ダンジョンは止まらない

第96話 意外な依頼

 ダンジョン内の宗教もふもふ教が冒険者たちに周知されてしばらく経つと、獣系魔物との戦闘回避アイテムを入手しようと、遺跡内の攻略を始める者が増えた。

 そのアイテムを使うと、不可視の攻撃――影兎シャドウラビによる暗殺――を防げるようだ、という噂が流れたからだ。


 八階層密林遺跡を攻略する冒険者の死に戻り理由の圧倒的No.1は『不可視攻撃(気づいたら死に戻っていた)』である。

 それを防げる可能性があるならば、と冒険者たちがアイテム入手のために奮起するのは当然だろう。


 なんせ、冒険者たちの要望を受けて、八階層密林遺跡では薬草などを採取できるようにしてあるからだ。

 魔物と戦わずに安全に採取して回れたら、相当な利益になる。


 ただ、アンデッドを倒すには専用の武器――聖別された武器と言われるらしい――が必要であり、また、低品質なものだとアンデッドを倒すのが大変らしく、なかなか祈りの間には辿り着いていないようだ。


[聖別された武器、宝箱から出ねぇかなぁ……]


 遺跡を目前にしてUターンしていく冒険者をモニターで眺め、俺は「ほーん」と声を漏らした。


 攻略を進めさせないために、アンデッドを倒せる武器は宝箱アイテムから排除した。

 だから、現時点で遺跡を攻略している冒険者たちはダンジョン外でアンデッド用の武器を準備してきている。なかなか希少性が高い武器なので、金銭的な余裕がある冒険者しか購入できないようだけど。


「アンデッド用の武器なぁ……どうするか……」

『それを簡単に冒険者にあげちゃったら、八階層密林遺跡を攻略できちゃう人が増えますよねー?』


 軽食とコーヒーを運んできたサクが、俺の呟きを聞いてそう言った。


「うん、それが問題なんだよ」

『人を甘やかす必要なくないです?』


 インクが俺に用意されたポテトチップスに手を伸ばしながら首を傾げる。

 なんで当たり前みたいに取ろうとしてるんだろうな? インクを甘やかす必要もない気がするぞ。


「……攻略が難しすぎるって、冒険者がいなくなるのは困るぞ」


 返事をして、俺がインクの手を叩こうとしたら、それより先に影から現れた影兎シャドウラビがインクに頭突きを食らわせて倒した。


『ぐはっ!?』

『ゆだんたいてき〜』

『ね〜、いまかくれんぼちゅうだよ〜』


 影からわさっと影兎シャドウラビが溢れて、インクの上に集まっていく。あっという間に影兎シャドウラビの山でインクが見えなくなった。


 かくれんぼって、こんなにバイオレンスな遊びだったんだな……。


「それ、圧死しないか?」

男夢魔インキュバスはこれくらいでやられるほど弱くないですよー』

「サクがそう言うなら大丈夫なんだろうな」


 安心。というわけで、放っておこう。

 微かに『助けてくださいーっ』と声が聞こえるのは、きっと気のせいだ。


 コーヒーを飲みながら、タブレットで宝箱アイテムを確認する。

 アンデッド用の武器はそれなりにDP消費量が多い。宝箱アイテムとして入れるとしても、あまり数は出せないだろう。それくらいが、攻略を進めさせないためにもちょうどいいかもしれない。


「――結局、死に戻りした時に奪取するかもしれないし」


 うん、一日一個以下の確率で宝箱から出るように設定しておこう。

 その他にもダンジョン内の設定について細かな調整をしていると、不意にコネクトを通して操人形マリオネから連絡が来た。


『マスター、今大丈夫です?』

「おう、問題ないぞ。なんかあったか?」


 操人形マリオネはダンジョン内外を冒険者として偵察して回っている。そこで問題を見つけたら即連絡するよう頼んでいたのだ。


『遺跡でのアイテム入手の指名依頼が来てまして、これ、受けてもいいんですか?』

「は? お前に指名依頼……?」


 ぽかんと口が開いてしまった。なんで操人形マリオネにそんな指名依頼が来たんだ?


 指名依頼というのは、冒険者ギルド側が依頼遂行確率が高い冒険者を指名して依頼を出すことである。依頼者側が受注する冒険者を指名することもある。たいていは高ランク、つまり実力のある冒険者が選ばれる。


 だが、操人形マリオネは冒険者として平均くらいの実力を装っているはずなのだ。選ばれるのはおかしい。


『どうやら、俺は八階層密林遺跡で死に戻りしていないことで〈ラッキーボーイ〉と呼ばれてるらしくって……』

「ラッキーボーイ……笑っていいところか?」


 困惑しているのが伝わってくる操人形マリオネの声を聞きながら、俺は乾いた笑いを浮かべた。


 うん、そうだな。操人形マリオネはダンジョンの魔物だし、死に戻りしたら復活に結構DPが必要になるから、わざわざそんなことしないもんな。

 この事実だけを見ると、操人形マリオネが実力以上に成果を上げているように見えちゃっても不思議じゃない。


 それにしてもラッキーボーイって……ネーミングセンス消滅中か?


『笑わないでください。俺は受け入れてないんで!』

「気にするなよ、ラッキーボーイ。理由はともかく、指名依頼をされるのはすごいことだぞ、ラッキーボーイ」

『ここぞとばかりに言わないでくださいよー!』


 抗議してくる操人形マリオネの言葉を聞き流し、俺は指名依頼の詳細を報告するよう頼んだ。

 まさかラッキーというだけの意味不明な理由で、遺跡攻略の依頼なんてされないだろう。


「報告続けて」

『……冒険者ギルドで、アンデッドとの戦いが得意な冒険者を集めて遺跡を攻略させ、加護アイテムを入手して販売する計画を立てているらしいです。俺はその一団に加入するよう頼まれたってことですよ』

「あー、なるほど? でも、お前が頼まれた理由がいまいちわからないな……」

『俺は密林フィールドで不可視攻撃の可能性を下げられたらいいなぁ、というお守り代わりです』

「なんか納得した」


 お守り、ね。実力がある冒険者でも、不可視攻撃は避けられないというのが常識化しているらしいので、操人形マリオネのラッキー力(笑)に頼りたくなる気持ちもわからないではない。

 つまりは、困ったときの神頼み的な。


 操人形マリオネが遺跡攻略の一団に加入かー。

 まぁ、そうなったとして大して困ることはないし、優秀な冒険者たちの実力を把握するいい機会にもなりそうだな。


「――オッケー。受けてみてくれ。そんで、一緒に攻略する冒険者の情報を集めろ」

『了解です』


 さて、どんな冒険者たちが来るのかな?


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