第56話 ついに開店!

 ロアンナたちとも料理の相談をして、店に出すメニューを決定した。

 基本は魚介類を使った和食で、デザートにシャーベットやフルーツポンチを用意する。


「なんというか……すごく話題になりそうですね」

「そうかもな。でも、客が来るならいいことだろ」


 苦笑しているロアンナに同意を示しながらも、肩をすくめて聞き流す。


 開店はもう明日に迫っていた。ダンジョンで入手した調味料を使った料理を出すということで、既に冒険者たちの中でも噂が広まっているらしい。操人形マリオネが『たくさん作り置きしておいてくださいねー』と注意していた。


 ……そんなに客が押し寄せそうなのか? 接客が不慣れという狼族獣人たちが対応できるか、少し不安だ。

 でも、俺は当日、木偶ドールを使わずに、ダンジョン内からアリーの視界を借りて観察しようと思ってるから、即座に手伝ってやることはできない。


 さすがに、冒険者がたくさんいる場所だと、木偶ドールが魔物だとバレそうなんだよなぁ。操人形マリオネ木偶ドールより上位な魔物で、勇者にでも会わない限りバレないと思うんだけど。


「接客は練習しましたし、お客さんがたくさん来たとしても、一生懸命がんばります」


 気合いを入れているロアンナに、俺は「きっと大丈夫だよ」と声をかけた。

 ロアンナは真面目だし、いざという時は操人形マリオネにも手助けを頼んでるし、なんとかなるはず。

 そんな言葉を連ねたら、ロアンナが嬉しそうに微笑んだ。


 まぁ、俺の励ましより、リルが『がんばってねー』と応援した時の方がロアンナは喜んでたけど。ちょっと切ない。通訳したのは俺だけど、リルに言われたからって、そんなに喜ぶ?


 リルって狼族獣人からすごく信仰されてるんだなぁ、と改めて感じて遠い目をしてしまった。

 リルの実像と狼族獣人たちが抱いてる印象に、大きなズレがある気がしてならない。


◇◆◇


 ダンジョン休憩所〈飯屋〉に新たなご飯屋が開店する日。

 開店時間は冒険者たちがダンジョンから戻ってきて混雑する前の昼頃になった。いきなりたくさんのお客さんをさばくのは無理だしな。


 冒険者がダンジョン攻略中のため、あまり人口密度が高くないダンジョン休憩所で、新しい店の前には唯一人が集まっている。


 店名は〈狼食堂ろうしょくどう〉。狼族獣人が運営する店だとわかりやすい。俺はもうちょっとひねった名前にしてもいいだろうに、と思ったんだけど。


『マスター。そろそろ開店するようよ』


 店の物陰に隠れたアリーが報告してきた。視界にも、扉の鍵が外され、次々に客が入店してくるのが映った。

 お客さんは冒険者もいるけど、商業ギルド関係者らしき格好の人もいる。店で使う魚介類は商業ギルドを通して仕入れることになったから、お世話になってる人かもしれない。


 テーブルについた客は店内を見渡してから、ロアンナが渡したメニューを見下ろす。


[メニューはこちらです。料理の説明も書いてありますが、ご質問がありましたらお声がけくださいませ]

[ほう……では、このショウユを使った〈本日の魚の煮込み〉というのを一つ。それと、料理にあわせた酒も頼む]

[はい、煮込みとオススメの清酒をご用意しますね]


 微笑んだロアンナがカウンターに置いてあるアイテムバッグから取り出した料理と酒を客に提供する。

 追加分は調理スペースで作るけど、こうやって作り置きをすぐに出せるのって便利だよなぁ。


[……茶色いな]

[ショウユの色ですね]


 料理の見た目に驚いた客が、おそるおそる口に運びピシッと固まる。


[……食べたことがない味だ。これがショウユ……こんなに甘いものだったか? 確か、一度刺し身につけて食べたことがあったんだが……]

[甘みはミリンと砂糖でつけています。どちらもダンジョン産ですよ]

[砂糖は知っていたが、ミリン……?]

[こちらです]


 ダンジョンの宝箱から出てくるアイテム〈ミリン〉を、ロアンナが客に見せる。

 これまでみりんは謎の液体扱いで、持て余されてたんだよなぁ。これで使い方が広まるといいんだけど。


[ほう。これは冒険者が店に買い取ってほしいと持ち込んできたことがあるぞ。こんなに美味い料理に使えるものだったのか。これからはきちんと買い取れるようにしなければならないな]


 ふむふむ、と頷いている客は、随分と煮魚を気に入ってくれたらしい。

 これまで値がつかなかったせいで不人気だったアイテムも注目を浴びることになりそうなので、俺も満足だ。


 別のテーブルでは刺し身を醤油で食べて感動してる人がいたり、揚げ物にたっぷりソースをかけて食べて、ビールを飲んで幸せそうにしてる人がいたりと、なかなか好感触のようだ。


 食事を終えて出て行った人が評判を広げているのか、入店する客が途切れることがない。

 この調子なら、店を上手く軌道に乗せられるんじゃないかな。


 夕方頃になって冒険者がたくさん来るようになると、料理を用意する速度が注文に追いつかず、ロアンナたちは随分と大変そうだけど。

 作り置き料理、もっと用意すべきだったな。


「見てたら、なんか俺も腹が減った」

『わたくしもよ』


 俺がポツリと呟くと、即座にアリーから返事があった。

 直接料理のにおいをかいでるアリーの方が、切実に空腹感を覚えてる気がする。帰ってきたら一緒に美味い飯を食おうな。


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