第212話 黒い繋がり

 わからないことばっかりだなぁ、と思いながらカナメを観察する。

 一度感じた僅かな不快感は消え去ることはなく、かと言ってカナメ自身に何か思うところがあるわけではない。

 自分のことなのに、なんとも不思議な感覚だ。


「リル、嫌な感じっていうの、もうちょっと詳しく説明できないか?」

『うーん? そうだなぁ……』


 相棒にヘルプを求めたら、リルが真剣な表情で考え込んだ。

 ここですぐさま『わからない』と突き放さないところがリルのいいところ。


 もふもふの毛を感謝の意を込めて撫でてやる。……別に、俺が考えるのに疲れて癒やしを求めたってだけじゃないんだぞ?


 ジトッとした目で見つめてくるミーシャから視線を逸らしたのは、少しばかり心当たりがあったからだけど。

 もふもふに癒やされて何か悪いことでもあるのか!? なんて開き直るのもいつものことだ。


『あ、そうだ! あれに近いんだよ。あれあれ!』

「どれだよ」


 何か思い出した様子のリルが鳴き声のようにアレアレと言ってるけど、微塵も理解できない。あれってどれ?


『ミーシャはその嫌な感じ自体が全然わからないにゃ』

「あ、そうなのか」


 リルが『えーと、あーと……』と説明の言葉を選ぶ間を繋ぐように俺とミーシャが話していると、コウとスイも加わってきた。


『なんの話や? 嫌な感じってなんやねん』

『コウ、そのように主にまとわりつくな。不敬であるぞ』


 俺の足にじゃれついてくるコウを、スイが咎めるように軽く叩いている。

 もふもふがじゃれてくるのは大歓迎だから、不敬とか考えなくていいぞー。


 コウとスイの頭をワシワシと撫でる。

 この二体、見た目は似ていても触り心地が違う。コウはフワフワしていて、スイはサラッとした感じ。どちらも魅力的なもふもふであるのは違いない。


『えーっと……ほら、マスターに初めて会った時の!』

「俺!? 待ってくれ。リルは俺に会った時に嫌な感じがしたのか!?」


 それが事実なら、めちゃくちゃショックなんだが!

 衝撃的な告白をされて俺が固まると、リルは慌てた様子でブンブンと首を横に振った。


『マスターに、じゃないよ!? マスターに変なものがへばりついてるように見えたんだ。それがすっごく嫌だったんだよ』

「変なもの?」


 すぐさま否定してもらえてホッとしたものの、まったく心当たりがなくて困惑する。


 リルと会ったのは、俺がこのダンジョンに来てすぐの頃だぞ。何かに接触したわけでもないし……


 ──いや、直前に会ったヤツはいたな?


 思い出していた途中で、嫌な記憶が掘り起こされて、眉間にシワを寄せる。


『その変なものは、僕が環境を変化させたらすぐに消えたけどねー。それ以降は全然感じたことないよ』


 ニコニコと笑って報告してくるリルの可愛らしさに癒やされながら、「そっか。ありがと」とお礼を伝える。


 俺の予想が間違っていなければ、その変なものは俺も大嫌いなヤツの名残である。それをどういう仕組みかはわからないが、払い除けてくれたというのなら、めちゃくちゃありがたい。


 だって、俺にまとわりついてた変なものなんて心当たりは、邪神の気配しかないんだから。

 俺はリルと出会う直前に、邪神からダンジョンマスターとしての命を与えられて、情報を詰め込まれた上でここに送り込まれたのだ。

 邪神の気配が俺に残っていても不思議ではない。すげぇ不快だけどな。


「そういや、リルはここで生まれてすぐに、真っ白な空間を嫌がって環境を変えさせたなぁ」


 リルの能力によってすぐさま現れた草原に、リルはもちろん俺も心地よさを感じたことを思い出した。

 それが不快なものまで追い払っていたとは知らなかったけど。


 でも、そういうことなら、このカナメは──


「きゃん(なに……?)」


 上目遣いで伺ってくるカナメを見下ろして確信した。

 あ、これ、邪神と繋がってるヤツだわ、と。


 リルに言われて改めて観察してみれば、あっさりと気づくことだった。

 カナメにまとわりついている空気が、どこか邪神と対面した時に感じたものと似ていることに。


 たぶん、カナメにその自覚はないよなぁ。

 アルジというのが、邪神自身か、その関係者の可能性が高い。


 はー、ますますカナメの対処方法がわからなくなったぞ。

 つーか、このカナメっていうのも、名前というより〈要〉っていう役目のことじゃないか?


 要とは、最も大切な部分とか要点という意味がある。

 カナメはあの魔力に満ちた空間で、要と言われるほどの何か大きな役目を負っていたのではないだろうか。


「あー、カナメはアルジっていうヤツに、あの場所で何か仕事を任されていたんじゃないか?」


 警戒心を煽らないよう、口調を和らげて聞いてみる。

 カナメの口はさほど堅くなさそうだし、さり気なく誘導尋問をすればすんなり情報を吐いてくれそう。


「きゃん(仕事……ウチはあそこにいることが務めだった)」

「それじゃあ今はマズい状況なのか。知らなかったとはいえ、強制的に連れてきちゃって悪かったな……」


 悪いとは思ってないけど、とりあえず謝罪する。これもまた懐柔手段の一つだ。


 ……ミーシャから疑わしげな目を向けられてる。

 嘘っぽい態度だと、仲間にはバレバレだ。スイとコウはまだ付き合いが長くないから、何も気づいてないみたいだけど。


 カナメは俺の心の中なんて知らないまま、しょんぼりした感じで「……きゃん(ううん)」と首を横に振った。


「怒られたりしないのか?」

「きゃん(アルジに会ったのは一回だけ。ウチ、あそこにいてたくさんの魔力に触れていたせいで自我が薄れてたけど、アルジがずっと来てないのは知ってる。ウチがあそこにいないことを、アルジは気づかないはず)」

「ほー……」


 あの場所で大量の魔力に触れていたら自我が薄れるらしい。


「──エンドたちに撤退命令発動!」


 すぐさま、仲間の安全第一の指示を飛ばしたのは当然である。

 自我を失った古竜エンシェントドラゴンとか、ヤバすぎるだろ。


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