一条椿には問題がある

@ririno22

小学生編

小学生編


小さい頃から、周りにちやほやされていた。それが、当然のように思っていたのだ。分家の彼が来るまではね。


一条椿。小学三年生だ。一条の名前を言えば、周りが傅く由緒正しいファッション業界を牛耳る一条財閥のご令嬢である。何をするにしても、誰かが助けてくれる。


「お前さ。水アレルギーの癖に出しゃばって来るなよ。」


プールの授業前に言われた。そう、私は、世にも珍しい水アレルギーを発症している。彼が私を虐める事で、彼の地位が少しあがるのだ。


そうして、水アレルギーなのに水を掛けられたりするのだ。


「初(はつ)君、やり過ぎ。」

「初、辞めろよな。」

「俺の家が分家だから、気に食わないんだよ。」


そんな地獄のような状況で助けてくれる存在が二人居たのだ。一条と並ぶファッション業界を牛耳る大財閥の二条家のご子息の二条かおる。そして、もう一人は同じくファッション業界を牛耳る三条家のご子息である三条恋(れん)。


私は、この二人と行動を共にしていた。そう、水アレルギーでも、二人は優しいからだ。


「おい、椿を虐めるのは辞めろよ。」

「何、正義のヒーローぶってんの?」

「悪役ぶってて恰好悪いぜ。」


そうして、連日連夜、大財閥の二条、三条と一条の分家の初君との喧嘩が起こっているのだ。


「辞めよう。初君。一緒に仲良くしよう。」

「嫌だね。」


初君への対抗手段が無いから、思いっきり、唇を合わせてみたのだ。それでも、初君は振り向いてくれない。初君が振り向いてくれるまで、私は、何度だって仲間に入れてあげたいと思ったんだ。


