第205話 攻略開始!

 エンドがフェリスと影兎シャドウラビ一体を連れて地獄の町に出発した。


 影兎シャドウラビも一緒なのは、あわよくば魔物も連れ帰ってきてDPにできないかと目論んだから。影兎シャドウラビは影に獲物を放り込んで運べるからな。


 エンドたちとすれ違うように、操人形マリオネがダンジョンに帰還する。


 リルの草原に戻ってきてすぐに飲み会の準備を始めていた俺は、ニヤリと笑ってビールの瓶を掲げて見せた。


『ただいまですー』

「おかえり。これからエンドの攻略を観戦するぞー。お前も酒飲む?」

『飲みます!』


 観戦には酒が必須だよな。

 ということで、久々に操人形マリオネとビールを飲むことにした。つまみは唐揚げやウインナーなど。

 味濃いめのつまみを食べて、ビールを喉に流し込むと、簡単に幸せを味わえる。


「くぅーっ、最高ー!」

『うっまー』


 操人形マリオネと顔を見合わせてニコリと笑った。

 やっぱり飲み仲間がいるのは楽しいなぁ。


 リルは巨大な骨付き肉のローストを、はぐはぐと噛みながらモニターを見つめていた。楽しげに尻尾が揺れている。

 エンドが帰ってきたら、交代でリルが楽しめるといいなぁ。


『あの穴、エンドが入れるにゃ?』


 焼き魚を食べていたミーシャが、モニターを眺めて首を傾げた。


 モニターにはフェリスの視界を共有して映している。

 この方がエンドの戦いっぷりをしっかり観戦できると思ってな。


『入れますよ。あの穴、大きさが変わるんです』

「どういうことだ?」


 操人形マリオネの回答に尋ね返したが、『まあまあ、見ていてくださいよ』とモニターを指し示された。


 モニターには闇に覆われた穴が映っている。

 エンドが入るのは難しそうな大きさだけど──それが不意に広がるのが見えて、俺は目を見開いた。


『わあ、ベストサイズになったよ』


 エンドの声が聞こえる。

 操人形マリオネに解説を求めて、俺は視線を向けた。


『あの穴は概念的存在で、入ろうとする物体に合わせて大きさが変わるんですよ。だから、中にいる魔物の大きさも多種多様になってます』

「ほー、そりゃ、魔物を集めるのに適した感じだな……」


 何某かの意図を感じるのは俺だけか?

 チラリとミーシャを見ると、同意を示すように頷かれた。


『じゃあ、入るよー』


 エンドが躊躇いなく地獄の穴に足を踏み入れる。

 その後ろを、フェリスを背負った影兎シャドウラビが続いた。


 ……常に影兎シャドウラビの耳がモニターに映ってるのが、地味に癒される。耳だけで可愛いとは、影兎シャドウラビ恐るべし。


「真っ暗だなぁ」

『んー、微妙に何かの影が見える気がするにゃ』

『ミーシャは暗視能力が高いですね。俺は全然です』


 モニターに目を凝らしても、真っ暗で何も見えない。

 明かりを持っていかせるべきだったかな。


 ちょっと後悔していたら、不意に薄明るくなった。暗いけど、そこに何があるのかはちゃんとわかる。


「……予想外だった。地底じゃないのかよ」


 モニターに映ったのは、灰色の雲のようなものでできた筒状の空間だ。ところどころに出っ張りや穴がある。

 道はなだらかに下っているように見えた。


 地面にできた穴の中だったから、土に囲まれているのかと思っていたのに……これは瞬間的に転移してるのでは?

 というか、ダンジョン空間と似てる気がする。ダンジョンも、突然環境が変わるし。


『おー、魔力いっぱいだ』

『もぐもぐ……うまうまみゃあ』

『ネコ、いっぱいたべておおきくなるんだよ〜』


 キョロキョロと周囲を見回すエンドの姿と共に、フェリスと影兎シャドウラビの声が聞こえてくる。

 みんな仲良さそうで何より。フェリスもちゃんと魔力を吸収してるみたいだし。


「魔物はいるのか?」

『小さくて弱いのがいるみたいだね』


 エンドの報告を聞いて、モニターに目を凝らしてみる。

 灰色の雲が出っ張ってる陰に、確かに何かがいるような……。小さくて弱いの、と言えばスライムとかか?


『あ、これは黒鼬ノワフェレですね』

黒鼬ノワフェレ? それ、4階もふハニトラの屋敷にいるイタチ系の魔物じゃないか? サイズは小さいけど、それなりに強いだろ」

『エンドにとっては、スライムと大して変わらないのでは?』

「……古竜エンシェントドラゴンだもんな」


 操人形マリオネの言葉に納得した。

 古竜エンシェントドラゴンは大きくて強いから、多くの魔物が小さくて弱いという評価になるだろう。

 深く考えると、古竜エンシェントドラゴンという存在ってちょっと怖いよなぁ。人間が警戒するのも当然だ。


『どーん』


 エンドが爪の一撃で黒鼬ノワフェレを倒した。逃げる隙も与えない瞬殺だった。つよ……。


 その後もエンドの無双は続く。

 操人形マリオネが報告してくれた通り、地獄の穴の入り口近くは弱めの魔物ばかりのようだから。

 奥に進むごとに強くなってきてるし、サイズもデカくなってるんだけど、エンドにとっては誤差に近いんだよなぁ。


『エンド、退屈しそうだねー』

「あ、リルもそう思うか?」


 暫くビールを飲みながら観戦してたけど、どう考えてもエンドの強さに見合ってないレベルである。

 この程度なら、訓練所のエクストラエリアの方がまだ歯ごたえがある敵と戦えるだろう。 


『えっほ、えっほー』


 エンドが駆ける。

 出会した魔物は一撃で倒し、強い魔物を求めてひたすら奥へと進んでいった。


 改めて、古竜エンシェントドラゴンの強さを思い知った気がする。

 凶暴そうな魔物たちがあっさりとやられていくんだもん。


 こりゃ、十分に戦えなくてむしろストレスが溜まるんじゃねーか?

 発散できるようにエクストラエリアを改造しておくべきかな。改造したものをエンドとリル専用にしたら、人間にとって絶望的な敵だって用意できるだろ。


 ──そんなことを考えながら酒を飲んでいたら、不意にエンドの足が止まった。


「エンド、どうした?」

『いい感じに強そうな気配を感じた! いっくぞー!』


 エンドが気合いを入れて走っていく。

 お、ついに強い敵と出会えるのか? 正直同じことの繰り返しで俺も飽きてきてたから、ちょっと楽しみだ。


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