第11話 誰が見せるか。パンツなんて

 私は許された時間は一週間。

 そして描く枚数は約二十ページ。前回の続きからとなるので二話目を描くことになる。

 ネームでいいから時間に関しては心配ない。けど、全部事実ってわけにはいかない。どういった物語を描くかを考えなければいけない。


 恋愛、百合、歳の差……。


千世ちせちゃんって女の先生とか仲いい?」

「んー、それなりに絡みはありますけど、友達みたいな仲はないですね」


 千世ちせちゃんはベッドに寝転がっては漫画を読んでいる。

 約束通り隅で大人しくしているようだ。


 聞きたいことをすぐに答えてくれて、私の邪魔をしない。すごく助かるけれど、なんか都合のいい女みたいに扱ってるようで申し訳ない。


「友達とまではいかないよね。例えばどんな絡みするの?」

「普通に彼氏いるんですかぁとか、下着はやっぱり大人っぽいんですかぁとか?」

「結構友達みたいな感じに見えるけど……」

「別にこのくらいは普通じゃないですか?」

「そう、なんだ」

「はい」



 女子高生はパワーはすごいもんなぁ。それが普通とは、先生の大変さが目に浮かぶ。

 高校生と大人の百合か……どう絡ませればいいの?教えて?


 パソコンに向き直してペンを握るが、描けない。当たり前だ、頭の中で何も出てこないのだから。


 一話目は千世ちせちゃんと出会い、部屋に招き入れてケーキを食べる。そして最後にからかわれたりして、何故か毎日遊びに来ることになって終わり。


 なんで?なんだっけ?


 後ろを振り返り、漫画を読む千世ちせちゃんを見て思い出す。

 私が騒がないようにと、監視するためだ。


 なんてしょうもない理由だろうか。

 ……私が言うのはおかしいよね。



「とりあえず遊びに来た展開を描くか」


 百合、百合、百合……。


 百合成分を出すために二人きりの空間を作り、それから……下着の話にするか。

 別に参考にしたわけじゃないし、よくある話だし。


 ちゃちゃっと数ページ描いて印刷し、寝転んでいる千世ちせちゃんに試し読みをお願いした。

 寝ながら読み始める姿はもう大御所のようだ。

 別に気にはしないけどさ。ちょっと可愛げがないんじゃないかな?



「こんな話どう?なんかこう、くる?」

「くるって言われましても……あぁ下着の話してるんだなぁって感じですかね?」

「いやいやよく考えて?下着だよ?見せ合う?合わないよね?普通恥ずかしいよね?」

「わたしは仲いい人なら別に、見せてもいいかなって思いますねぇ」



 え?

 見せてくれるの?


 私は寝転んだ千世ちせちゃんの体を凝視してしまう。

 濃紺のうこんなセーラー服だから当然透けて見えない。スカートからは白い足だけ。


「見ます?」

「え、いいの?」

「いいですよ」


 また、からかってくるんじゃないかと思っていたけど、まるで「あぁ、適当に座って」みたいな反応だ。

 全く動じないその姿に私は少したじろいでしまう。


「んっ……見えます?」


 千世ちせちゃんはスカートを半分ほどずらすと、白い腰とは対照的な黒いパンツ。小ぶりで可愛らしいお尻は黒に包まれていて少しドキドキしてしまう。


 高校生で黒って……ちょっと、いや結構ませてない?ませてるよね?私でも黒は卒業してからだったよ?


「前は可愛いフリルも付いてるんですけど、これ肌触りが良くて気に入ってるんですよねぇ」

「へ、へぇ~」

「見ます?」

「あ、そのままで」

「そんなに見るような物じゃ……」

「違うの」


 そう、パンツもいいけど、ペロンと出てるタグが何かエロい。

 なんだろう。可愛い下着を着けてて、でもだしらなくタグが出てるのが、こう、くるものがある。


「なんか変ですか?……ちょ!見ないでくださいよ!」

「えぇーいいじゃあん減るもんでもないしぃ」

「さすがにこれは……嫌ですっ」


 ふひっ……なんともないですって顔が急に恥じらうのはいいなぁ。


「ありがとっ参考になったよ」

「なんの参考ですか……まったく」


 スカートを元に戻すと千世ちせちゃんは、また漫画に目を通すと思い付いたような顔で再びこちらに顔を向けた。


「参考なら、いのりさんのも見せてくださいよ」

「え?普通に嫌だけど」

「はぁ!?いいじゃないですか!下着くらい!」

「よくないよ!そんなっ、はしたない!」

「はしっ、そこらへんにパンツ転がってる人に言われたくないです!」

「一人暮らしはそんなもんなの!」



 まったく、マセガキが。

 大体お洒落なパンツを普段から穿くかっての。


 ……今どんなの穿いてるんだっけ?

 人に見せられるような代物じゃないのは確かだ。

 なんでもいいか、見せるわけでもなし。



「それより、漫画の方は何かいい案ないかな?意外と思いつかなくてね」

「そうですねぇ」



 ん~、と真剣な表情で考えてはいるが、千世ちせちゃんは寝転がったまま。

 私は口を開くのを待つが、唸ってばかりで中々への字の口は変わらなかった。

 姿勢の割にはちゃんと考えてるっぽい。


 私もなにかないかなと考える。首を右、左と傾けると気付けば千世ちせちゃんのお尻を見ていた。

 そのスカート越しに、まだ真新しく記憶に残った黒いパンツを重ねた。


「いのりさん」

「はっはい!」

「見せてくれたら見せますよ」


 見てるのバレてたか。

 それにしても何てムカつく顔だ。大人を馬鹿にするように笑いやがって。


「また今度ね、今穿いてるやつ見られるのはちょっと」

「今じゃないと今後見せませーん」


 べっつにぃ?子供のパンツごとき見れなくなったからって困らないしぃ?