「初のやつ、何であんなに絡んでくるんだろうな?」

「嫌いなら、近寄らなきゃいいのにな。」

「私の家が本家だから悪いのかな?」

「そんな事ねぇよ。」

「初が悪いんだよ。」

「でも、私、初君とも仲良くなりたい。」


何だかんだ。二人は、私の思いに同調してくれたみたいだった。きっと、何時か、初君とも仲良くなれる筈だと思った。


「椿、少し良いかい?」

「どうしたの?お父様?」

「分家と本家の仲を深める為に、初君と椿に婚約して欲しいんだ。」

「初君と婚約するの?」

「ああ、考えてみておいてくれ。」


お父様は、そういうけど初君と本当に仲良くなれるか分からない。


「初君、婚約の話、聞いた?」

「婚約なんかしない。」

「椿が可哀想だとは思わないのかよ。」

「行こうぜ。椿。」


初君は、どうして、私を嫌うんだろう。初君に何か悪い事をしてないのに、地位が高いというだけで初君は、嫌ってくる。


理科の虫眼鏡で黒い紙を焼く実験で、人数分の虫眼鏡がなかった。初君の一派が虫眼鏡を独占していて嫌な奴だと私は思った。


「初、虫眼鏡を独占するなよ。」

「こんな授業、やってもやらなくても意味なくね。」

「人数分ないんだから、他の子にもあげた方が良いんじゃない?」

「きっしょ、、、。」


そう、私は、初君の本家の方だ。普通は、分家の人間は従わなきゃいけない。どうして、初君はそんなに反抗するのだろうと思った。


「この黒い紙で、折り紙でもしようぜ。」

「かおる、紙は、8回以上は折れないらしいぜ。」

「やってみようよ。かおる君。恋君。」


そうして、理科の授業中に遊んでいた事で理科の先生から、私達三人は怒られてしまったのだった。


運動会が始まった。運動会は、ダンスを踊らないといけないらしい。私は振りを覚えるのが下手だった。


「何で、こんなのも出来ない?」

「難しい。」

「意味が分からない。ちゃんとやれ。」


ちゃんとやっているつもりでも、出来ない事はある。どうしようもない自己嫌悪に私は、陥ってしまったのだ。


その年に球技大会があった。種目は、ドッチボールだ。初君は、活躍するわけでもなく、最初にボールにぶつかって、外野へと行った。


「彼奴こそ、ちゃんとやってねーだろ。」

「椿を非難している場合かよ。」


初君の性格や、行動は読めない。いつも、何かに付けて貶して気づいたら居なくなっているのだ。


「少し、様子を見て来る。」


ボールが当たってもないのに、外野に行って初君に話し掛けに行く。


「初君、大丈夫?」

「付いて来るな。」

「何で、そんな事を言うの?」

「近寄って欲しくないからだよ。」


初君は、私の事が相当、気に食わないらしい。初君が私の通っている小学校に来たんだ。小学校の転校なんて出来ないし、初君と私は、関り続けるしかないと思った。


絵画コンクールがあった。本の内容を画用紙に書くコンクールだ。児童文学書を手に取って、絵画コンクールに出すと、佳作に選ばれたのだ。


休日に、恋君とレースゲームをする事になった。恋君は、ゲームが上手くて、ゲーム初心者の私には付いていけない。


「椿、ここは、こうすれば良いよ。」

「妨害の仕方が分からない。」

「妨害は、この操作をするんだよ。」


恋君に教わりながら、ゲームをやる。和やかなムードで、休日を過ごしたのだった。


「恋の家に、ゲーム目当てで行ってるのかよ。」

「それの何が悪いの?」

「ゲーム機とか買えないわけ?」

「買えるよ。」


まるで、初君が私を貧乏人みたいに言ってくるので、ゲーム機を買い揃えて、恋君と偶の休日に、ゲームをするのだった。


四年生の家庭科に授業で、私は、初君と同じ班になってしまった。虐められないか、とても、緊張して料理どころではなかった。


「何も、触るな。お前が触った物は食べたくない。」


そうして、私は、調理実習を見ているだけだった。題材は、みそ汁と麻婆豆腐だった。それでも何か手伝いたくて、野菜をピーラーで剥く。すると、かおる君と、恋君が来た。


「椿、辛くない?」

「俺らの班に来る?」

「行きたい。」


剥いている人参を持って行って、かおる君と、恋君の班に混ぜて貰って、調理実習をするのだった。


特技発表会をする事になった。一芸を披露しないといけないらしい。私は、一輪車は乗れるけれど、何か一芸に秀でているわけではない。


作詞作曲のアカペラの歌を歌っておちょくられて、恥をかいた。みんな私が作ってきた歌詞の意味を、知りたがったけれど、何となくで書いたため言えなかった。将来の夢が歌手だったが、その経験が、歌手の夢を諦める原動力になってしまったのだ。


歴史上の偉人について、調べてみようという宿題を社会の授業中にやる事になった。本居宣長について、私は、書く事にした。


本居宣長は、古事記を読み解き、古事記伝を作った凄い人だ。それを夢中になって、調べて渡されたA4の紙に入りきらないほどまとめたのだ。


「初、良い加減、椿と仲良くしろよ。」

「あんな可笑しな奴と、何で仲良くしなきゃいけないんだよ。」

「椿は、可笑しくねーよ。」


かおる君と、恋君が初君に詰め寄っている。一触即発の状況だ。だけど、私には止める力が無かった。


「何で、そんな傲慢なんだよ。」

「椿を、虐めて何になるんだよ。」


とうとう、殴り合いの喧嘩になって、先生が止めに来てしまったのだ。私は、初君に表面上の謝罪をされたが受け入れられなかった。


学習発表会があった。私は、裏方の小道具係だ。初君も、同じ小道具係だった。初君達は、主演の人達を弄るだけ弄って何もしなかった。


「ほんっと、男子ってあてにならない。」

「でも、初君、楽しそうだし、良いんじゃない?」

「椿は、初君に優し過ぎ。初君の事が好きなの?」

「好きだよ。でも、初君は好きじゃないかもしれない。」


だけど、私は、本当に初君と仲良くしたいんだ。対立したいわけじゃないんだ。


「初君の事が嫌いなの?」

「彼奴、性格が酷くない?私は、好きじゃない。」


同じクラスの女の子は、初君を嫌っているのだ。初君の性格上、嫌われてもしかたないと思う。だけど、このまま、嫌われ続けるのは良くないと思ったんだ。


その子に、シンデレラという本を教えて貰った。シンデレラは、灰被りという意味で、一生懸命に生きている。継母や、二人の姉に虐められるシンデレラが、私の状況に少し重なって、大切に読んでいた。


四年生から始まるクラブ活動。数あるクラブの中で私は、マジッククラブに行く事にした。マジックを教わりたかったからだ。だけど、マジックを習うんじゃなくて披露しなければいけないらしい。何もできなくて、あてずっぽうでトランプマジックをやって、失敗していたのだ。


