妖刀鍛冶職人の絆

小宮 あろ羽

第一章

第一話

刀李とうり……生きてるか?」

 弱弱しい声が聞こえてくる。痛みを堪えながらも、黒髪の青年は声のする方へと手を伸ばした。

 その声の主は銀髪の長い髪、そして、頭部に純白の獣の耳が生えている。彼は妖狐族だ。人間ではなく、妖。

 だが、その妖はうつぶせになって倒れている。彼の呼吸は弱弱しく、今にも命がつきてしまいそうなほどだった。

朱火あけび……」

 刀李と呼ばれた青年は右手で左肩を抑え、ゆっくりと立ち上がる。左肩から血が出ている。左手を上げようとするが上げられない。骨が折れているかのようだ。

 それでも、朱火と呼んだ妖狐族の元へと歩み寄る。一歩一歩、ゆっくりと。

 朱火の元へとたどり着いた刀李は突然両ひざをついた。まるで、力尽きたかのようだ。

 刀李の瞳に映った朱火の姿は自分よりも痛々しい様子だった。腹部から血が出ている。すでに、白い衣服は血に染まっていた。地面は血だまりができており、朱火の瞳は生気を失いかけている。命の灯が消えようとしているかのようであった。

「待ってろ、今、あのお方を……」

 刀李がゆっくりと立ち上がろうとすると、腕が地面へと引き寄せられる。朱火が力を込めて、刀李の腕をつかんだようだ。

「何するんだ。すぐにでも治療を……」

「もう、無理だ。俺は助からねぇ」

「朱火‼」

 弱気になっている朱火を叱咤するように刀李は朱火の名を叫ぶ。彼はまだあきらめていない。朱火が助かる方法を知っているようだ。それでも、朱火は首を横に振った。

「刀李、俺の話を……聞け。お前は生きろ、何が何でも」

「だったら、俺は朱火と一緒に生きたい。だから……」

「いいから聞けって‼」

 朱火の力強い声が響き渡る。まるで、命がけのようだ。

 その様子に刀李は言葉を詰まらせてしまう。その直後、朱火が咳き込み、血を吐いた。

「朱火……血が……」

「だから、聞いてほしいんだ。俺が死ぬ前に……」

 朱火は微笑んでいたが、まるで、死を悟っているように見える。刀李はそれが嫌だった。彼を失うことなど考えたくもないのだから。

「お前は、自由に生きろ。お前の生きたいように……俺の仇とか考えんじゃねぇぞ」

「だったら、お前も生きろよ」

 瞳が涙で潤んでいく。必死に抵抗しても、涙が零れ落ちてしまう。まだ、朱火と生きたい。それなのに、現実は残酷だ。朱火の命は尽きてしまうのだと、嫌でもわかってしまいそうだから。

「ありがとうな……家族に、兄弟に、相棒になってくれて……」

「礼を言うのは、俺の方だ……お前がいなかったら、俺は……」

 刀李の声が震える。朱火は刀李にとって家族であり、兄弟であり、相棒だ。種族を超えた強い絆が二人の間にある。だからこそ、朱火には生きて欲しいのだ。

 だが、朱火は決して刀李の腕を離そうとしない。そんな力は残っていないはずだというのに。

「じゃあ、な……刀李……」

 彼の名を呼んだ後、朱火の手がするりと落ちていくのを感じた。それと同時に、朱火は瞼を閉じていたのだ。一筋に涙をこぼして。

「朱火?」

 刀李は朱火の体を揺さぶる。だが、朱火は動くことはなかった。

「朱火‼」

 刀李は涙を流し嗚咽を漏らす。涙は朱火のほほを濡らした。

 妖狐族の朱火は命を落とした。刀李の前で……。

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