第221話 住むところ

 カナを仲間に迎え入れたからには、生活環境を整えなくては。

 魔力を引き寄せるという体質がまだあるなら、外に出してやることもできないし、ダンジョン内の生活に慣れてもらいたいからな。


 小屋の前に腰を下ろして、カナと向かい合う。


 誓約の効果か、エンドはカナへの警戒心をあっさりと捨て去ったようで、本格的に昼寝をし始めていた。


 その緩んだ雰囲気を感じ取ったのか、カナもリラックスした様子だ。

 よしよし、その調子でこのダンジョンと仲間たちに馴染むんだぞー。


「カナはどこを住処すみかにしたい? 好みの環境ってあるか?」

『んー……よくわかんない。好みってなに?』

「あ、そっか、カナはこれまで他の場所に行ったことないんだもんなぁ」


 きょとんと首を傾げるカナを見て、苦い思いが込み上げてきた。

 これまで自由がなかったカナを、ちゃんと幸せにしてやりたい。


 でも、まあ、最初は俺がカナに合いそうな住処を選んでやるのがいいかもな。

 ダンジョン内のことを知って慣れてきたら、好きなものもわかるようになるだろ。


「──よし。カナに合いそうな場所を考えるためにも、まずはカナのステータスを確認するぞ」

『ステータス……アルジがそうしたいならどうぞ?』

「あ、そのアルジってのもやめよう! 前のヤツと同じ呼び名はイヤだ!」


 カナからの呼び方がちょっと不愉快だったので、すぐさま変えさせることにした。

 俺は『カナメのアルジ』のようなことはしないぞ!


『じゃあ、なんて呼んだらいいの?』

「んー、スイ以外はみんな、マスターって呼ぶから、それでいいんじゃないか?」


 うんうん、と頷いて俺がそう言うと、カナはすんなりと納得したようだ。


『わかった。マスターだね』

「うん、よろしくな! ──スイは、なんでしょぼくれた顔してるんだ?」


 ふと視界に入ったスイの様子が気になり問いかけた。

 しょんぼりと項垂れている姿が、なんだか憐れみを誘う。


『主と呼んでは、いけないので、ございますか……』

「おっと、そこが気になったのか!」


 まさかの落ち込み理由だった。

 俺のことを主と呼ぶのは珍しいけど、スイから言われるのは違和感がなくて気にしたことがなかった。


「──いや、スイはそのままでいいぞ? アルジと主は別物だからな」

『? 同じでは??』


 スイは言葉に含まれた微妙なニュアンスの違いを感じ取れなかったようで、不思議そうにしている。


「発音的には一緒だけど、含まれる感情が全然違うんだよ! だから、スイはそのままでいい。もちろん、マスター呼びに変えたかったら、そうしてもいいけど」

『……むむ、言葉というものは、なかなか難しいのですなぁ。主が構わないと仰せになるならば、このまま主と呼ばせていただきたく存じまする』


 オッケー、と微笑んで軽く頷いて見せると、スイがホッとした顔でもふりと尻尾を揺らした。

 もふもふがもふもふの誘惑をしてくる……くっ、触りたい! 触る!


『マスター、さっさとカナの居場所を作ってやれにゃ』

「くふっ……肉球パンチもいいですね」


 スイの尻尾目掛けて手を伸ばそうとしていたら、ミーシャから顔面肉球アタックを食らった。

 ちょっぴり香ばしい匂いがする厚めの肉球も好きです。大型ネコ科のたくましさを感じる。


『馬鹿なことを言ってるんじゃないにゃー』

「なんかちょっといつもより冷たくない?」

『まだ仲間になってない魔物の前に平然と現れるマスターが悪いにゃ』

「……あらら、やっぱり機嫌を損ねてたのか」


 ジト目のミーシャに苦笑する。

 カナがもう仲間になっているから、改めて説教をするつもりはないようだが、それはそれとして俺の警戒心の薄さに怒っているらしい。


「──ごめんなー、ミーシャ。二度としないとは言えないけど、これでもお前たちを信頼した上での行動だから! 実際、もし何かがあったとしても、きっと大丈夫だっただろ?」


 ミーシャをわしゃわしゃと撫でながら懐柔を試みる。

 しばらく続ければ、にゃごにゃごと言葉にならない文句を連ねられたが、多少は溜飲が下がった様子だ。


『……マスターは信頼してると言えば、ミーシャたちを納得させられると思ってるにゃ』

「ぎくっ……そ、そんなこと、ナイヨー……」


 目を逸らした俺をミーシャがジト目で見据えるも、すぐにため息をついて地面に身を伏せた。


『後でリルに怒られるといいにゃ』

「……そうだな?」


 リルの方が懐柔が簡単な気がするのは、きっと俺だけではあるまい。

 とりあえず、リルの毛を整えるブラシの用意と、好んで食べる肉を用意しておこう。相棒のご機嫌とりは大事。


『それで、カナの家はどうするんや? ついでにアタイたちの家も用意してくれへんか』

「あ、そうだったな。コウたちの居場所も作ってやらないとなー」


 コウがカナを舐めて毛繕いしながら、話をもとに戻してくれた。

 仲いいなー。カナは『え、これどうしたら……?』と戸惑ってるけど。コウったら、強引なんだからー。


「カナはまだエンドを怖がりそうだし、ここ以外がいいよな。住処によさそうなのは、狼族獣人たちのとこか、4階もふハニトラか……」


 思ったより選択肢が少なかった。

 リルにも怖がりそうだから、草原はダメだろうし、3B階密林遺跡は冒険者の出入りが多すぎて落ち着かない。1階洞窟12階洞窟2も同様。

 5階雲の上は普通じゃなさすぎて、居心地がよくなさそうだもんな。


 4階もふハニトラは狼系の魔物が多いし、同じイヌ科の見た目ってことで、わりと馴染むかもしれない。


 迷いの効果を付けた一画に家を置いてやったら、冒険者に煩わされることも早々ないし。……そもそも現時点で4階もふハニトラに到達できてる冒険者がほぼいないのだが。


「——うん、今んとこ4階もふハニトラ一択だな」


 カナに聞くまでもなかった。

 とりあえず、設置した小屋を4階もふハニトラに移設させてやろうっと。


 ……あれ? 何か忘れているような?


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