体育の授業で身体測定の後に時間が余って、かくれんぼをやる事になったのだ。隠れ場所を見つけていると初君と行き先が被ってしまった。


「俺が、何処かに行く。」

「良いよ。私が変える。」

「じゃあ、早く変えろよ。」


初君は、今日も高圧的に怒鳴ってくる。何をそんなに怒る事があるのだろうと、毎日、不思議に思っている。


「初君は、どうしてそんなに高圧的に言うの?」

「お前と、話したくない。」

「何で、話したくないの?」

「、、、。」


初君は、何も言わずに去っていこうとするのだ。私は、初君を、そのまま、追いかけてみる事にした。


「付いて来るなよ。」

「初君、一緒に隠れようよ。」

「何で、俺と居たいんだよ。」

「初君が、好きだからだよ。」

「俺は、お前が思ってるような人間じゃない。」


ツンツンとしている初君。何を言っても取り合ってくれない。取り合ってくれないからこそ、仲良くなろうと思うんだ。


五年生になって、林間合宿が始まった。林間合宿では、海で遊べるみたいだった。だけど、私は、熱を出していて、遊べなかった。


「椿、大丈夫か?」

「これ、星の砂。椿も要る?」

「要る!!」


そうして、午後からは、星の砂を拾いに行くのだ。この林間学校では、水俣病についての当事者の体験を語って貰っている。


「残酷な話だね。」

「メチル水銀が理由らしいよ。」

「感想を書いて出さないといけないね。」


水俣病に対する感想を書いて出した。今ある幸せは、先人たちが研究や、努力を重ねた上で成り立っているのだと思った。


外の空気を吸いながら、水俣で取れた魚で作られたお弁当を食べる。案の定、初君は、木陰を陣取って食べていた。


「どうして、陽の当たるところで食べないのかな?」

「日焼けでも気にしてるんじゃね?」

「彼奴、可笑しいから関わるのは辞めようぜ。」


恋君は、そういうけど、私は、初君と仲良くしたいと思っている。分家だからじゃなくて、初君自身と仲良くしたい。


「初君、一緒に食べよう?」

「食べない。」

「どうして?」

「お前が、嫌いだから。」


私を嫌っても良いけれど、同じクラスだから少しくらいは、温和な対応をして貰いたいと思った。初君に振られた私は、かおる君と、恋君と一緒に食べる事にした。


美化清掃というPTA行事があった。プランターに花を植えなきゃいけなくて、初君は、サボっていた。


「初君は、やらないの?」

「手が汚れるし、やらない。」

「行こうぜ。初。」

「初に関わんなよ。」


初君には、私以外に友達が居るらしい。手下を従えて、虐めて来るのかとも思った。だけど、初君の交友関係に口は出せない。


「椿、大丈夫か?」

「初には、関わらない方が良いんじゃない?」


かおる君と、恋君が、私を初君から引き剥がそうとする。初君自身も、私の事を疎ましく思っているのかもしれない。


だけど、私も初君と仲良くしてみたい。初君とお友達になりたくて仕方がないのだ。


「友達になりたくない理由より、なりたい理由を考えると沢山あるの。きっと、初君は、根から悪いわけじゃないと思う。勿論、その分、傷付くかもしれない。でも、傷付いた分、仲良くなれると思う。」

