第四十四話 計画に気づいてやろう!

「あのじーさんが言うにはここらにブジャルドなんてねえらしいが、これからどうすんだよ!?」

「フラットリーのことも、知らないみたいだったな……」


 まあ、この時代を生きていた我が輩も知らないくらいだ。

 かなり狭い範囲で活動していたに違いない。


「お、おかしいよな。フラットリーが魔法を与えたのなら、魔法を使えるお爺さんが、知らないはずがない」

「そうそう! しかも、聞いてた話と全然違うし! メプリが魔王じゃねえってどういうことだよ!?【剿滅そうめつの魔王】って何だよ!? フラットリーって信じちゃダメなん奴なんじゃねえのか!?」


 やっと気づいたか……。

 フラットリーが人間達に魔法を教えたのは嘘。

 魔王がルザ又はメプリなのも嘘。

 ブジャルドが聖地なのも嘘。

 ここまで来ると、もうフラットリーの存在自体が嘘なのではないかと思うくらいだ……。


「……嘘?」


 ふと、我が輩の頭にとある考えが過ぎった。

 転生し、ボースハイトの体を奪ったフラットリー。

 奴を見るに、千年前でも十分通用する魔法の使い手だった。

 あんな逸材を千年前の我が輩が見逃すだろうか。

 ……否、あり得ない。

 フラットリーが突然、この世界に現れたりしない限り……。


「……おい。ラウネンは何処だ」


 我が輩はコレールとグロルにそう問う。

 二人はハッとして、周囲を見渡した。


「あ、あれ? そういえば、いない……!?」

「じーさんに話しかけたときは確かにいたぜ!? 何処にいったんだ!?」


 しまった。


「嵌められた!」


 我が輩は憤慨し、地面を叩いた。

 その音が荒地に虚しく響く。

 我が輩の只事ではない様子に、コレールが心配そうな顔で我が輩に聞いた。


「ど、どういうことだ? ウィナ。嵌められたって……?」

!」

「え!?」

「全てはラウネンの嘘だったのだ!」


 過去と未来を掌握する【掌握王】ラウネン。

 奴は時間操作や時空間操作だけでなく、人間に偽りの過去を植え付ける魔法も得意としている。

 ラウネンは人間達に偽の記憶を植え付けたのだ。

『フラットリーという偉人がいた』と。

 人間に魔法を与えた聖人、人間を救う救世主などと謳って。

 フラットリー教やフラットリー文書などを作って真実味を帯びさせ、人間達に信じ込ませた。

 フラットリーなど、存在すらしていないのに……。


「フラットリーがボースハイトの身体を乗っ取ったのは、転生なんてものではない……」


 ただ、ボースハイトの人格と記憶が、ラウネンに都合よく創られた人格と記憶に、上書きされたに過ぎなかったのだ。

 フラットリーが我が輩を知ってたのも、ラウネンがフラットリーの創造に関わっていたからだろう。

 ラウネンにとって、フラットリーを消そうとする我が輩は邪魔な存在だ。

 だから、ラウネンは我が輩を千年前に置き去りにした……。


「全て……。全てが……ラウネンの手の上……」


 我が輩は悔しさに、ぎりぎりと奥歯を鳴らした。


「つか、ラウネン様がいなくなっちまったら、どうやって元の時代に帰るんだよ!? 時を超えられる魔法を知ってる唯一の人だぞ!?」


 グロルが突然慌て出す。


「それに関しては問題ない。百年単位の《時空間移動》はそらで出来る」

「で、出来るのか……」


 コレールは困惑した。


「しかし、先程の《千年時空間移動》でかなりの魔力を使ってしまった。千年分超える魔力は今ない。だからといって、魔力が回復するまで待っていられない」


 ラウネンは時間魔法のエキスパート。

 我が輩を千年前に閉じ込めるぐらい造作もない。

 出来るだけ、我が輩が不在の時間は作ってはならない。


「じゃあ、どうするんだ……?」


 我が輩程の魔力を有している者から魔力を借りるしかない。

 例えば、四天王……。

 ラウネンは論外だ。

 あいつはこの時代の自分にも根回しを終えているだろう。

 ルザは我が輩程の魔力を有しているかわからない。

 最弱王という名は伊達ではないのだ。

 メプリとは話す前にコレールとグロルが殺される。

 千年後、ラウネンとの戦闘を考えると、蘇生する魔力を節約したい。

 そうすると、四天王最後の一角、クヴァールだけとなるが……。

 ……期待出来ない。

 あいつは、話すだけ無駄だろう。

 他に、我が輩程の魔力があり、この時代を生きる者はいるか……?


「……はは」


 我が輩は自分の思いつきに思わず笑ってしまった。

 ……条件に当てはまる者が一人いるではないか。


「【剿滅そうめつの魔王》に魔力を借りる」

「は!?」


 千年前の我が輩ならば、《千年時空間移動》を楽々発動出来るだろう。

 千年前と言えば、勇者が来なくなり始めた頃だし、魔力は有り余っているはずだ。


「安心しろ。一度発動した魔方陣は忘れぬ」

「重要なのそこか!? 魔力が足りないんだよな!?」

「魔王の目の前で魔方陣を描いて、発動して貰う」

「いやいやいや! 発動して貰うって、どうやって頼むつもりだ!? 殺されて終わりだ!」

「問題ない。我が輩に策がある」


 我が輩を言いくるめる方法は、何より我が輩自身がよく知っている。


「では、いざ、魔王城へ」


 コレールとグロルの腕を掴み、グッと足に魔力を込める。

 そして、目的地の方角へ、高く跳び上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る