美骨

滝川誠

美骨

 あなたの手って凄く綺麗だわ。だって、こんなに骨ばっているのに陶器のように光っているんだもの。こんなに露出した骨ってあまり見ないから、お姉さん興奮しちゃった。

 ごめんなさいね。

 あら、あなたの脛も素敵ね。この真っすぐな骨のライン。ああ、興奮してきたわ。

 本当にごめんなさいね。

 あなた交通事故に遭ったって言うじゃない。だから、こんなに肉がめくれて骨が見えて……。

 引かないかって? こんなの序の口よ。私はもっと酷いものを見たことがあるのだから。あら、ものって言ってしまったわ。お祓いお祓いっと。これはね、塩。舐めるとしょっぱいわよ。ああ、お腹減ったわ。

 ふふ、なんだか、あなたの体欲しくなってきちゃった。こんなに美しい骨を持っているんだもの。

 お姉さん、ずっとここにいてあげようかな。だって、段々とあなたの骨が見えてくるのが分かるでしょう? あら、ダメ? どうして?

 私は生きているからって? 大丈夫よ。私もここに捨てられて、偶然あなたを見つけたんだもの。私ももうあなたみたいにどんどん骨ばってくるものよ。こんなタプタプな肉を持った私でもね。

 怖くないかって? あなたの骨さえ見れればそれで充分よ。

 でもねえ、お腹が減るのは仕方ないとして、あなたからもらうのも気が引けるわね。ふーん、そうなの。子供の肉は柔らかいからおいしいだろうって? いい子ね、あなたは。

 私はいい子じゃなかったわ。だから、亭主に女ができて、裏切られて、喧嘩の挙句に山奥に捨てられて。もう、ここ見てよ。大きな木にぶつかって、折れてしまったの。もうこれでは歩けないわ。

 はあ、本当にあなたがいて助かったわ。お話相手になってくれるものね。

 何の話をしていたんだっけ?

 そう、あなたの骨、美しいわよ。

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美骨 滝川誠 @MakotoT

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