番外編~フローラの日記~
✕年〇月△日
本日、キルシュライト家の屋敷へと帰ってきました。
正直、ダイスラー家のクルト様は苦手だったので、こうしてキルシュライト家の屋敷で暮らせるようになって、とても嬉しいです。
家に帰れることは嬉しいのですが、最初に話を聞いた時はとても驚きました。
でもそれ以上に驚いたのは、お兄様と面会した時のことです。
……誰ですか!? あれは本当にお兄様ですか!?
お兄様といえば、メイドさんたちにも横柄な態度を取る傲慢怠惰なお方で、少し……いえ、かなり近寄りがたく感じていました。
でも今日お兄様の部屋に入ってみたら、てきぱきと公務をこなされていたんです!
話してみれば、相変わらず態度は大きめですけど、その奥にどこか柔らかさもあるような印象を受けました。
しかもお兄様は、キルシュライト家を立て直すとおっしゃったんです!
それには私の力が必要だとも言ってくれました。
私のことを“家族”とも言ってくれました。
私はお兄様のことを誤解していたのかもしれません。
ごめんなさい、お兄様。
今日から私はお兄様のために、命の限りを尽くして働きます……!
あ、それと、これはお父様の葬儀でお会いした時も……というか、ずっと思っていることなのですが。
お兄様、お顔立ちが強すぎませんか?
※ ※ ※ ※
✕年〇月△日
キルシュライト家に戻ってきて、今日でちょうど二週間になりました。
今日はなんと、私に妹ができたんです!
名前はメディちゃんといいます。
とてもかわいいです。
かわいすぎてどうしようかと思います。
最初はちょっと怖がられていたけど、一緒にお風呂に入っていろいろお話していたら、すぐに仲良くなれました。
すごく良い子です。
あとかわいいです。
メディちゃんには猫のお友達、ラルちゃんがいます。
ラルちゃんもすごくかわいいです。
撫でさせてくれます。
でもラルちゃんは、私よりお兄様の方がお気に入りみたいで、お兄様に向けてにゃーにゃー鳴いていました。
お兄様はどうすればいいか分からなかったのか、ちょっと困り気味でした。
そんなお兄様も、何だか少しかわいかったです。
今日はみんなかわいい日でした。
お兄様、カッコいいだけじゃなくてかわいいも出せたんですね。
魅力の宝庫すぎませんか?
※ ※ ※ ※
✕年〇月△日
また屋敷に人が増えました。
今度はお姉様です。
名前はエルザお姉様といいます。
すごく背が高いです。
見た目にはすごくかっこよくて、でも話してみると……やる気がないって言ったらすごく失礼だけど、良い意味で力の抜けた面白い方です。
屋敷でエルザお姉様とすれ違ったクリストフさんが、「強いな」って呟いてるのが聞こえました。
戦士の勘? ってやつだと思います。
エルザお姉様、強いみたいです。
でも私は、お兄様の方が強いと思います。
だってお兄様なので。
それにしても、屋敷に戻ってきてからいろんなことが急展開で進んでいます。
キルシュライト家再興へ向けたお兄様の深い考えと計画には驚かされますし、私も全力で力になりたいと思います。
正直、疲れてしまうこともあるけど、お兄様が私を頼りにしていると考えるだけで、大陸を一秒で一億周走れそうなくらい力が湧いてきます。
……できることなら、このお兄様の姿をお母様に見せてあげたかったです。
今日もお兄様はかっこよかったです。
※ ※ ※ ※
✕年〇月△日
私は最近、お兄様が恐ろしく感じます。
恐ろしいと言っても、悪い意味ではありません。
私のお兄様は、本当にすごいんです。
なんと、先日お兄様が騎士たちに調査を命じられたエリアで、豊富な鉱産資源が見つかりました!
これがあれば、回復してきたキルシュライト家の財政を、一気に完全復活へと持っていくことができるかもしれません!
