第128話 勇者御一行を観察中⑩
危なげなく密林を進んだアレックスたちに、俺は僅かに呆れた。本気で、
そこまでする必要あったか? アレックスたちなら気配を読んで対処できそうだと思うけど。
『む〜アレックスたちのかげをつかえば、けっかいなんてむしできるけど〜』
『いちげきでヤれないと、ボクたちがバレちゃいそうだよね〜』
「って、結界無視できるんだ?」
ほのぼのと会話を聞き流してしまいそうになったけど、結構重要なことを言ってる気がする。
俺が
『じめんにはけっかいをはってないもんね〜』
『ぶつりけっかいはてんいをふせげないよ〜』
口々に説明してくれる
だから、俺の〈姿を見せるな。存在をバラすな〉という命令がなければ、いつでもアレックスたちを襲えるようだ。足元の影から突撃すれば、アレックスたちに反撃される恐れも少ないという。
ただ、その場合、三人の誰かに姿を見られる可能性は非常に高い、というのが
狭い結界内で退避用の影にすぐさま飛び込むのはなかなか難しいことのようだ。
「へぇ、そっか。じゃあ、物理結界を張ってるのも、間違いではないってことだな」
『そうだね〜。ボクたちはくやしいけど〜』
答える
遺跡内に入った三人は、遭遇するアンデッドを一撃で倒して回っている。やはり普通の冒険者とは桁違いの実力だ。あっという間に祈りの間についてしまった。
[不可視の敵には物理結界が有効ってのは確かだと考えてもよさそうだな]
[どのくらいの頻度で襲ってくるかわからないから、一概にそうとも言えないけれどね]
ドロンとリーエンが話し合っている側で、アレックスは祈りの間にある石像を興味深そうに観察していた。
[犬? 狼? それと、猫……ウサギ……随分とここのダンジョンマスターは動物というか、魔物が好きなんだね。しかも全部もふもふした獣系で可愛い]
[あ? 確か、もふもふ教、だったか?]
[そのよくわからない宗教も、神殿がピリピリしている原因の一つよね]
リーエンの言葉に、俺は思わず「え、なんで?」と声をこぼした。その疑問の答えはすぐにアレックスからもたらされる。
[基本的に神殿は一神教だからね。とはいえ、こんな遊びで適当に作ったようなものを敵視するって、ちょっとどうかと思うけど]
口元を手で隠して笑いを噛み殺すアレックスに、リーエンとドロンが不思議そうな目を向けた。
[え、遊びなの?]
[宗教を遊びで作るってどういうことだよ……]
[それ不思議になること? こういう神殿っぽいフィールドを作ったらそれらしい宗教を設定したくなるものじゃない? たぶん後付けで適当に宗教を作ってる気がするよ]
アレックスが宗教学者よりちゃんともふもふ教のことを理解してる!
俺は衝撃と共にちょっぴり嬉しくなった。学者たちが騙されてくれたのも、見て楽しかったけど、やっぱり俺が本気でもふもふ教なんて意味わからないものを信じてるなんて思われてるのは微妙だなーって感じてたんだよ。
[え、ダンジョンマスターってそんないい加減な感じでダンジョンを作っているの?]
[マジかよ……]
顔を引き攣らせているリーエンとドロンに、アレックスは[たぶんね。ここは歴史が浅いダンジョンだし、わりと行き当たりばったりで作られている箇所が多い気がするよ]と肩をすくめた。
「すげー慧眼だな」
『バレてるー。でも、この感じだと報告はしなさそうだね』
リルが言う通り、アレックスは[推測でしかないし、宗教学者のプライドを考えると、これは報告しない方がよさそうだな]と呟いていた。そうしてくれると助かります。
そうこうしている間に、お守りを手に入れた三人は先に進むことにしたようだ。
その際に[
三人はリーエンの魔法により精神干渉を防ぎ、
この調子で初めてボスまで進む可能性がある、と俺たちは固唾をのんで見守る。
イサムやラッカルたちを幾度となく阻んできた制限区域は、アレックスたちにどんな試練をもたらすのだろうか——
[ここが噂の〈理解不能なトラップ空間〉ね……]
制限区域手前で足を止めたリーエンが、苦々しい口調でそう言った。俺は思わず「おい、なんだその呼び名は」とツッコミを入れる。
[女装を強要されるんだっけ?]
ドン引きの表情で呟くドロンに、俺は「そればっかりじゃないぞ!? つーか、わりと特殊な例を出すな!」と言ってみるけど、届くわけがないのだから無意味だ。
[ふっ、ふふっ……面白いよね]
アレックスは大変楽しそうな表情だ。ダンジョンのトラップに対する感想とは思えないけど、まぁ、いいや。俺も同じ気持ちだし。
嫌そうな顔をしているリーエンとドロンの背を押し、アレックスは躊躇うことなく制限区域に入る。
ワクワクしてるようにも見えるから、つい「制限区域さーん、いっちょ楽しい制限にしてやってくれよー」と願ってみた。
制限区域に意思があるかはわからないし、俺の声が聞こえているとは思わないけど。アレックスの期待を裏切らないでくれるといいなぁ、とちょっと考えたのだ。
三人の前に制限の内容が記された看板が現れる。
[……え?]
ポカンとした顔のリーエンの前には〈制限:人の格好。姿・口調まですべて猫になりきったら先に進める〉と書かれていた。ご丁寧に、近くに現れた宝箱の中には猫の着ぐるみが入ってる。
……三毛猫の着ぐるみ可愛いし、わりと甘めの制限じゃないか? めちゃくちゃ視野は狭くなりそうだけど。
ただ、リーエンのプライド的には、この制限は嫌っぽい。理解した途端、顔を引き攣らせてる。
[おい、冗談きついぜ……]
ドロンの前には〈制限:歩行。三輪車でのみ進める〉と書かれ、宝箱の中には幼児が乗るサイズの三輪車があった。女児用のファンシーな色合いで、体格のいいドロンが乗って漕ぐのは、色んな意味でかなりの苦行な気がする。
[くっ……は、はははははっ! なにこれ、最高!]
爆笑しているアレックスの前には〈制限:冒険者の格好。メイド服を着て戦うメイドになりきれば進める〉と書かれていた。
宝箱の中にはミニ丈メイド服と箒——なぜ箒? と一瞬思ったけど、つまりこの箒のみを武器として進め、ということなのだと理解した。武器制限もかかってる気がする?
[ねぇ、アレックス、まさか……]
[これ、進むつもりか……?]
[え、もちろん]
アレックスがきょとんとした顔でリーエンとドロンを見つめ返す。
なんでそんな前向きなんだよ。楽しんでくれてるみたいでちょっと嬉しいけど!
[いやいや、無理よ! 私猫になりきるのは恥ずかしいわ!]
[俺だってイヤだよ! なんだよ、このヘンテコな乗り物! こんなの乗ってちゃ戦うのもトラップ回避すんのも無理だろ!]
大声で訴える二人に、アレックスが[大丈夫。俺が全部どうにかするよ]とにこやかな表情で箒を手に取り槍のように振るった。なかなか様になってるけど、箒なのが非常にシュール。
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