ビールで乾杯
凛子
第1話
結婚適齢期は人それぞれだが、自分の
半月後には、三十三歳の誕生日を迎える。
化粧品メーカーの営業職に就き、それなりのキャリアを積んできた自分は自立した女だと思うが、結婚願望はあるし、子供も欲しい。
開発部にいる二歳年上彼氏の
仕事が出来て、周りからの信頼も厚い佑都は、社内でも一目置かれる存在だった。何があっても取り乱さず、落ち着いて対応する。余裕があり、頼りがいがあり、そばにいるだけで安心感に包まれた。
真理は男に依存するタイプではなかったが、そんな佑都の包容力と男らしさに惹かれて交際をスタートさせたのだった。
今も仲はいいし、喧嘩はあまりしない。たとえしたとしても、互いに取り乱したり相手を過剰に責めたりはしない。喧嘩の理由なんてものは大抵些細なことで、意地を張らずにどちらかが謝れば拗れずに済むものだとわかっているからだろう。
信頼関係が出来ているから、余計な心配や変な焼き餅を焼いたりもしない。逆にいうと、落ち着き過ぎているのかもしれない。
だが、七年経った今でも、会えば必ずキスをし、抱き合い、身体を重ねる。付き合い始めのような新鮮なドキドキ感はなくなったが、積み重ねた深い愛情を感じることができる。
それは恐らく、真理が適度な距離感を保った付き合いを心掛けてきたからだ。もちろん、自分磨きも怠らない。付き合いが長くなるにつれて起こるマンネリ化を避ける為でもあり、自分が当たり前の存在として扱われるようになるのが怖かったからかもしれない。いつまでも、自分は特別で大切にされている、と思える存在でありたかったのだ。
真理は今でも佑都に惚れている。だからこそ余計に、何故自分だけがこんな気持ちでいなければならないのか、いつまでこの関係が続くのだろうか、とやきもきしているのだった。そんな自分にもいい加減うんざりしていた。
いっそのこと別れて、新しい出会いを探そうか。
実のところ、真理はそこまで思い詰めていた。
そう考えるのは、最近親友の山田美幸が結婚したからだ。美幸は長く付き合っていた彼氏に見切りを付けて、その後出会った人と数ヶ月でスピード結婚した。相手は教師をしている真面目で温厚そうな素敵な人で、結婚式でウエディングドレスを着て微笑む美幸からは幸せオーラが溢れていた。
やはり年月ではないのかもしれない。勢いは大事だと思う。勢いとノリとタイミングだ。
子供でも授かれば……なんて考えたこともあった。
数ヶ月前に佑都から「一緒に住まないか」と言われたが、同棲なんて始めてしまうと、それこそ婚期を逃してしまいそうだと思った真理は、「考えておく」と軽く流した。たかが紙切れ一枚のことだが、真理はその紙切れにどうしても拘ってしまうのだった。しかし、結婚を匂わせるようなことは今までしたことはなかった。プレッシャーを与えるのは良くないと聞くからだ。
ならば、一体いつまで待てばいいのだろう……。
真理の悩みは深刻で、周囲からの結婚プレッシャーに押し潰されそうになっていた。
子供を望む真理にとっては、産休育休を経て職場復帰するにしても、退職して落ち着いた頃に別の仕事を探すにしても、年齢や体力的なことを考えると悠長に構えている時間はなかった。望めば授かるなんて簡単な問題ではないと聞くし、妊娠にも適齢期があると思う。
佑都に結婚の意志がないのならば、そろそろ見切りを付けなければいけないだろう、と考えはじめていた。
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