それにしても恐ろしいのは、お兄様がまるで、最初からあそこに鉱床があると分かっていたかのようだったことです。
しかも、クリストフさんがダンジョンを見つけた話をしたのですが、その存在もすでに知っていたかのような口ぶりでした。
お兄様は将来、どんなお方になるのでしょう。
きっと、私なんかの想像が及ばないほど大きな存在になるはずです。
そう考える度に、ゾクゾクしてきます。
ひとまず、ここからはお兄様に認めていただけるような鉱石の採掘計画を作ることに集中します。
なにせ、お兄様が「期待している」と言ってくださったので。
ええ、これはやらないわけにはいきませんよ。
お兄様が私に期待しているんですから。
お兄様が……私に期待している……。
いけませんね、どうしても口角が上がってしまいます。
今日はお兄様の「期待している」ボイスを子守歌代わりに寝たいと思います。
※ ※ ※ ※
✕年〇月△日
あっという間に、屋敷に戻ってきて一年が経ちました。
この日記も、ちょうど一年ですね。
読み返してみると、本当にいろんなことがあったなと思います。
今日、お兄様に財務報告書をお渡ししました。
本当にキルシュライト家は再興してしまいました……。
お兄様の能力は本当に素晴らしいです。
領民のみなさんは、私のことをたくさん褒めてくれているみたいです。
それは嬉しいけれど、もっとお兄様が認められてほしいなとも思います。
でもお兄様は、まだ満足しておられないはずです。
それに新たな問題も出てきて、領内の盗賊団が活発しているみたいです。
お兄様とエルザお姉様が、直々に調査に出られました。
二人のことですから、きっと心配ないと思いますが、ちょびっと不安です。
お兄様が危険に立ち向かう度に、少し胸が痛むんです。
きっと、また肉親を失うのが怖いんだと思います。
でも私はお兄様の邪魔はしたくないし、むしろ力になりたい。
だからこそ、自分に武芸や魔法の才能がないのは悔しいけれど、その分ほかの面でお兄様を支えられるように頑張りたいと思います。
お兄様、エルザお姉様、どうかご無事で。
出かける時のお兄様、黒マントに黒仮面も持ってて黒一色の服装だったんですけど……。
ちょっとかっこよすぎたので、こっそりお兄様のクローゼットにああいう系統の服を増やしておこうと思います。
瞳がかなり目立つ青なのでね!
顔立ち的にもああいうの似合うんですよね! はい!
※ ※ ※ ※
✕年〇月△日
お兄様がビアンカ様を連れて帰ってこられました。
盗賊の調査に言ったはずなのに? ダイスラー家の方と帰ってくる? もう私の頭の中は大パニックでした。
カールさんと話したのですが、彼もやはり、お兄様のことを恐ろしく感じる時があるようです。
お兄様の深いお考えや計画は、全くもって予想がつきません。
それでいて、いつも最善の結果を引き寄せるのですから、ただただ驚かされます。
実際、食堂で会議を開いたのですが、そこでお兄様が語られたのは衝撃的な内容でした。
何とお兄様は、一年前からこうなることを見越した上で、いろいろな行動を起こされていたそうなのです。
それと同時に、戦いを避けられないことも分かりました。
どうか、どうか、どうか。
戦いに行かれる皆さんが無事に帰ってきますように。
もう二度と、私の大切な人たちが、私の大切な家族がいなくなりませんように。
お兄様とずっと一緒にいられますように。
※ ※ ※ ※
✕年〇月△日
お兄様が帰ってきました!
エルザお姉様も、クリストフさんはじめ騎士の皆さんも、無事に帰ってこられました!
本当に良かったです!
実はちょっと涙が出てしまいました。
お兄様が勝利は当然という顔をされていて、戦ってもいない私が泣くのは恥ずかしかったのですぐに拭きましたけど。
それと……また人が増えました。
ラウラさんという方です。
お兄様にしては珍しく、予想外の新メンバーだったみたいです。
最初はかなり怯えた様子だったのですが、急に首に針を刺したかと思ったら一気に雰囲気が変わりました。
いろいろ含めて何かもう怖かったです。
でもこれから私たちの仲間になるみたいなので、頑張って仲良くなれるようにしたいと思います。
でもやたらお兄様に顔を近づけていたので、そこは少しむっとしました。
大人のお姉さんって感じなので、絶対に負けないようにしたいと思います。
……何の勝負なんでしょうか?
※ ※ ※ ※
✕年〇月△日
今日はお兄様と、お母様のお墓参りをしました。
お母様が大好きだった時計をモチーフにしたお墓……というか、もはや時計そのものなんですけど。
でもこういう形にされたのも、お兄様なりに考えていることがあるようですし、それにお兄様がお母様のことを忘れず、そしてお母様のことを思って行動してくださったということが、何よりも嬉しかったです。
大きな時計に触れながら、お兄様を支えられるように頑張るので、見守っていてくださいとお母様にお話ししました。
これからも定期的に、あそこへ通って掃除をしたりお母様のことを考えたりしたいと思います。
やっぱり寂しさは消えないけど、でも今の私にはお兄様がいて、頼りになる皆さんがいて、ひとりぼっちじゃないので本当に救われています。
あ、当たり前のことですがお兄様は今日もかっこよかったです。
お兄様がかっこいいのは当たり前のことですが、私がそれを拝めていることは当たり前のことではないので、感謝を忘れず謙虚に生きていこうと思います。
――次回より第二章へ続きます。
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