「…………じっ、じゃあ――」

「そうだ!二人で下着を買いに行って相手のを選ぶってどうですか!」

「……なんで?」

「え?良くないですか?相手に穿いてほしいのを選べるんですよ?」

「変なの選ばれたら最悪じゃん」

「なんか機嫌悪くなってません?」

「別に……」



 正直私の言葉を遮られたのはちょっと嫌だった。

 せっかく覚悟が出来たのに、恥ずかしいのを抑え込んで、言おうとしたのに!


「どうしたんですかぁ?いのりさーん」

「なんもないよ」


 一番嫌なのは自分自身だ。

 パンツのことなんかで拗ねてる自分が恥ずかしい。こんなことで千世ちせちゃんに当たるなんて、いい歳した大人が……。

 こんなの千世ちせちゃんにバレたら生きていけない。


 落ち着け、私。


「じゃあちょっとそんな感じに描いて見るね」

「はぁい、待ってまーす」


 私は再びパソコンの前へ。千世ちせちゃんは漫画の続きを。

 ペンを取り、考えてもらった話を描いていく。

 ちゃちゃっとペンを走らせると、私は突然閃いた。

 漫画の内容には関係ないけれど、この漫画を利用して千世ちせちゃんを笑わせてやろう、なんて子供みたいなことを思いついた。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



「では編集者殿、拝見お願いしたします」

「うぬ。くるしゅうない」


 まだまだ寝転がりながら漫画を読んでいる、そんな千世ちせちゃんに私は、しっかりと両手で丁寧にネームを差し出した。

 もちろん膝だってついて、目線の位置もばっちりだ。

 どんな表情をして読んでいるのか、私の位置からじゃ見えない。

 サラサラな髪の隙間から見える横顔を、ただジッと見つめて私は待つ。



 間近で見ると髪ほっそいなぁ。

 別に普通の耳なのに、可愛く見えるのなんだ?若さか?



「読みました」

「あ、はい。どうでしょうか?」

「コレわたしがモデルでしたよね?」

「そうだけど」


 千世ちせちゃんは漫画に視線を向けたままで、髪を耳に掛けると横顔がはっきりと見えた。


「じゃあいのりさん、わたしのパンツ穿きたいってことですかぁ?」


 振り向かれた顔はニタニタとしていた。

 確かに漫画の中の千世ちせちゃんは、黒いパンツを選んで私に渡したけれど、正直そんな考えが出るとは思ってなかった。

 私が渡すパンツを必死に考えて、受け取るパンツは描いたら黒になってた。

 だって、見たばっかだから。


「ちっ違うってば!それより私が選んだパンツはどうさ!」

「この極端に布面積がないパンツですか?」

「マイクロビキニだよ。えっろいでしょ!?」


 百合を調べた時に見つけた物だ。

 誰が身に付けるんだって思ったけど、絵だとすっごい可愛くてめちゃくちゃエロくて気に入ってしまった。

 子供にはまだ早い知識だったかなぁ?お姉さん悪いことしちゃったかなぁ?


「いのりさんが買ってくれるなら着けてるとこ見せましょうか?」

「まじ!?いいの!?すごい可愛いの見つけたんだよね!!」

「えっ、いやっ冗談で――」

「真っ白で大人っぽい感じなんだけど!しかも紐が妙に長くてね!?でもその長さがなんかよくてね!」

「いのりさん!?聞いてます!?だから冗談って――」

「あっ、その絵より面積ないからちょっと処理が必要かもだけど!」

「これより!?」

「色決めちゃう?何種類かあってね?うわぁっでも白がいいなぁ!」

「だっかっらっ!!嘘です!穿きませんってば!!」

「――ぅぷっ!」


 顔に思いっきり枕を投げられた。


 なんで?私が買えばいいんじゃないの?

 話しが違う。千世ちせちゃんなら絶対に似合うに決まってる。

 そうだよ、それを着けてポーズとかしてもらえば漫画に役立つじゃん。



「ダメ?」

「ええぇ……なんで?いつもなら恥ずかしがってそっぽ向くのに……」

「だって漫画の資料にもなるじゃん?」

「いのりさんが自分で着ければいいじゃないですか」

「そんな気持ち悪いことしないよ。それにモデルは千世ちせちゃんだし」

「そんな気持ち悪いことを高校生にさせるんですか……?」



 私は無言で訴えた。

 目だって瞬きもしないで涙を溜めてる。

 別にやましい気持ちなんてこれっぽちもない。だってちゃんと漫画に役立つんだから。

 協力するって言ったよね?じゃあっいいじゃん!



「はぁ~分かりましたよ」

「ちーせーちゃああん!!」

「なぁんて言うと思いましたか!?誰がこんな恥ずかしいの穿きますか!」

「…………」


 この、ガキ……。私の純情を弄んだな?


「帰れ!バカ!ケチ!」

「はっ、はぁ!?えぇ!いいですよ!言われなくても帰りますよ!!いのりさんがそんなに変態だなんて知りませんでしたよ!」

「変態じゃねぇ!漫画の資料だって言ってんだろっ!!」

「どうですかねぇ!?ではっお疲れ様でした!」



 千世ちせちゃんはバタバタと無駄に足音を立てながら隣に帰って行った。

 バタンッと強く閉まるドアは二回続き、ドタドタと歩く音が隣から聞こえる。



 …………。


「ばぁぁか!!」

『ドンッ!!』





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