政宗シリーズ6 政宗、朝鮮に渡る 修正版

飛鳥竜二

第1話 渡海 修正版

 23年に発表した「政宗、朝鮮に渡る」の修正版です。実はPCの操作ミスで編集作業ができなくなり、新しいページで再開したものです。表現や文言を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


空想時代小説


 史実によると、政宗は文禄の役では名護屋城に残り、慶長の役で朝鮮に渡ったと記録されている。しかし、朝鮮での活躍は特に記されてはおらず、わずかに晋州城攻めに加わったという程度である。家臣の中に病が流行り、政宗にとっては思い出したくないことだったらしい。この物語は、私なりに空想を膨らませて書いたものである。


 京都の町を政宗は、誇らしげに進んでいた。足軽は派手な金色の三角帽をかぶり、武者は全員が漆黒の鎧を身につけている。どの大名行列よりも見栄えのいい行列であった。

 1592年3月、政宗勢1500は京都を出立し、肥前の名護屋へ向かった。朝鮮へは九州勢が渡海し、優勢に進んでいるとのこと。政宗勢は遊軍の立場であり、気楽な進軍であった。

 名護屋についてからも屋敷をあてがわれ、日々待つことだけが日課となった。成実だけは暇をもて余し、毎日遠駆けをして、うさを晴らしている。政宗と小十郎は、連日のように太閤の宴席に呼ばれ、今までの合戦の話の相手をさせられた。小十郎は、政宗のいる前で太閤から誘われる始末だった。

「のう、小十郎。わしはお主の力をかっておる。お主の智略は、如水に劣らぬものだ。どうだ、10万石でわしにつかえんか?」

小十郎は、前に座っている政宗の背を見ながら答えた。

「ありがたきお誘いですが、太閤さまは拙者をかいかぶっておられます。拙者の策は、奥州の地でのみ通用するもの。黒田殿のように全国を俯瞰しての策はたてられませぬ。奥州の大名の一家老が拙者の身分相応と考えております。太閤さまの元には、黒田殿をはじめ、石田殿、大谷殿といったすぐれた方々がいらっしゃいます。拙者は皆さまの足下にも及びませぬ」

 太閤は、ふつうならば機嫌を損ねるところだが、家臣をほめたたえる小十郎に悪い気はしなかった。

「小十郎、10万石損したな。政宗、お主の領土から10万石譲ってやってはどうだ?」

「ははっ、しかし、そこまでの余裕はありませぬ。今は、新しい土地の整備にあたっているところですので、落ち着きましたら・・・」

「そうであったな。会津の地を離れたばかりだからの。無理はないの」

 政宗の返答に、太閤はやや不満だったが、朝鮮の戦果が漢城(ソウル)まで進軍したことを聞き上機嫌だったので、それほど不機嫌にはならなかった。

 ところが、翌月、幸州山城(ヘンジュサンソン)の戦いで敗れ、漢城の兵糧庫が焼かれるという知らせを聞いて、太閤の機嫌は悪くなった。名護屋に待機していた東国の諸侯は援軍として渡海することとなった。対馬までの海はなごやかだったが、そこからプサンまでの海は荒れた。

「小十郎、外海はいつもこうなのか?」

「成実殿、拙者も外海は初めてでござる」

「海はいやだな。陸地で馬を駆っている方がわしには合う」

と言いながら、成実は舳先に向かい、ゲロを吐いた。陸では荒武者であっても、海では形無しである。

 プサンに着いて、しばらくしてから東海岸の蔚山(ウルサン)に進軍するように指示を受けた。また、船に乗るが海岸沿いに進むので、それほどつらくはなかった。

 蔚山では、城にこもっている義勇軍の掃討が目的だった。平地から土をもった高さ10間(20m)ほどの平山城である。敵は鉄砲を持っていないので、鉄砲を撃ちかけると離散していった。進むと矢がとんでくることもあったが、正規の兵ではないので、正確性は低い。斬り合いになっても、歴戦の強者ばかりの政宗勢にかなうものではなかった。1日で蔚山城を攻略した。

 蔚山城には宇喜多勢が残ることになり、政宗勢は黒田長政とともに、蔚山とプサンの中間にある機張城(キジャンソン)に向かった。ここに水軍の城を造ることになったのだ。政宗勢はここに1ケ月ほど滞在した。もっとも、毎日が石運びや土のう積みなので、

「わしは土方か!」

 と成実が怒っていた。しかし、政宗や小十郎は黒田家の石積みの技術を学ぶいい機会と考えていた。船で一刻(2時間)ほどのところにある西生浦倭城(ソソンポワソン)は築城の名人加藤清正が造っていた。ふもとから高さ50間(90m)ほどの山にたて堀ならぬたて石垣が造られていた。その異様な姿は目を見張るものであった。


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