第5話

「俺、見ててやるから由梨が先に乗って」


 おじけづいているのを隠しそうとして、失敗していた賢人。


 彼は今、青い海の上でジェットスキーにまたがり、と言ってもインスタラクターの腰につかまっているだけだが、黄色の海パンに赤色のライフジェケットでこっちを向いて手を振っている。


 度付きのサングラスに白い歯、完璧な笑顔で。


 陽に焼けた若い男が運転するジェットスキーが白い波を立てて曲がっていき、賢人は風を受けた。


 賢人の髪、薄くなったかも。


 本人は結婚当初から気にしていたけれど、遺伝だから仕方がない。


 浮気も同じ。


 賢人が幼い頃から、賢人の父親は何度も浮気をして、その度にばれて賢人の母親を泣かしてきた。


 何度か、ジェットスキーは大きく跳ねた。


 その度に、賢人の腰が50センチくらい浮く。


 賢人は運転している男の腰を必死で掴んでいる。


 こっちを見る余裕はなくなったようだ。

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