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セミナールームを退出して
――今月の入社オリエンテーションも、無事に終わってよかった。
鈴音はたった今、入社オリエンテーションのシステム担当を終えたところだった。と、女性が歩いてくる。鈴音に用があるらしい。柔和な笑みの彼女は鈴音の元上司にあたる。そこにいたのは、かつての上司である人事部の岸課長だった。
「すずちゃん、今日もIT機器の調達ありがとう。トラブルなかった?」
「数が多かったものの、トラブルなく無事に終わりました。毎回、緊張してしまって大変です」
「でも大丈夫よ。応募者から好感度高いし、社内でも評判がいいのよ」
その岸課長は、鈴音をなぜか半年前に人事部からITシステム戦略部のヘルプデスクチームへ異動させた
入社数が多い4月と10月の前は、ヘルプデスクチームにとって慌ただしい時期になる。
ITシステム戦略部は、ヘルプデスクチームと、情報システムチームから成り立っている。
ヘルプデスクはITの何でも屋的存在で、様々な問い合わせに対応する。故障対応からアカウントの追加削除、USBメモリやDVDドライブなどの貸与を請け負う。それ以外に入退社する社員の情報機器やアカウントの管理も含まれている。
なお、簡単なシステムトラブルへの対処方法は、社内システムにあるウィキにも掲載している。こまめに修正しているのに、それでも載せていることを聞いてくるのが日常茶飯事だった。
メンバーは鈴音の他に
一方、情報システムチームは内部ソフトウェアの開発改良や、インフラ整備などより専門的な対応をする。元はヘルプデスクと兼務だったが、負担を減らすために現在は別になっている。サーバメンテナンスやネットワークトラブルが起きれば全国にある支社へ出向く関係上、多忙を極めていた。
リーダーであるシゲさんこと
そして、それらのチームを総括しているのが、
通常業務に加えて、各種情報機器とアカウントの調達やセッティングに追われる羽目になる。それに加えて監査対応や棚卸しで情報機器とリストにズレがないか突き合わせする必要もあった。
そもそもが人が少なく多忙の部署。配属されたての鈴音にとっては毎日が大変だった。今も鈴音のデスクにはエナジードリンクの缶がある。
しかも8月にはログインアカウントの初期化パスワードの設定し忘れ、9月には派遣社員が社員用スマートフォンを二日後に水没させるというトラブルが立て続けにあった。水没は仕方ないとしても、パスワード設定はダブルチェックすれば防げたものだ。そのこともあって、より念入りにチェックしていた。
先月は情報システムチームに所属する松原と川路にも手伝ってもらった。リモート出社になっているシゲさんはともかく、松原と川路は多忙な間を縫って文句も言わずに協力してくれた。内心、申し訳ないところである。
鈴音が所属しているステラグロウトイズ株式会社は、業界でも最大手に分類される玩具メーカーである。場所は
玩具メーカーも2000年半ばにエンタメ企業などの経営連携や合併などにより、大きく様変わりしていた。ステラグロウトイズも元々は子ども向けの玩具メーカーであった。それが2007年にエンタメ総合企業のステラグロウグループの企業として再出発した。現在はゲームや音楽領域のグッズなども企画生産している。
業界が変化したのは鈴音が入社する数年前だ。たまたま大学のゼミで子ども向け商品のプロモーション企画を専攻しており、就活でもその分野を志望していた。おもちゃもゲームもそこまで詳しくはないが、内定後の社員対談で雰囲気が良かったこともあり入社した次第である。
本社がある
早く戻ってカフェオレか紅茶でも淹れよう。そう思った鈴音はデスクへ戻ることにした。
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