと思えばいいわよね、男性を手玉に取るため」


 この女僕を実験台にしようとしてやがる。


 「決定! じゃ期限は明日から卒業式の日までに告白させる。 それまで進捗はあんま報告しない感じでいこ……あー楽しみになってきたね」


 盛り上がる3人とは対照的に僕の心は真っ暗だ。

 なんで僕がこんな目に……。

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