そんな正論にもならない事を言って、思ってる事を二人に気休めに話してに少しづつ近づいて行こうと思ったのだ。


「椿、初君と婚約しなくて良い。仲が悪いんだろ。」

「お父様、それでも、私は初君と仲良くなりたい。」

「人には、向き不向きがある。椿は、初君には向いてないんだ。」


お父様は、そういうけど、何時か初君と私は、分かり合える筈だと思ったんだ。


「初君、婚約なくなったよ。」

「元々、婚約なんかしたくない。」

「椿が、初の婚約者じゃないのなら、俺が貰おうかな。」

「かおるより、俺の方が幸せに出来る。」


二人とも、私を取り合って喧嘩し始めたのだ。私の価値は、そんなに高くはないと思っていたし、二人の喧嘩をどうやって止めようかおどおどしてる。


「椿なんかの婚約者に何で、なりたいわけ?此奴、余り物だよ。」

「余り物って、何だよ。」

「椿は、奪い合いだろ。」


初君も入って来て、事態がさらにややこしくなった。止めようにも、止める言葉が中々、見つからないのだ。


「私は、皆が好き。だから、もう少しだけ待って欲しい。誰が好きかとか、私には良く分からない。だけど、皆と仲良くしていきたい。それじゃ駄目かな?」

「それで良いよ。椿。」

「返事は、せかさない。」

「早く、決めろよ。誰が好きなんだよ。」


初君が、喧嘩腰に聞いて来るのだ。私は、誰が好きなんだろう。これに、逃げるとこの関係が壊れると思ったんだ。


「初君が一番好きだよ。だから、仲良くして欲しい。」

「嘘つき。」

「嘘つきじゃない。」

「俺の事が好きなら、俺に近寄るな。」

「そんな事をいう初君だから、仲良くなりたいと思うんだよ。」


だから、何度だって、初君に話しかけにいくよ。だって、初君と笑い合う未来が、私は、欲しいと思うからだ。


初君と、放送委員になる事が決まった。本当は、目立たない図書委員になりたかったのだが、争奪戦で負けてしまったのだ。


「早く、放送しろよ。」

「分かってるよ。初君。」


完璧に放送委員の仕事をしないといけない。それも、初君に恥をかかせちゃいけない。壮大なプレッシャーに押し潰されそうだった。


ピンポンパンポーン


「お昼の時間です。給食室まで向かってください。」


そうして、放送委員の仕事を難なく全うした。怖かったけれど、ちゃんとボタンも押し間違えてないし、音量もばっちりた。


「遅い。何でそんな遅いんだよ。」

「ごめん。」

「本当、何にも出来ないな。」


そうして、給食室に行くと何故か、声を掛けられてしまった。


「椿、何か怒られてた?」

「どうして?」

「放送で聞こえてたよ。」


これが、放送事故って奴なのだろうか。わざとじゃないのに、気負い過ぎて放送を切り忘れてしまったのだ。


それから、初君が放送室に現れる事はなくなった。初君の肩代わりとして、朝の放送、昼の放送を兼任したのだ。


「初君の気持ちは分かるよ。でも、怪我をしてるんでしょ?」

「触るな。」


初君が体育の授業中に怪我をしてしまったのだ。絆創膏を貼ろうにも初君が頷いてくれない。初君に怒鳴られながら、絆創膏を貼る。


「余計なお世話だ。」

「初君に、私は何かした?」

「存在してるだけで、ムカつくんだよ。」


そんな事を言われたってどうしようもない。初君に存在否定をされて悲しく思ったけれど、だんだん、軟化してきて時間が解決してくれるものだと思った。


最終学年になって、長崎に就学旅行に行く事になった。平和学習で、原爆が落とされた場所の平和記念像の所に鶴の折り紙を供えた。人々が、水を求めて、彷徨っているので相当、辛い思いをしたのだろうと思った。


修学旅行の班別けで、私は、貸切った旅館の部屋で女の子達と恋バナをすることになったのだ。私にも、深夜にテレビをつけながら聞かれた。


だけど、言いよそうにもなくて、私は、早めに寝ることにしたのだ。テレビでは、何故か、深夜ドラマがやっていた。


学習面で、私は、著しく、成果をあげた。ノートいっぱいに書いた数式。それで、花丸を付けられて褒められたのだ。


思い出作りに遠足に行く事になった。目的地は、良く知っているつつじが綺麗な丘だった。好きな音楽を歌いながら行っていると、初君が言ったのだ。


「歌を歌う体力があるなら、俺の鞄、持てよ。」

「どうして?」

「うざいから、、、。」


これが、蓄積されて、億劫になっていく。初君に関わる現状が辛くて現実逃避していただけだ。


「別に、歌っても良いんじゃない?」

「一緒に別の歌を歌おう。」


そうして、三人で仰げば尊しを歌った。卒業まで、あと少しだが、小学校の教室が名残惜しく感じたのだ。


昼休みに、女子達に、混ざって座席占いをする事になった。占いでは、四人テーブルの右隅に座っていて、左隣、前、斜め前、それぞれ、誰が座るかという占いだった。


どの席でも初君しか思い浮かばない。どうしよう。何か聞かれるかな?私は、少しだけ焦っていた。


「椿は、どう思う?」

「初君が座るなら前の席が良いな。」


そうして、占い結果を見てみると、前の席に座る人は、恋人になる確率が100%だと書かれていたのだ。初君の恋人になりたいとは思わない。


「椿、初君と付き合えば?」

「どうだろうね。だけど、仲良くしたいとは思うよ。」


そんなはぐらかした返事しか出来なかった。私自身、初君の事は、そんなに好きではない。だけど、分家の人間だし、仲良くしなきゃいけない。


そんな途方もないプレッシャーを抱えながらも、その占いの本の別の占いをする事になったのだった。



中学生編に続く。

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