第17章 レイニー

次に店を訪れたのは、レイニーという女性だった。彼女は非常に感謝の気持ちを大切にし、常に他者に対して思いやりを持つ人物で、周囲の人々を支え、調和を保とうとする。自分の長所を上手に活かすことができ、他者の良さを見出すのが得意だ。ストレス耐性も強く、どんな困難な状況でも冷静に対処できる。しかし、そんな彼女にも弱点があり、自分の感情を他者に伝えるのが苦手で、時折自分に素直になることを忘れてしまう。感謝の気持ちを伝えるのは得意でも、自分の内面的な幸せを感じることに対しては、どこか遠慮している部分がある。

レイニーは店に入ってきたとき、軽く微笑んで光一に挨拶をし、少し緊張した様子でカウンターに向かって歩み寄った。彼女の顔には穏やかな表情が浮かんでいたが、その目にはどこかためらいが見え隠れしていた。光一はその微妙な変化を感じ取りながら、穏やかな声で言った。

「こんにちは、レイニーさん。どうぞ、お話をお聞かせください。」

レイニーはその言葉に少しだけ安心したように頷き、かばんから小さな包みを取り出した。それは手作りの石で彫られた像で、非常に精緻で美しいものだった。細かい彫刻が施されたその像は、どこか神聖な雰囲気を持ち、温かい手触りが感じられる。

「これは、私が手作りで作った像です。」レイニーは静かに言った。「私はこれを作ることで、自分の感情を表現したかったんです。感謝の気持ちや、他の人への思いを込めて。」

光一はその像を手に取ると、その形状と重みに驚きながらも、その細やかな彫刻に込められた思いを感じ取った。レイニーが自分の感情を表現するために時間をかけて作り上げたことが、細部から伝わってくる。しかし、彼女の表情には少しだけ苦しさが見え隠れしていた。

「でも、最近、これを作ることがだんだんと辛く感じるようになってきました。」レイニーは少しだけ顔を曇らせながら続けた。「他の人に感謝の気持ちを伝えることは得意でも、私はどうしても自分が本当に幸せだと感じることができなくて…」

光一はその言葉に少し驚きながらも、じっとレイニーの顔を見つめた。彼女は他者にはとても優しく、調和を保とうとするが、実際には自分の感情に素直になれないことに悩んでいるのだろう。そのため、自己表現が思うようにできなくなり、その結果、少しずつ彼女の心の中で葛藤が生まれているのだ。

「私は、感謝の気持ちを伝えることができても、それが本当に自分の心からのものなのか、時々わからなくなることがあるんです。」レイニーは静かに言った。「他の人の幸せを願う気持ちは強いのに、自分が幸せだと感じることができない。だから、この像を作ることも、どこか義務のように感じるようになってきました。」

光一はその言葉をしっかりと受け止めながら、静かに答えた。「レイニーさん、あなたが他の人に感謝の気持ちを伝えることはとても素晴らしいことです。しかし、あなたが自分自身に対して素直になり、自分の幸せを感じることも大切です。この像は、あなたが他者への感謝を表現するためのものであり、その思いは間違いなく素晴らしいものですが、時には自分を大切にすることも忘れないでください。」

レイニーは少し黙ったまま、光一の言葉を反芻していた。そして、しばらくしてから、静かに頷いた。彼女の表情には、少しだけ解放されたような、柔らかなものが浮かんできた。

「ありがとう、光一さん。」レイニーは小さく微笑んだ。「少しだけ、自分に素直になれる気がします。感謝の気持ちを持ちながらも、私自身の幸せも大切にしたいと思います。」

光一はその瞬間を写真に収めることに決めた。レイニーの表情には、過去の自分に囚われず、前向きに自分を大切にする意志が感じられた。自分の感情に素直になり、他者への感謝と共に自分の幸せを大切にすることが、レイニーにとっての成長の一歩になるだろう。

シャッター音が響き、その瞬間が写真として残された。レイニーは感謝の気持ちを込めて、軽く頭を下げ、店を後にした。その背中には、少しだけ自信を持ちながら、前に進んでいこうとする力強さが感じられた。

光一はその後、レイニーが持ち込んだ石像をじっと見つめながら、彼女の心の中での変化を感じ取った。過去の自分に縛られず、前向きに自分を大切にすることができれば、レイニーはより一層輝く存在になるだろうと光一は信じていた。

第17章終


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