痴呆の老婦人

ツヨシ

第1話

新しい病院に赴任した。

看護婦として。

最初に注意すべき入院患者を二人教えられた。

一人はまだ二十歳の男性。

若いのに半身不随になっているという。

それ以外は元気で、若くして下半身が動けなくなってしまったことで自棄になり、言動が攻撃的で理不尽だという。

まあ、気持ちはわからないでもないが。

もう一人は七十四歳の老婦人。

痴呆がかなりすすんでいて、意味不明なことを言うそうだ。

相手にしないようにと言われた。

相手にすると不毛な会話が延々と続くのだと言う。

というより、まともな会話にはならないそうなのだが。

まあ、どこにでも問題がある患者はいる。

前の病院でもそうだった。


ある日、問題の老婦人が突然話しかけてきた。

私に話しかけたのかと思ったが、その目は私の右肩のすぐ上あたりを見ている。

悲しそうな眼で。

老婦人のそんな眼は、普段は見ないものだ。

「おやおや、坊や、血まみれで痛そうだね。かわいそうに。何にもしてあげられなくて、ごめんね」

おかしなことを言うと思ったが、相手は痴呆だし、返すとよくないと言われていたので無視することにした。

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