第3話

 昨日、急に連絡が来た時は思わず背筋を伸ばしてしまった。


 加賀野奏かがのかなで、こんな私とも仲良くしてくれる数少ない生徒――いや、うちの学年なんかみんな仲がいいから、特に仲の良い生徒。そして、私が密かに思いを寄せている人。


 彼女は私の中学からの同級生で、初めて私の世界に足を踏み入れた人。


 今日はそんな彼女と買い物だった。


 電車を降りて、乗り換えのために移動しながら、私は隣を歩く加賀野のことを盗み見る。


「環状線ってよく分からないよねー」


 そう言う加賀野は、今日もおしゃれだ。服は寒くないのかなと思うけど、肩に掛かる髪の毛は丁寧にセットされて、薄ピンクに塗られた唇が季節外れの桜を思わせる。目元もよく分からないけど綺麗に、丁寧にメイクが施されている。


 ある程度自分の世界で生きられたらいい私とは正反対の人。常に誰かと関わることができる人。


 誰これ構わず関わりすぎて、自分の抱いている感情が虚しくなるけど。


「私はJR自体がよく分からない。だって急に分離するじゃん」

「あー分かる。なんか情報多いしね」


 そう言って笑いかけてくれるのが、私だけならいいのに。なんて、面倒な人間だな、と自分でツッコミながら、乗り換えの電車に乗る。


 環状線になれば、人も多くなって、私は加賀野から離れないように気合いを入れる。


「やっぱ正月明けて結構経ってるけど人多いね」

「学生は多いよね」


 確証は無いけど、私がなにをやっても受け入れてくれるであろう加賀野。この人なら、なにも気張らず、ありのままでいられる。わざと面倒くさいことを言っても、笑って返してくれる。どこまでも優しい存在。

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