第10章 マックス

次に店を訪れたのは、マックスという男性だった。彼は非常に冷静で理性的な性格を持ち、物事を観察し、計画的に進めることを重視している。目の前の状況をしっかりと把握し、着実に結果を出すことを求めるタイプだが、そのために他人の感情に少し無頓着になりがちなところがある。周囲の人々からは頼りにされる存在だが、どこか冷たく感じることもあるだろう。彼の冷静な判断力の裏には、感情的なつながりに対する不安や、過去の経験から来る慎重さが隠れているのかもしれない。

マックスが店に入ってくると、その無駄のない歩き方と冷静な眼差しが、周囲の空気を少しだけ引き締めた。彼はカウンターの前に立つと、落ち着いた声で言った。

「こんにちは、光一さん。少しお話ししたいことがあって来ました。」

その声は穏やかでありながらも、どこか緊張感を漂わせていた。光一はその姿勢を感じ取りながら、穏やかに答える。

「もちろん、どうぞ。」

マックスは少しためらいながらも、静かにかばんからアイテムを取り出し、それを光一の前に置いた。それは、木製の風車だった。風車の羽根は細かい木の板で作られており、全体として非常にシンプルだが、どこか精緻さを感じさせるデザインだった。その風車は小さなものだが、細部まで丁寧に作られており、ひと目見ただけでマックスの手によって作られたことが分かる。

「これは、私が自分の手で作ったものです。」マックスは静かに説明した。「昔、家族との時間を大切にしていた頃に、作り始めました。あの頃は、すべてがうまくいっていたと思います。」

光一はその風車を手に取ると、その質感が心地よく、どこか温かさを感じた。木の香りと手のひらに伝わる質感が、マックスがこの風車に込めた思いを感じさせる。しかし、その背後には、彼の言う通り、何か過去に残された痛みや思いが隠れているような気配を感じた。

「でも、最近になって、すべてがうまくいかなくなりました。」マックスは少し苦しげに続けた。「家族との関係が壊れていく中で、この風車を作った意味が薄れていくように感じていて…今、手に取ると、その時の気持ちが何かに引き寄せられているような気がして、どうしていいかわからないんです。」

光一はその言葉をじっと聞きながら、マックスの中にある葛藤を感じ取った。マックスは冷静に物事を判断し、計画的に行動する人物であり、何事にも結果を求める。しかし、その冷静さが時に彼自身を孤立させ、過去に大切にしていた人とのつながりを失ってしまうことになったのだろう。この風車は、彼にとって過去の幸福な時間を象徴するものだが、同時にその時間が失われたことを思い出させる重い存在となっている。

「この風車を手放すことで、過去と向き合えると思っているんです。」マックスは深く息をついて言った。「でも、手放した瞬間に、その過去が完全に失われてしまうような気がして、どうしても決断ができないんです。」

光一はその言葉に共感しながら、少しだけ微笑んだ。「過去を手放すことは、簡単ではないかもしれません。でも、それが新しい未来に向かうための一歩だと思います。この風車が過去の象徴であるなら、その思い出はあなたの中で生き続けます。物を手放すことで、あなたが次に進む力が湧いてくるのかもしれません。」

マックスは静かにその言葉を受け入れ、しばらく黙っていた。そして、ゆっくりと頷いた。「ありがとう、光一さん。少し、心が軽くなった気がします。」

光一はその瞬間を写真に収めることに決めた。マックスの表情には、わずかながらも解放感と、未来に対する希望が感じられた。過去を手放すことができれば、きっと新しい一歩を踏み出すことができるだろう。

シャッター音が響き、その瞬間が写真として記録された。マックスは静かに風車を包み直し、感謝の言葉を口にして店を出て行った。その背中には、まだ過去の影が少し残っているものの、新たな未来に向かって歩き出す力が感じられた。

光一はその後、マックスが持ち込んだ風車をじっと見つめながら、彼がこれからどんな選択をするのかを思い描いていた。その風車が象徴する過去は、確かに大切なものだ。しかし、それを手放しても、マックスの未来にはまだ多くの可能性が広がっているのだろう。

第10章終


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