一匹狼の少女は私のために歌ってくれる。
ぎゅうどん
一曲目"孤独という言葉は一緒"
みっ皆さん…初めまして…私、憂地木兎、16歳…
今年の春から家の近所にある女子校に入学した高校一年生の女子です…
今、私はあることでとても悩んでいます…
それは入学してから一ヶ月も経つのに友達どころかまともに話が出来る相手が一人も居ないこと…
いわゆるぼっちなのです…
私は内気な性格なので積極的に人に話しかける方ではなく逆に話しかけられてもオドオドして言葉を詰まらせて話してきた相手を困惑させてしまいます…
自分が人付き合いが上手じゃないのは分かっていたつもりでしたが…これじゃ中学の頃と何も変わらない…
中学の頃もこの内気な性格のせいで…友達は居ませんでした…
まぁ…私みたいな内気の根暗なんかと友達になりたい人なんているわけないと思いますが…
「わっ!」
「きゃっ!」
私は考え事をして上の空だったせいか廊下で人とすれ違う時に肩をぶつけてしまった…しかもその相手は両耳にピアス、髪は金髪のヤンキーを絵に描いたような少女でした!
「痛てて…」
「あわわぁ!ごっごめんなさい!
私ちゃんと前を見て歩いてなかったから…」
寄りにもよってこんな怖そうな人にぶつかるなんて…私の学校生活、本気で終わったと思いました、しかし…?
「前見て歩かないと危ないだろ?今度から気をつけろよ。」
「えっ?あっはい…?」
カツアゲでもされるかと思ったのに彼女はそれだけを私に忠告して何事もなかったようにそそくさと歩いて行った。
「ねぇねぇ今の見た?あの子、超ラッキーだったね?」
「ねぇ!あの入学一日で校則を破って有名になったあの尾鬼神さんにぶつかって何もされなかったなんて!」
話してる人達の会話で思い出した!
「そっか、あの人が隣のクラスの尾鬼神さんか…
でも噂で聞いてたより、怖い人じゃなかった気が…」
そんなアクシデントから時間が過ぎてお昼休みになった。
(等々、お昼休みだ…誰か私と一緒にお弁当食べようって、誘ってくれるわけないよね…ここで食べても気まずいから、やっぱりあそこに行こう…)
私はいつものように弁当袋を持って教室を出ると校庭の隅にぽつんと置いてある木のベンチに向かった、ここには滅多に人が来ないから隠れて食べるにはうってつけなのです…
「頂きます…」
「あれっ、先客が居るとは思わなかった。」
「えっ?」
「よっ。」
現れたのはさっき廊下でぶつかった何かのケースを背負った尾鬼神さんだった!
「おまえって確か廊下でぶつかった奴だよな。」
「どっどうしてあなたがこんな所に!」
「理由は同じだと思うが?」
「えっ?」
「アタシも大勢の前で飯食うのが苦手なんだよ。」
「ああ、そういう…」
「同席しても構わねぇか?」
「どっどうぞ…?」
「さんきゅ。」
背負っていたケースを立てかけると私の隣に座って、購買で買ったんだろうパンを食べ始めた、正直、ほぼ初対面みたいなもんだし、気まずい…
「なんか物足りねぇ、パンもう一個買えばよかった。」
「あっあの、よかったらお弁当、半分食べますか…?」
「おっ、いいのか!」
「ちょっと食欲がないもんで…」
「さんきゅ。」
この人が居る事が原因なんだけども…そうは思いつつもお弁当の蓋におかずを半分に分けて、予備の割り箸と共に渡した…
「うんめえ!お前のおふくろさん料理上手なんだな?」
「あっいや、お弁当を作ったのは私です…」
「本当か!すげえじゃん!」
「そっそんなこと、普通ですよ…」
人から褒められたの久しぶりだったからちょっと嬉しかった。
「ふぅ、ご馳走さん、マジで美味かったぞ、ありがとう。」
「いえいえ…」
「こんな感じに優しくしてくれたのはこの学校に入って初めてだ、いい奴だな、おまえ。」
「そんな…」
「アタシ、尾鬼神実莉ってんだ。」
「私は憂地木兎です…」
「よろしくな、憂地木。」
「こちらこそです、尾鬼神さん…?」
あの尾鬼神さんと知り合いになるとは、世の中何があるかわからないものだなぁ…
「うっし、お弁当のお礼に一曲歌ってやるよ。」
「えっ?歌ですか?」
「ちょっと待ってな。」
彼女がケースから取り出したのはギターで、それを耳だけでチューニングしたようだった。
