全力で行くぞー

第225話 勢力拡大?

 リルの報告通り、カナがいた地獄の穴は一週間もすれば消えてなくなった。

 そのことに、近隣──と言っても、魔物被害を受けないくらい離れた街──の人々もすぐに気づいたようだ。


[本当に地獄の穴がなくなってる……]

[何が起きたんだ……]


 冒険者らしき装いの男たちが、地獄の穴があった廃墟の街を一通り調査した後、真面目な顔を突き合わせている。


『マスターのおかげだよ〜』

「俺というか、ほぼリルとエンドだろ」


 偵察に出した影兎シャドウラビが、崩れた建物の影に溶け込みながら、男たちを観察し報告をしてくれた。


 普段はこういうのはアリーに頼むけど、今いないからしかたない。

 影兎シャドウラビも十分に隠れて偵察できる能力はあるんだけど、何かやらかさないか不安になるから、あまり任せたくないんだよなぁ。


[……まあ、ここが街として復興できるなら喜ばしいことだし、理由はどうでもいいか]

[そうだな。俺たちは現状を報告すりゃ依頼達成になるし]


 おい。それでいいのか、冒険者。

 真剣な顔してたわりに、結論がお粗末じゃねぇか? 地獄の穴が消えてたら、それを成した恐ろしいモノがいる可能性とか、考えないのか?


「うーん……やっぱりこいつらって、楽観的だよなぁ」

『それが国民性──世界的に普通な人間の特徴だにゃ』

「この世界で人間がなんで滅びないのか、マジわからねぇよ」


 魔物なにゃんこにさえ呆れられるような考えなしで、よくこんな世界で生き残ってきたよな、人間たち。めちゃくちゃ運がいいとか?


 影兎シャドウラビの視界を写したモニターを、半眼で眺める。


 冒険者たちは依頼された調査を終えて、街に帰還するようだ。仕事終わりにどこで酒を飲むかワイワイと話してる。

 ……俺も酒飲みたくなってきたな。


 チラッと操人形マリオネを見ると、グッとサムズアップされた。

 いそいそと酒とツマミの準備を始める操人形マリオネを見て、コイツを調査に出さなかった判断に満足する。飲み仲間は大事。


 今日の一杯目はビールだ。

 操人形マリオネに『とりあえず生ビール』の日本文化(?)を教えたら、毎回これが用意されるようになった。

 ビールは美味いから、その行動を止めることはしない。


 ツマミはサザエっぽい貝のつぼ焼きと焼きエビ、金目鯛っぽい魚の干物だ。

 どれも七輪で焼いてる最中。熱々を食べるのがいいんだよな〜。匂いだけでも酒を飲める。


 焼けるまでは、とサクに出してもらったのはフグっぽい魚の唐揚げ。

 淡白だけど旨味がある身にサクッとした衣、ちょうどいい塩味が最高なんだ。


「アチチッ……うま!」

『ゴクゴク、プハーッ』


 操人形マリオネとの飲み会に意識の半分以上が傾くと、俺の傍らで寝転んでいたミーシャに呆れた顔をされた。

 こんなに美味いものが目の前にあるんだから、しかたないだろー?


[そういやさぁ、海の方の街じゃ、『もふもふ教』つー宗教が流行ってるらしいな]

「ブフッ!」


 突然聞こえてきた聞き覚えがありすぎる言葉に、思わず口に含んだばかりだったビールを吹き出した。

 やばっ、鼻に入った! うおーっ、痛え!


『何やってるにゃ……』

「ぐふっ、げほっ」

『お掃除みゃあ』


 俺が吐き出したものを、吸収して掃除しようとするフェリスを止める。

 なんかいたたまれない気持ちになるから、やらなくていいよ。ここ、リルの草原だから、土に吸収されるだけだし。


[あー、俺もそれ聞いた。なんか、わりと高ランクの冒険者が教会幹部(?)として、布教して回ってるんだよな?]

[なんだそれ。さすが自由の街だな]

[この辺じゃ、神殿が幅を利かせてるから、無理だよなぁ]

[もふもふ教の信者になりゃ、獣系魔物に襲われにくくなるお守りをもらえるらしいぜ? どうせなら俺も、神殿なんかより、そっちを信仰したいぜ]

[[[わかるー]]]


 冒険者たち全員が一斉に頷いた。

 現世利益って強いな……それを信仰と呼んでいいかはわからないけど。

 神殿への思いが弱まってるんなら、歩夢の目的と合致するし、嬉しいことだ。


[辺境の山の方じゃ、なんか魔物の分布変化とかあったらしいぜ]

「ブフッ」


 話題が変わったと思ったら、また身に覚えがある話だった。

 それ、リルの狩り場だった山のことだな。今はもう完全に管理されて、魔物の分布も正常化されてる。


[へぇ。海の街の方にダンジョンができてから、なんかいろんなことが起きてるなぁ]

[海の街が美食の街になったり?]

[その影響で他国の勇者が来たり?]

[街を滅ぼした地獄の穴が突然消えちまったりな?]

[もしかして、全部ダンジョンマスターがしたことだったりして]

[[[んな訳ないだろー]]]


 あっはっはー、と楽しそうに笑ってる冒険者たちから目を逸らす。

 ……そんなこと、あるんだよなー。


[あ、神殿がもふもふ教に喧嘩を売ろうとしてるって話は聞いたことあるか?]

[今更? わざわざ?]


 予想外の情報が耳に飛び込んできて、のほほんとしていた気分が吹っ飛んだ。


「マジで?」

『勇者と一緒に来てた神官は、失意のまま立ち去ったはずなんだけどにゃ』

「いつの間に?」


 ゲスい感じの神官は、すでにいなくなっていたらしい。そういや、最近話題を聞かないな、とは思ってたんだよ。

 ミーシャ曰く、決定打はもふもふ教の急速な広がりだったそうだ。

 神殿の勢力低下の責任を、その時街にいた一番地位が高い神官に背負わせたとか。


 他国のヤツなのに、それでいいのか……。

 そこはかとなく、マーレ町の偉い人たちが暗躍した気配を感じる。お仕事お疲れさまです。


[もふもふ教が海の街以外にも進出しようとしてるからなー。神殿が危機感抱くのもしかたねーだろ]


 それも初耳なんだけど?

 え、俺が知らない内にもふもふ教の勢力が増してる??


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