第260話 偽神どーこだ?

 たぬたぬ、と必死に鳴いてるエセタヌキを放置して、トリクン二号を起動する。

 歩夢とタイシのために、さっさと偽神を偵察するぞ。


 なぜかエセタヌキがトリクン二号を見て、ビクッと震えて後ずさりした。


 そんな怖い見た目じゃないと思うんだけど──って、あれか。これが近づいてきたと思ったら、爆発して被害を受けた経験があるからビビッてるのか。

 うん、そりゃ離れようとするよな。納得である。


 ピルピルと震えているエセタヌキをスルーして、影兎シャドウラビたちが見つけてくれた穴の中を覗き込む。

 底にはまだ白と黒の煙の渦があった。これが偽神に通じているはずだ。

 トリクン二号を出動させる。いってらっしゃーい。


「トリクンからの映像はこれで見られるぞ」


 アイテムバッグから取り出したモニターを見せると、全員の視線がモニターに集まった。エセタヌキも例外ではない。


 エセタヌキがなぜかポカーンとした顔をしてるんだけど、俺をダンジョンマスターにした邪神のくせに、こういうアイテムのことを知らないのか?

 ダンジョンマスターとしての能力って、邪神が用意したものだと思ってたんだけどな。


 邪神はリルのことも把握してなかったみたいだし、俺を世界に送った後は観察してなかったのかもな。

 俺たちをゲームの駒みたいに扱ってたわりに、放置するのは不思議だけど。


「あ、場所が変わったね」


 モニターの映像を観察していた歩夢が呟く。

 俺も思考を止めてモニターを見ると、そこには朱色の建物が映っていた。木造の神社みたいな見た目だ。

 周囲には砂利が敷き詰められ、巫女服らしき装いの女性たちが箒を片手にせっせと掃除をしている。


 ……これ、まんま神社では?

 少なくとも、神社を模して作られた可能性が高い場所だと思う。

 この世界にある偽神の神殿が完全に西洋風なわりに、なぜ住処は和風なのか……どっちかに統一してくれ。


「この女性たちはなんだろうな?」


 巫女服の女性たちは、頭の上にもふもふの尖った耳がある。狼とかキツネとかに近い感じ。

 もふもふの尻尾もあって、獣人の巫女さんって感じだな。


「偽神の眷属的な感じじゃないか?」


 俺の疑問に答えた歩夢は、ジッと映像を眺めて眉を顰めている。

 ようやく恨みを向ける先である偽神に近づいているというのに、あまり晴れやかな感じではない。

 それをちょっと気にしつつも、俺は「エセタヌキの後に、キツネ巫女な眷属か……」と呟いた。


 タヌキとキツネって化かし合いをする妖怪の代表格だよな。

 邪神=エセタヌキ=妖怪、という説が強まった気がする。偽神もキツネの妖怪なのかな。


 つーか、偽神はちゃんと神らしい感じを普段から保ってるんだな。ちゃんと眷属がいるみたいだし。

 それを考えると、邪神の手抜き具合がなかなかひどい。

 誰か来るとは思わなかったってことだろうか。ダンジョンマスターと会う可能性があることは知っていたのに。


 チラッとエセタヌキを見ると、モニターを凝視して尻尾をユラユラと揺らしていた。

 偽神のことが気になるらしい。くだらない喧嘩をしていても、仲が悪いわけではないのだろう。


 そう考えると、バカバカしい争いに巻き込まれた身として、ますますゲンナリしてしまう。

 俺たちや世界を巻き込まずに、自分たちだけで喧嘩しててくれよ……。他人に迷惑かけるんじゃねえ。


「トリクンが見つかったけど、大丈夫?」

『追っかけられてるよー』


 歩夢が心配そうに問いかけてきた後すぐに、リルがのほほんとした口調で報告してきた。

 モニターには、トリクンを追いかけるキツネ巫女さんたちが映っていた。どの顔にも〈なんだこれ?〉と疑問が浮かんでいる。

 とりあえず、箒で叩き落とそうとするのはやめていただきたい。暴発しちゃうぞ?


『トリクンがイジメられてるにゃー』


 ミーシャがソワソワとした感じで言った。

 クールな感じだけど、それなりに仲間を守ろうとする意識が強いミーシャ的に、トリクンもしっかり仲間として認識されているらしい。心配して助けに行きたそうだ。


 でも、トリクンは最終的に自爆させる可能性が高いんだよなぁ。あんまり心を寄せないでほしいなぁ。

 ──なんて思いつつも、魔物らしい性格でもあるミーシャを心配する必要はないだろう。

 トリクンが自爆しても、偽神に被害を与えられれば『よくやったにゃ!』と満足そうに評価するに違いない。


「大丈夫、大丈夫。これくらいの攻撃はあっさり躱せるから」


 俺は軽い口調で答えた。

 実際、トリクンの回避能力は、キツネ巫女たちより上なので、なんの問題もないのだ。


 タイシが感心した様子で「こういうアイテムも、監視や防衛にいいですね」と頷いていた。

 いずれ迷宮都市のダンジョンに、トリクンがロボット系魔物として登場するかもしれない。


「いよいよ中に入るみたいだね。偽神はどこにいるのかな」


 トリクンが高度を上げてキツネ巫女さんたちを振り切り、建物の裏手に開いていた窓から内部に侵入した。

 歩夢が真剣な表情で映像に目を凝らしている。


「さあ? しらみ潰しに探せば、見つかると思うけど──」


 俺が歩夢にそう答えている途中で、気になるものを発見した。


 神社っぽい厳かな雰囲気のある建物内部で、異質な内装の一室。

 ──大量のウサギのぬいぐるみが、壁全面に設えられた棚に、ところ狭しと並べられている部屋だ。


 ぬいぐるみ一個一個は可愛いのに、たくさん集まるとちょっと狂気的な感じ。

 ぬいぐるみのつぶらな目は、部屋の中央に向けられている。

 彼らが何を見ているかと言うと──


「……キツネの置物?」


 動物のキツネそっくりのモノが、部屋の中央で一体のウサギのぬいぐるみと見つめ合っていた。

 ウサギのぬいぐるみは白い毛でフワフワしていて可愛いんだけど、キツネのあまりに鬼気迫った雰囲気とギャップがありすぎて、なんか怖い。


 なにこれ。

 新手のホラー映画か?

 予想外の光景に、ドン引きしてしまった。


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