第214話 カナメの意味
フェリスをモミモミして癒やされながら、がんばって思考を続ける。
「カナメの自我が薄れて、誰にどんな利益があるのか……」
俺がポツリと呟いた疑問が聞こえたのか、ミーシャが視線を向けてくる。
『あの汚くて臭い状態は、エンドに強いと言われるくらいには、普通の生き物にとって驚異的な存在だったにゃ』
「きゃん(汚い……臭い……)」
ミーシャの言葉に、カナメが地味にショックを受けてる。しょぼんと耳と尻尾が垂れていた。
可哀想だけど、それは事実だからフォローできないぞ。スイとコウのおかげで、バッチイ状態から解放されて良かったな!
「あー……つまり魔物兵器的な?」
ふと思い浮かんだ言葉に、自然と顔が歪む。
どう考えても胸糞悪いだろー、それ。
元々人間に敵対する存在の魔物を、さらに穢れた魔力で凶悪化させて、自我を奪って周りを傷つけるだけの存在に変えるなんて……。
『そうだにゃ。仮にそれを作ろうとしたのが邪神だったとしたなら、その目的は人間の敵を作ることなんじゃないかにゃ』
「そうだろうなぁ。ダンジョンだって、基本的には人間の敵になるもんだし」
邪神は俺にとって邪悪な存在だし、人間にとっても間違いなく害悪である。
こんなことをしでかしたとしても、なんら不思議ではない。忌々しいことに。
「──あ、でも、カナメっていうのはなんだ? 結局、ただ単に名前だった感じ?」
何か重要な役割を意味していると思ったんだけど、自我を奪って兵器にする存在は、要というイメージから少しズレている気がする。
『ふにゃ……それはわからないにゃあ』
ミーシャと顔を見合わせて首を傾げる。
『あの場所を安定化させる役割のことじゃない?』
不意にそんな言葉を放ったのはエンドだ。
チラリとカナメを見た後に、尻尾の先をペシペシと揺らして地面にぶつけて遊んでいる。
「安定化?」
『うん。あの場所、たぶん無理やり魔力を集めるところにされてたみたいだし。その狐がいなくなった後、空間がちょっと不安定になって揺らぐことがあったよ。魔力が集まりにくくなったんだろうね。今すぐ空間が消滅する感じではないけど』
「へえ? そりゃ、新事実だ」
不安定になってるなら、エンドたちをさっさと帰還させたのは正しい判断だったな。
あそこに魔力を集める仕組みのもとになっているのがカナメなら、アルジとやらに要と呼ばれていた理由にもなる。
「──元々街があったところの地下にカナメを置いて、魔力を集めさせて地獄の穴にし、魔物をおびき寄せるエサにして街を破壊した……って感じか?」
となると、カナメ自身が魔力を集める性質も持っている可能性がある。
そして、あの場所で魔力を集めれば、誰よりも多くの穢れも溜め込むことになり──自我の消失に繋がるわけか。
「んー……ちょっと実験」
DPを使って、魔力を物質化した結晶を粉末にしてみる。
何やってるの、というエンドの視線をスルーして、その粉をカナメの近くに置いてみた。
魔力の粉はフワリと風で舞い上がるようにカナメに近づき張り付く。
「きゃんっ(ふがっ、けふ、こほっ)」
粉で鼻を刺激されたカナメがむせた。さらに、くちゅん、と可愛いくしゃみをしてる。
「あ、悪い」
「きゃん……」
ジトリと恨みがましげな視線を受け、濡れタオルでゴシゴシと拭いてやった。
幸い、カナメを監視しているリルは俺の行動を止めない。
ここにいるのが俺本体だったら、確実に止められてただろうけど。
「実験は成功だな。やっぱりカナメは魔力を集める性質があるみたいだ。まるで砂鉄に対する磁石だなぁ」
あらかた粉を拭き取り、タオルをのけると、カナメがぶるぶると身震いをした。
魔力の粉なので、多少残っていても自然と消えるはずである。
「邪神はなんでこんなことをしたんだろうなぁ」
ヨシヨシ、とカナメの頭を撫でながら呟く。
邪神の気配はちょっと嫌だけど、子狐らしい姿のカナメは、フワフワの毛が最高の触り心地だ。
さすがにリルに『そいつより、僕を撫でてよ!』と制止されたから、すぐに離れた。
はいはい、リルも可愛いぞー。
ワシワシと撫でると、リルはカナメを監視したまま心地よさそうに目を細める。
「……きゃん(アルジの力の源を集めるのと、新たなダンジョンの素を作るため、って聞いたよ)」
不意に聞こえてきた小さな声に、俺はピタリと動きを止めた。
カナメを見下ろすと、居心地悪そうに身じろぎしているのが見えた。
「なんで話す気になったんだ?」
「……きゃん(アルジのことはよくわからないけど、あなたは悪い存在ではなさそうだし。恩は返さなきゃ)」
「恩って……お前の穢れを浄化させたのは、別にお前のためじゃないんだけどなぁ」
「きゃん(それでも、ウチが完全に自我をなくす前に回復できたのはあなたのおかげ)」
恩返しの押し売りである。都合がいいから受け取るけども。
アルジという邪神(またはその関係者)に対して、大して忠誠心がなさそうなのはよいことだ。
それにしても、力の源と新たなダンジョンの素、か。
もしかして、偽神にとっての神殿(そこで集められる信仰心)が力の源であるように、邪神にとっては地獄の穴が力の源か?
魔力がDPになることを考えたら、同じように邪神の力になっていても不思議じゃない。
ダンジョンの素っていうのは……ダンジョンマスターのことかな。
俺は別の世界で死んで、ダンジョンマスターの身体に魂を詰め込まれたような状態である。
そのダンジョンマスターの身体を作るのに、大量の魔力が必要なら、邪神が魔力を集めるのも当然だ。
「ふーん……矛盾はなさそうだし、正解っぽいな」
つまり、カナメは邪神が魔力を集めるための要だということ。
これ、邪神に一矢報いために使えないかな?
ちょっとやる気が湧いてきたぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます