第4話 オーバー・ザ・ワールド
とある研究室。そこではワールドシミュレータというシステムを使った研究がおこなわれていた。研究に携わっているのは二人。
「ああっ、また滅亡しちゃったよ」
「もう、何やってるんですか! ちゃんとしてくださいよ!」
「そんなこと言ったって、2030年くらいになると大天使ってやつが現れて、人類が滅亡しちゃうんだよ。色々とパラメータも変えてみたんだけど、ダメなんだよね」
竜二がコンソールとにらめっこしながら、キーボードを叩く。しかし、結果は変わらなかった。どうやってシミュレートしても確実に現れる災厄を前に、彼は頭を搔きむしる。
「ああ、くそっ。なんでシミュレーションだと発生すんだよ」
「もう……。どうせまた、パラメータの設定をいくつかミスってるんでしょ? どいて、代わるわ」
竜二を押しのけて、朱音がコンソールの前に座る。カタカタとキーボードを叩きながら首をかしげた。
「んん? 別に何もないじゃない。滅亡もしそうにないし、大天使とやらもいないわよ」
「ええっ、そんなバカな! 確かに俺は確認したはずなんだよ……」
「もう、ログを追ってみるしかないわね……。ん? 確かに改ざんされた形跡があるわ。竜二! どうしようもなくなって、変なことしたんじゃないの?」
ログを見ながら、朱音は彼を怒鳴りつける。一方の竜二は全力で首を横に振って否定していた。
「い、いや、なんもしてねえよ!」
「ホントに……。ん? これは改ざんとは少し違う? 内部的に分岐しているわね。原因は……。月読玲華……。それと、エイワス?!」
「えっ? エイワスって……」
突然現れたエイワスという言葉によって、二人の間に動揺が走る。それは先輩である
「ちょっと待って、ログを追っていくわ……。あ、この月読玲華って、『根源』の異能を持っているわね」
「それも、先輩のメモにあった……」
何回かシミュレートしてわかったことだが、大天使の出現前後に異能の力を持つアバターが生まれる。それが大天使と戦い、世界を崩壊させるのがいつもの結末だった。だが、先輩のメモに書かれていた『根源の異能』については、大天使に関連した形で見つかったことがなく、謎のまま放置されていた。
「でも、これで先輩のメモに残されていた謎のキーワードは全部見つかったことになる。このアバターを追っていけば、先輩の失踪の理由もわかるはずよ」
「ちょ、危なくねえのかよ!」
「危険なのは百も承知よ」
「チッ、先輩といい、研究となると見境がなくなりやがる……」
そんな話をしながらログを追っていた朱音は不意に首をかしげて唸る。
「んんん? おかしいわね。このタイミングで月読玲華とエイワスの痕跡がなくなっているわ。跡形もなく」
「おいおい、それはどういうこと――」
竜二が朱音に詰め寄ろうとした瞬間、二人の背後から声が聞こえた。
「ここは?」
「ここが神を作った元凶のいる世界よ。ほら、そこにいる二人が……そう」
「こいつらが……」
私の前にいる二人の人間。彼らが私たちを貶めた元凶。そう思うと必然的ににらみつけるようになる。しかし、その二人は私たちを見て怯えるだけだった。偽りの神ですらふてぶてしい態度だったことを考えると、拍子抜けしそうだ。
「油断しないで。あの二人の根源も見えるでしょ? あなたなら、それを奪い取ることもできるわ。そうすれば、この世界で平和に暮らせるようになるわよ」
「そう……。確かに見えるわ」
そう言いながら私は二人に近づく。怯えて腰を抜かしてしまった二人は、逃げるどころか声を出すこともできない様子だ。そのまま二人の根源に手を伸ばすと、それを一気に引っこ抜く。
「これでいい?」
「ええ、そうしたら、この二つの根源。一つは玲華が、もう一つは私が頂くわ。それでいいでしょ?」
「うん」
私は気付いていなかった。エイワスが彼らを見ながら残酷に微笑んでいることに。なぜなら私が彼女を見た時には、優しく微笑みかけていたからだ。
私は疑うことなく、根源の一つをエイワスに渡す。そして、残ったもう一つを自分の中に押し込んだ。
「これで私も玲華も、この世界の人間。さぁ、行きましょう。私たちは自由よ」
「うん。行こう、エイワス」
こうして、私はエイワスと共に神よりも上の世界の住人となった。根源を奪われた二人は行方不明として扱われた。ワールドシミュレータのプロジェクトも凍結され、加齢アルゴリズムも停止。私は年を取らなくなっている。だが、彼らから奪った根源は摩耗するため、適宜補充する必要があった。
「う、うわあああ」
「きゃああああ。祐樹! しっかりして、誰? あっ!」
今日も私の異能で二人の根源が失われた。抜け殻となった彼らは居ないものとして扱われ、行方不明として扱われるだろう。だが、それが何だというのだ。私は罪深い彼らのせいで、ずっと同じ苦しみを味わってきたのだから。
「最近は手慣れてきたじゃない」
「まあね。同情しても結果は一緒でしょ。それに、この世界にはこんなにもたくさん罪深い人間たちがいるんだもの」
「そうね。彼らは罪を償わないといけない。私たちは、その手助けをしているだけ」
「うん、これでしばらくは大丈夫。さあ、行こう。今日は私の誕生日だからね」
今日は私がこの世界にやってきて、はじめて根源を奪ってから、ちょうど一年。大変なこともあったけど、そんなことなど気にならないくらい楽しい日々だった。
「今日は、パーッと美味しいモノを食べよう!」
「いいわね。私も楽しみだわ!」
こうして、この世界に解き放たれた異物は、世界の一部として生き続けるのだった。
楽園の天使は終末を告げる~虐げられた少女は役立たずと思われた異能『根源』で救世主となり、世界を超える~ ケロ王 @naonaox1126
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