「尾鬼神さんってギターが弾けるんですか?」
「趣味で弾いてるだけどな、弾いてほしい曲とかあるか?」
「とっ特には…?」
「そうか、だったらアタシが好きな歌でもいいか?」
「えっええ…?構いませんが…?」
「じゃあ、歌うぞ。」
ギターを弾きながら彼女は歌った。知らない曲だったけど涙するほど感動した…なぜならヤンキーみたいな姿からは想像出来ないくらい彼女の歌声があまりに綺麗でまるで天使が歌っているようだったから…
「どうだった?」
「かっ感動しました…尾鬼神さんって歌が上手なんですね…」
「おいおい、泣くほどかよ、大げさすぎだぞ?」
「また聞きたいと思いました…」
「そうか、また聞かせてやってもいいぞ?」
でも偶然にもチャイムが鳴った。
「あっ、チャイム鳴っちゃった…すみません、せっかく聞かせてくれようとしたのに…?」
「だったら明日も聞かせてやるよ。」
「明日も?」
「お昼休みになったらここに来るだろう?」
「はっはい。」
「アタシもここに昼飯食いに来るから、また歌聞かせてやるよ。」
「でっでもわるいですよ!尾鬼神さんに何のメリットもないじゃないですか?」
「メリットか、じゃあよ、アタシの分も弁当作ってきてくれるか?」
「そっそんなのでいいんですか…?」
「憂地木の弁当美味しかったからな、また食べたい。」
「わかりました!必ず作ってきます!」
「さんきゅ、それじゃ、またな。」
「はい。」
尾鬼神さんと私はその場を後にした。
「お弁当、美味しかったか、ふふふ。」
‐次の日のお昼休み‐
「今日のお弁当も美味かった。」
「そっそうですか。」
「でもまさか本当に弁当作ってくるとはな。」
「えっ?」
「朝に二人分も作るの大変だったろ?作ってこなかったらこなかったでよかったんだぞ?」
「約束しましたから。」
「あはは、律儀な奴だな?」
「また嫌われたくないですから…」
「なんだそれ?」
「私、こんな内気な性格であまり上手く人と話せない人間ですから…人から避けられたり嫌われたりするんです…だから嫌われないようにしたいって気持ちが強くて…」
「ふーん、なんかアタシと似てるな?」
「尾鬼神さんと…?」
「アタシもこの見た目だからな、よくヤンキーとか勘違いされて、皆が避けたり嫌ったりするんだよ。」
「なっなるほど、確かに似てますね?」
「うっし、決めた。」
「何をですか?」
「今日、歌う歌は即興にする。」
「そっ即興ですか?」
「まぁ、下手かも知れないが、ものは試しに聞いててくれ。」
「はっはい。」
彼女は昨日と同じくケースからギターを取り出して、ギターを弾いて歌い始めた。
"不思議なもんだ、アタシと君はまるで違う正反対の人間なのに
似てる所もある、それは孤独なこと。
アタシは世間の偏見で、一方の君は自分に自信がなくて
意味は違えど同じ孤独に違いはない。
そう、孤独という言葉は一緒、だから似てる。
キミとアタシは同じ孤独なんだ、きっと誰より仲良くなれるはず、近くなれるはずさ"
歌い終わり、ギターを止めた。
「どうだった?」
でもすぐに感想は言えそうになかった、だって聞いていた私は涙が止まらず話せなかったから…
そりゃそうだ…あんな綺麗な歌声で私の孤独を理解してくれてると肯定してくれる歌詞を歌ってくれたんだから…
「おいおい、そんなに泣かなくても。」
「あんな歌詞を歌っておいて、何を言いますか…」
「響いたってことか?」
「はい…」
「そうか。」
尾鬼神さんは微笑むと、そっと肩を抱きしめてくれた。
「心配すんな、これからおまえの良さに気づいてくれる人が必ず現れるよ。」
「そうですか…?」
「良さに気づいたアタシが言うんだ、間違いない。」
「一体何ですか、それは…?」
「純粋な所だよ。」
「なっ…」
私はそれを聞いて、顔が赤くなった。
「うっし、今さらだけど言うぞ?」
「何ですか?」
「友達になろうぜ、憂地木。」
「はっはい!」
「いい返事だ。」
この日、内気な私と一匹狼の尾鬼神さんは友達になった。
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