第九話 パーティを組んでやろう!

 学院生活にも慣れてきた頃。


「明日から五日間、パーティを組んで【ティムバーの森】を探索して頂きますな」


 バレットが教卓に立ってそう言った。


「ティムバーの森?」


 我が輩は聞き返す。


「学院の近くにある魔物が出る森ですな。魔物はそこまで強くないですから、初心者向けのダンジョンですな」


 初心者向けがどの程度の難易度なのかはわからんが、弱い人間の子供が出かけられるくらいだ。

 かなり歩きやすいダンジョンなのだろう。

 ピクニックには最適かもしれぬ。


「皆さんには森の中心にある【ティムバー洞窟】を目指して頂きます。洞窟内部にドッグタグが置いてありますから、それを取ってきて頂きますな」


 バレットはドッグタグの見本を見せる。

 ドックタグのプレートにはブレイヴ学院の校章が刻印されている。

 そのドッグタグを取ってきたことが洞窟に辿り着いた証明になるのか。

 正に探索クエストだな。

 いくつになっても探索はわくわくするものだ。

 存分に楽しませて貰おう。


「先生、質問」


 教室の隅にいるボースハイトが徐に手を上げた。


「何ですかな? ボースハイトくん」

「ティムバーの森ってそんなに広くないよね? 洞窟に行って戻ってくるのに五日もかからないと思うけど?」

「多く見積もって五日ですな。広くはないですが迷わない訳ではないですからな」

「じゃあ、早く帰ってきたら?」

「自習ですな」


 その言葉にクラスメイト達が色めき立つ。

 学院生活を送る中で知ったのだが、『自習』とやらは多くの生徒にとって喜ばしいことらしい。

 ボースハイト曰く、「教師が不在で、何してても怒られないから」だという。

 常に自由な我が輩には関係ない話だ。


「先生達が森の中を見回っているので、リタイアしたいときはいつでも声をかけて下さいな」

「くすくす! ティムバーの森でリタイアするようじゃこの先やっていけないよ」

「ゆ、油断は禁物だ。よ、弱いとはいえ、魔物が出る。下手したら、死ぬんだ」

「コレールくんの言う通りですな」


 バレットは教卓を強く叩く。


「魔物に襲われ死ぬ。その覚悟と準備が出来た者だけ森に入りなさい」


『自習』の言葉に浮ついていた教室内が、しん、と静まりかえった。

 死ぬのが怖くて殺し合いは出来ないが、死ぬのを考えず殺し合いするのとは訳が違う。

 気を引き締める意味では良い脅しになっただろう。

 バレットは重い空気を振り払うように二回手を叩いた。


「はーい。では、パーティを組んで下さーい」


 その言葉を聞いて、クラスメイト達が席を立ち始める。

 ダンジョンを歩く際、人間は仲間達と行動する。

 その仲間を人間達は〝パーティ〟と呼ぶ。

 我が輩はいつもダンジョンを歩かせる側だったから、パーティを組むのは初めてだ。

 どんな奴と組もうかと視線を彷徨わせていると、キョロキョロしていたコレールとばっちり目が合った。

 貴様だ。


「コレールよ、我が輩が組んでやろう」

「だ、誰が魔族、なんかと……」


 コレールは視線を下に落とす。


「き、基本的に、パーティを組むのは、同じ職業の人とだけだ」

「戦士だけのパーティ? バランスが悪いではないか」

「それが普通だ。お、お前は、魔法使いと組めば、良いだろう。あ、あいつとか」


 コレールは教室の隅を指差した。

 そこではボースハイトが退屈そうに欠伸をしている。

 確かにあの様子だと組む人はいなさそうだ。


「ボースハイトよ! 組む人間がいないのか? なら、我が輩達が組んでやろう!」

「た、達?」


 横でコレールがぶつくさ言っているが、我が輩は気にしない。

 貴様はもう我が輩のパーティだ。

 そして、ボースハイトも。

 ボースハイトはこっちを見てニッコリと微笑んで言った。


「嫌」


 良い笑顔だったのに……。


「僕は群れない。足手まといはいらない。一人で行く」

「なるほど。ぼっちか。可哀想に……」

「は? ぼっちじゃないけど?」

「じゃあ、一緒に行こう。決まりだ」


 今、我が輩のパーティにはコレールとボースハイトがいる。

 この面子なら……あいつも入れたいな。

 そう思い、我が輩は最後の一人に声をかける。


「グロルも我が輩達と来るが良い」


 そう、コレールやボースハイトと一悶着あったグロルだ。

 あれ以来まともに話してないが、これを機にまた話してやろうではないか。

 グロルはこちらを一瞥してこう言った。


「私は既に清廉な者達とパーティを組んでおります。穢れた者達は穢れた者達でパーティを組んで下さいませ」


 どうやらグロルは他の僧侶達とパーティを組んでしまっているようだ。

 グロルの周りにいる僧侶達が冷たい目を向けてくる。

 しかし、簡単に折れる我が輩ではないぞ。

 折角のピクニックなのだ。

 仲の良い奴と行きたいではないか。

「仲良くもないし、ピクニックでもないですな」とバレットの視線が背中に刺さるが知らない。

 ふむ。

 あまり好ましくないがあの手を使うか……。


「良いのか? あのことをバラしても」

「あのこととは……?」

「貴様は教団から【神聖の果──」

「ああああああああああ!」


 グロルは大声で我が輩の声をかき消した。

 いきなり大きな声を出したせいで、周りの僧侶が驚いている。

 グロルは大きく咳払いをした。


「わ、わかりました。、貴方とパーティを組みましょう」


「脅されて仕方なく」を強調して言った。

 やはりこの男は抜け目がない。


「よし。このパーティでティムバーの森に行くぞ」

「い、いや待て! お、俺は組むなんて、一言も言ってない!」

「僕は断ったんだけど?」


 コレールとボースハイトな駄々をこね始めた。


「そうか……力尽くが好きか……。我が輩も好きだ」


 我が輩はそこいらの魔物より強いぞ。


「教室内で暴れようとしないで下さいな」


 バレットが空気を読まずに話しかけてきた。

 やれやれ、これから楽しくなりそうだったのに。


「ここはこのメンバーで決まりですかな?」


 コレールがブンブンと首を横に振る。


「き、決まりじゃないです!」

「しかし、他の人はもうパーティを組んでしまったようですしな……」

「えっ」

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