雪童とはかくありき

朱雪

第1話

 雪童とは雪女から生み出された子ども型の雪の遣いだ。

 冬を呼び、雪山を駆け、春になれば溶けて消える。

 昔は村の子どもに混じって遊ぶ事もしていたが、今はどうだ。

 見知らぬ子どもが混じって遊ぶような場所はどこにもない。あっても親の目があるし、子ども自身にも警戒心というものが付いてしまって遊ぶ事もままならなくなった。

未符路みふろ、今年は遊びに行かないの?」

 雪女である母親が心配そうに話しかけて来た。

 僕は足元の雪を蹴り、ふんっと鼻を鳴らした。

「どうせ、あいつら僕の事なんか忘れて今頃受験勉強に忙しいだろうさ」

「あら、もうそんな年頃になるのねぇ。人の成長って本当に早い」

 感心して言った母親の眼はどこかうっとりと夢を見ているようだった。

(また始まるぞ〜)

「私がかつて愛した男も、半分が人だったから成長が早くてね。私は冬の間しか外に出られないから」

 この話をすると長いから僕はさっさと他所へ移動した。

「まったく、母さんはいつも……いい加減父さん達の事は忘れたらいいのにさ〜」

 木々に囲まれた小さな社の近く、ここで昨年までは近くの村に住む子ども達と楽しく遊んでいた。

 ここは親の目もないし、一人くらい冬の間遊ぶ子どもが増えても誤魔化しは効いた。

 学校が終われば皆自然とここに集まってくるから、途中で人数が増える事はよくあった。

「…………クソッ! 何だよなんだよ、そんなに勉強が楽しいかよ! そんなに親が怖いのか!」

 手当たりしだいに雪を丸めて木の幹に投げつける。

 しっかり固めていないから当たった雪玉はその瞬間にはらはらと雪の粉を空中に舞わせて消える。

 それがあまりにも儚くて脆い……あの一時のようで余計に腹が立った。

「何が……何が人間との共存だよ! バッカじゃねぇの!」

 その場で地団駄を踏む僕は、さぞ滑稽だろうさ。冬の間しか生きられないから、あっさり人に忘れ去られるんだ。

「…………こういう時、弥勒みろくの兄貴が羨ましい。望めばそれだけずっと人と一緒に遊べる。でも、皮肉だよな。兄貴は正体がバレたら殺さないといけないんだからさ。お互い……難儀だよね」

 自嘲気味に笑い、僕は今どこでどうしているかも分からない兄へ向けて、手の中に生み出した氷の華を空へ向けて差し出した。

「兄貴は、この華みたいだね。決して溶けない氷の華。人を信用できない兄貴は簡単に人を喰い殺すだろうね」

 どんよりした空から雪が降り始める。

 この山は更に積もるだろう。積もって積もって、村や人さえも覆い尽くしてしまえば良いんだ。

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