第7話

「ちょっと座ってさぁ、観光客っぽく宮古の海見ながらゆんたくしよう。一つ終わって、はい次、じゃサワームーンらしくないだろう」



 サワムーン? 


 サングラスをかけているけれど目を細める。


 賢人を真上から照らす太陽の光が、白い砂に反射している。 



「サワームーン。ハネムーンに対して、俺達みたいな元夫婦とか元恋人同士の旅行をサワームーンって言うの、知らない? 

 甘くなくて酸っぱい感じ? 

 酸っぱさがたまらなくなって、よりを戻すこともよくあるって」



 眩しさも忘れて、サングラスを上げる。


 どんな顔したら、こんなことを言えるのだろう。



 ん? と賢人はわずかに首をかしげ、私の頭をさわった。


 なでるように。背中に悪寒が走り、両腕に鳥肌が立つ。



 やめて、と手を払ってサングラスをかけ直す。



「なんで、いいさぁ。元夫婦なんだし、俺の金で楽しんでいるんだし」



「そんな言うんだったら自分で払う。見てよ」



 歩きながら総毛立った腕を見せる。



 すっげえと言いながら、今度は私の腕をなでた。



「気軽にさわるのやめてって、何度も言ったでしょ。私たち、他人なんだから」



「由梨のことを、他人とは思えないなぁ。さっきだって若い男の腰にしがみついているのを見ていたら、嫉妬で俺、立っちゃったし」



「本当に、心から、あんたってバカ。まじで恥ずかしい」



「恥ずかさを感じるってことは、身内だと思っているからさぁ。ほら、手をつなごう」



 完璧に無視して、レンタカーの運転席のドアを開けた。


 熱い。


 頭の上と腕が特に。


 陽射しのせいだけではないのかもしれない。

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