高校生編

高校生編


近所の高校に進学した私は、初君と同じクラスになった。初君は、何時も通り、ツンとしているのだ。


「初君、同じクラスだね。」

「先生に行って変えて貰う。」

「初、良い加減、椿と仲良くしろよ。」

「何時まで、嫌っているんだよ。」


そんな事をいうかおる君と、恋君。私は、初君を庇うように言ったのだ。


「初君にも、初君のペースがあるんだよ。」

「どんなペースだよ。」

「行こうぜ。椿。」


かおる君と、恋君も同じクラスで、三人で私達はつるんでいたのだ。初君が、陽キャグループにいる。凄く明るい人といて絡み辛い。


「初君、一緒に帰ろうよ。」

「嫌だ。」

「どうして?」

「お前と居たくないからだよ。」


初君はそういうけど、初君に付き纏って一緒に帰る事にしたのだ。


「初君は、部活とかやらないの?」

「教えない。」

「教えてよ。初君。」


そうして、初君と一緒に廃部寸前の天文部に入る事にした。


「天文部なんて意外な部活だね。」

「天体を見るだけだから、楽なんだろ。」

「楽で良いじゃん。星を皆で、見ようよ。」

「何で、そんなやる気なんだよ。」


望遠鏡を用意して、夜にお星様の観察をする。何座なのかは、全然、分からないけれど、楽しいと思えたんだ。


天体部では、一か月に一回、星見会をするらしい。その日は、ちょうど、七夕だったのだ。


「天の川、見れると良いな。」

「天の川なんか、数百年に一度で良い。」

「皆既日食より、多いと良いな。」

「三百年から、四百年に一度だろ。」

「今年は、見られるらしいよな。」


私は、何となくきらきら星を歌っていたのだ。


「きらきら ひかる おそらの星よ。」

「童謡じゃなくて、今、流行りの曲を歌えよ。」

「初君が、教えてよ。」

「これとか、良いんじゃないのか?」


初君と一緒に、スマホから繋いで、イヤホンを片耳に付けて、星に関する曲を聴きながら、天の川を見たのだった。


体育祭では、借り物競争に出る事になった。借り物競争に書かれたお題は、好きな人だったのだ。


「初君、少し来て。」


そうして、初君を引き連れて、借り物競争を終えた。好きな人というお題なので、周りが色めきだっている。


「初君のどこが好きなんですか?」

「何時も、意地悪だけど根は優しい所です。」


そう言うけれど、きっと、根本から初君は腐りきっていると思う。それを言えない私は、もっと、腐りきっている。


皆既日食が見れる十一月に星見会があった。皆既日食で、ダイアモンドリングを見れるらしい。望遠鏡を持ち出して見るのだ。


「日食なんて見なくても、騒ぐ事じゃないだろ。」

「初君は、見たくないの?」

「本物のダイヤモンドのリングの方が綺麗だからな。」


一条の分家なので、初君の家は、お金持ちだ。でも、この一緒に居る時間は、ダイヤモンドのリングより価値がある。


「初君、お金も大切だよ。でも、過ごす時間も大切なんじゃないかな?」

「時間は、金には代えられないって事か?」

「愛も、金には代えられないよ。」

「全部、金で買えられるだろう。」

「そうなのかな?でも、それって、何だか寂しいと思うんだ。」


お金で繋がった関係は、お金で切れる。そんな脆い関係じゃなくて、初君とは、深い関係になりたいと思ったんだ。


文化祭があった。文化祭では、焼きそばを出すらしくて、私は、野菜を切る係になってしまったのだ。


「猫の手だからな。」

「分かってるよ。」

「怪我をするなよ。」

「どうして?」

「血が入るだろ。」


初君は、心配性だと思った。だけど、色んな事を優しく教えてくれるのだ。嫌ってはいるけれど、一緒に居てくれるから、悪い人じゃないんだと思う。


高校二年の夏に進路希望調査があった。私は、高校付属の大学に行こうと思っていた。だけど、初君は違ったみたいだ。


「付属校には行かないの?」

「一刻も早く、お前と離れたいんだよ。」

「それでも、初君は、分家の子でしょ?」

「分家が、何なんだよ。」


そうして、私は初めて、初君と喧嘩してしまったのだった。私は、幼少期から、ずっと、仲良くしたいだけだったのにな。そこで、何かがきれてしまった。


夏休みに入る期間だった。その間だけ、二週間の夏休みで、初君に会わなくて済むのだ。だけど、天文部で星見会の合宿があるらしい。


