第229話 着々と進むぞ
リルが見つけた玉は、地獄の穴の最奥にある小部屋の中央、大理石の台座に置かれていた。
それを守る魔物の姿はない。
ただ、その小部屋の手前には広い空間があったし、戦った跡が残っていたから、そこで何が起きたかはすぐに想像できた。
また、リルがあっさりと倒してくれたんだな、と。
「なむ……」
敵ながら、戦いぶりを見られるどころか、その姿さえ知られることもなく消えた哀れさに、俺は手を合わせた。
次は俺の仲間として生まれるんだぞ。そしたら、リルを敵に回すことなんてないからなー。
ひと呼吸置き、改めてモニターに映る玉を見つめる。
この玉はその場に置いておくことにしよう。邪神との繋がりを断つのはもったいないし。
とはいえ、引き続き魔力を送り込ませるのは癪なので──
「フェリス、魔力吸収を頼んだぞー」
『任せてにゃ!』
フェリスたちに玉周辺の魔力を根こそぎ吸収する任務をお願いした。
やる気いっぱいのフェリスたちが可愛い。
フェリスたちは
小部屋にミチミチとフェリスたちが詰まってる。
……魔力が入り込む隙もねぇな。
これなら、玉を通して、邪神に魔力が送られることもないだろう。
一応、リルに確認。
「リル。邪神との繋がりは保持されてるか?」
『大丈夫だよー。道は魔力じゃない特殊な力で作られてるみたいだからね』
「ほーん……特殊な力、ね……?」
神力ってヤツか?
俺はあのクソジジイを神とは認めてないけど、それに類する存在だとは思うし、何かしら特殊な力を持ってても不思議じゃない。
ということで、リルの報告にすんなり納得して、次の指示を出す。
「問題なさそうなら、リルは地獄の穴内の掃討に移ってくれ。残していくフェリスやワンダーに危害が加わることのないように、な」
『りょうかい! 走るぞ〜』
これから数多の魔物を屠るとは思えないくらい気楽な様子で、リルが駆けていった。
それをフェリス(視界をモニターに共有してる子)を背負った
素早いといえば、モフタマ。
もふもふ教支部でもふもふの魅力を布教してるはずだけど、問題は起きてないかな。
神殿がもふもふ教支部にちょっかいを出すかも、って話があったけど。
まあ、さっき送り出した
と考えたところで、
まさか噂をすれば影が射す、だったか……と思いきや、声の出所を探って間違っていたことを悟る。
声が聞こえてきたのは、連絡用アイテムだった。歩夢が持つものと一対になったもの。
鳴り続ける着信音に応えて、通話を繋ぐ。
歩夢からメールじゃなくて音声通話が来るのは珍しいな。神殿のヤツらに監視されてるからって、声で内容がバレやすい通話は使ったことなかったのに。
「よっす、どうした?」
〘あー、オレオレ〙
「オレオレ詐欺かよ」
〘母ちゃん、オレだよ〙
「続けるな。俺は男だし、息子はいねぇよ」
俺と歩夢の茶番に、ミーシャたちがキョトンとしている。
日本人にしか伝わらない遊びでごめん。でも、このノリを知っている者がいるという安心感が心地いいから、たぶん今後もやる。
そう思っているのは、歩夢も同じようで、ハハッと楽しそうに笑っていた。
たぶんその近くではドロンたちが戸惑ってるんだろうなぁ。
〘時間ないから、遊ぶのはここまでにして〙
「時間ないならそもそも遊ぶなよ」
〘いいだろう、息抜きだよ。それより、連絡をくれていた邪神殴り込みの件だけど〙
「ああ。こっちに来れそうか?」
歩夢は親友の俺への仕打ちに『お礼』をしたいと、一緒に邪神へ殴り込みに行く予定なのだ。
その際の一番の問題点が、歩夢のスケジュール。歩夢は勇者として神殿の指示を受けて動き回ってるし、自由になる時間はほぼない。
なんとか時間を見つけてこっちに来ると、以前の連絡で言っていたんだけど……
〘いや、今、任務を受けてナラスト国に来てるんだ。しばらくそっちの国に行くのは難しいかも〙
「ほー……それ、どこだ……」
世界の地理がよくわからん。
とりあえず、タブレット端末で世界地図を開いて、歩夢に持たせた連絡用アイテムの位置情報を表示させる。
すぐさま青色で表示された場所に、ふむふむと頷いてから、「あれ?」と声を漏らした。
この場所、なんか見覚えがあるぞ?
『リルたちがいるところの近くにゃ』
「あ、そうだ! ここ、地獄の穴があるところ!」
さっき見たばかりだったわ。
ミーシャに指摘されてその事実に気づき、思わず膝を叩く。
つまり、今、歩夢たちはリルたちが攻略中の地獄の穴と、あまり離れてないところにいるんだな。
……ん?
じゃあ、この地獄の穴を邪神に向かうためのゲートにしたら、簡単に歩夢と合流できるんじゃないか?
俺たちはどこの地獄の穴でも、ゲートを作って
というか、勇者が出向くほどの任務が発生してるのって、地獄の穴の影響では?
地獄の穴って、豊富な魔力で近隣の魔物を引き寄せるものだし、人間にとってはその状況は厄介だろう。
神殿に勇者派遣の依頼が来てもおかしくない。
「歩夢たちの任務の期間ってどれくらい?」
〘魔物を倒して、周辺の安全確保ができるまで、だね。普通の冒険者が対応できるレベルになれば、俺たちは引き上げる予定だけど〙
不思議そうな声で応えた歩夢に、俺は口元に笑みを浮かべて拳を握った。
「じゃあ、その任務を長引かせてやるから、こっちに合流してくれ!」
〘は?〙
何言ってるんだ、と困惑してる歩夢をよそに、トントン拍子で進む状況に俺は上機嫌になっていた。
思わず拳を握って気合いの入った声を上げる。
「もうすぐ殴り込むぜ。待ってろ、邪神ー!」
『急にテンション上げて、情緒不安定かにゃ? マスター、酔ってるにゃ?』
酔ってないから、ミーシャはその冷たい視線をおやめください。
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