「なぁ、仲直りしろよ。」

「椿は、何で、怒ってるんだ?初が、気に食わない性格なのは、何時もの事だろう。」


かおる君と、恋君は、そう言うけれど、つもりにつもった心の闇が、一向に晴やしないのだ。


「私が悪いのかもしれない。だけど、初君とは、この先、居たくない。」

「たかが、本家の癖になんて言っただけだろ。」

「本家とか、分家とか、どうでも良いんだ。私が、分家の人間だったとしても、初君と仲良くしたい。」


もう、自分でも、何が言いたいのが、何が悪いのか、分からない。生きている存在自体が悪のかもしれない。


「椿、夏の大三角が見えるぞ。」

「一年の頃に、七夕の時に見たじゃん。

「椿もさ。初と、一年に一度だけ会えば良いんじゃないか?」

「一年に一度も会いたくない。」

「そっか。私もだよ。」

「本当に仲良くしろよ。何で、急に仲が悪くなるんだよ。」

「仲良くしろなんてさ。周りに言われても、駄目だよ。恋君が、代わりに初君と仲良くしてあげれば良い。」


私は、充分、役目は果たしたと思った。何回言っても、仲良くなれない人は、仲良くなれないんだと思った。


十二月に星見会があった。シリウス、プロキオン、ベテルギウス、冬の大三角を見るらしかった。


「なぁ、椿、初も悪いけど、そんなに思いつめる事もないんじゃないか?」

「初と話して来いよ。」


一つの望遠鏡を初君と眺めた。だけど、いくら、初君と居ても、一向に、気持ちが晴れないままで居たのだ。

最近、思う事がある。死にたいと思うことだ。何も初君のせいじゃない。自分のせいなんだ。身の程も弁えず、私が本家なんかに生まれたからだ。


「この川に飛び込めば、死ねるのかな?」


そんな事を思いながら、暗くて深い川の底を眺めながら、私は、日々を淡々と過ごしているのだ。


「椿、一緒に帰らないか?」

「良いよ。」


初君が珍しく誘って来た。だけど、初君との会話は皆無。何時も、私ばかり、初君に話し掛けていたんだなと思った。


「椿、御免。」

「良いよ。悪いのは、私なんだ。」

「許せよ。椿。」

「初君と居ると、嫌な所が見えてくるの。」


もっと、私が、初君に素直で優しい性格だったら良いのにな。初君を照らせるくらい明るい性格だったら良いのにな。捻くれた性格じゃなければ良いのにな。嫌な所が、軒並み出て来てしまうのだ。


「死んでみよう。」


死んでしまう前に、遺書を書く事にした。本格的なもので、自分自身にこんなものが書けるなんて思っていなかった。


“遺書 本文”


拝啓、お父様、お母様


親不孝な娘で御免なさい。初君と仲良く出来なくて御免なさい。沢山、迷惑かけて御免なさい。人に合わせるのが、苦痛になりました。どうして、私が合わせなきゃいけないのか、私は、何をすべきか、見えてこない。分からない。分からない自分が嫌いです。大嫌いで仕方無いです。生きようと思う度に、死にたくなります。


人の良い部分を見ようとしました。だけど、その反対に悪い部分が見えて来る。そんな自分が嫌だ。全部をさらけ出したら、楽になれるのか考えてもさらけ出せない。誰にも、理解が出来ないので、私自身にも理解が出来なくなって、死にます。少し怖いけど、今まで、育ててくれて有り難う。

敬具


“遺書 終了”


死ぬ前に、思いっ切り、カラオケで歌を歌った。好きな服を着て、好きな食べ物を食べて、まるで、嵐の前の静けさのような感覚だ。やりたい事をやったら、何も、悔いに残る事は無いと思ったんだ。死は、絶望じゃなくて、希望だと思ったんだ。


遺書を書いたら、気が楽になった。この世で一番楽な死に方は、飛び降りらしい。飛び降りている時に、意識がなくなるらしい。だけど、私には合っていないと思った。水アレルギーだから、水に手を付けたらヒリヒリと全身が痛む。


止めてくれる人なんて、何処にも居ない。私は、水アレルギーだから、入れば意識がなくなって、速攻で死ねる。


私は、暗くて深い川に飛び込んで、意識を失ったのだった。そうして、退屈で空虚なこの世界から消えたのだ。


「痛い、、、。」


全身がヒリヒリする。死ぬって、こんな感覚なんだ。死ぬ間際になって、生きたいなんて思うのは、我儘なのかもしれないと思った。


後日談に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る