ダンジョン公開

第35話 最初のお客さん

 ダンジョン公開があと数分後に迫った。

 準備期間のほとんどをダンジョン作りとは違う部分に費やしていた気がするけど、まぁそれも俺とリルらしいってことにしたい。


 未だに七階層で戯れている影兎シャドウラビたちに微笑んでから、モニターの画面を一階層に切り替える。

 さすがにリルも戻してとは言わない。


「冒険者来るかな」

『DP欲しいねー』

「まぁ、最初はこっちが損をする感じになりそうだけど、人が増えたらなんとか利益が上回るはず……」


 良いアイテムが出てくる、と評判を作るために、初期の宝箱内容は高価なものを多めにしてるから。

 人が増えたら、リルがDPを稼がなくても、なんとか運営できると思う。そうなってほしい。


 そんなことを考えていた俺の手元で、タブレットがパッと表示を出した。


〈ダンジョン公開まで、十、九、八——〉


 カウントが減っていくのを、息を呑んで凝視する。


〈——0。ダンジョンを【マーレの港街】近郊で公開しました〉


「お、公開した」

『冒険者来た?』

「そんなすぐには来ないって」


 ワクワクとした様子のリルに気が抜けて、思わずハハッと笑いながら告げる。

 外の世界は現在深夜。日付が切り替わった時間だ。この時間に街の外で活動する人はそうそういないだろう。


『こちら操人形マリオネ。聞こえてますかー?』

「聞こえてるぞー」


 ダンジョン入り口近くの様子を確認するために、操人形マリオネには傍で待機を頼んでいた。

 おかげで、外の映像を確認できる。


 ——見事に真っ暗だな。

 現代日本と違って、街道沿いに外灯なんてものはなく、真の闇が広がっている。


 操人形マリオネにはできる限り姿を隠すよう指示したけど、バレる心配はなかったかもしれない。

 バレたとしても、ダンジョンを発見した冒険者を装うことになってる。実際、操人形マリオネは内偵調査の一環で冒険者資格を取得したそうだし。


「これ、しばらく人は来なさそうだな?」

『そうですねー……ん?』


 不意に操人形マリオネが近くの低木の後ろに身を伏せた。


 ダンジョンはマーレの港街と他の街を繋ぐ主要街道から少し逸れたところにある。小さな村に繋がる小道沿いだ。


 操人形マリオネ曰く、ほぼ毎日人が小道を通るらしいから、ダンジョンが発見されないということはないはず。


 ダンジョンの入り口自体、わかりやすいように神社の鳥居のような形の門にしてるし。小道から少しの石畳があって、門に向かえるようになってる。


 石畳の両脇には、ツツジなどの花がつく低木を植えて少し華やかな感じにしてみた。

 結果、ダンジョンっぽさが薄れた気がするけど、俺は満足。


 そんなことを考えていたら、不意に男たちの声が聞こえてきた。


[どうだった?]

[問題ないっす。チョロいもんすよー]


 村側から小道を駆けてきた男が、街道で別の男と合流した。見た目は二人とも冒険者だ。


[で、いくら?]

[金貨十枚以上っす!]

[おお、溜め込んでたもんだな]

[明日これで村全員分の冬用の食料を調達するつもりだったらしいっすよー]

[それをお前がいただいてきたってわけか。悪いヤツだなぁ]

[それを指示したのはアニキっしょ]


 男たちが顔を見合わせ、ニヒヒッとあくどい顔で笑う。


 ……これ、犯罪者の会話では?

 冬支度用の金を盗むとか、ひどすぎるだろ! 村人が冬を越せなかったらどうするんだ。

 盗賊はそんなこと気にしないんだろうけど……


『なんかヤな感じー』

「同感」


 リルに頷きながら思案する。

 闇に紛れてダンジョン門には気づいてもらえなかったようだけど、この男たちを利用できたら嬉しい。ついでに、金貨を奪い返して、村に返却してあげてもいいはず。


『どうします?』

「門を主張させてみる」

『は?』


 操人形マリオネの困惑した声を聞きながら、タブレットを操作して、ダンジョン門近くにライトを設置した。


 石畳の両脇にほのかな明かりが灯る。

 ……料亭の玄関アプローチみたいになった気がする。まぁ、目立てばいいので問題ない。


[おい、あれ!]

[うわっ、急に……もしかして、ダンジョンじゃないっすか? こんなとこにはなかったはずっす。新ダンジョンってことっすね]


 男たちが警戒しつつ近づいてきた。


[俺が知るダンジョンと随分違うぞ]

[異国情緒を感じるっすね……]


 きょろきょろしながら石畳を歩き、ダンジョン門を見上げた男たちが、ポツリと呟く。


 そりゃ異国情緒あるだろうな。作製者が異世界人ですしおすし。


[タパ、どうしたい?]

[新しいダンジョンを発見して、内部情報を持ち帰れば、冒険者ギルドから報奨があるんすよねー]

[発見者はギルドポイントをもらえるしな。Dランクになるのも夢じゃねーぞ]


 顔を見合わせた男たちが、ニヤリと口元を歪めた。


 ……Dランク?

 操人形マリオネからもらった情報によると、冒険者ランクはGからAに昇級していく制度だったはず。

 そして、Dランクくらいまでは、ほとんどの冒険者が問題なく昇級できるって話だったけど……こいつらにとってはそれさえ夢のような出来事だってこと?


 めちゃくちゃ弱いから、冒険者なのに盗賊みたいな真似をしてるのか?


[——新しいダンジョンってのは、魔物も弱いもんだ。このダンジョンでひと稼ぎしようじゃねーか]

[さすがアニキ! ついて行くっす!]


 アニキは普通なことを言ったのに、タパと呼ばれた男は盛大に褒め称えてる。

 ここまでの太鼓持ち、実際に見たのは初めてだ。すごい、と変な感心をしてしまった。


 何はともあれ、男たちがダンジョン内部に来てくれるらしいから、歓迎しようじゃないか。


 ……ちょっと、こいつらに良いアイテムを渡したくなくて、宝箱のアイテムを調整しちゃったけど。


 大丈夫。このダンジョンに関する良い情報は、別の真っ当な冒険者が広めてくれるはずだから! なんなら、操人形マリオネに情報操作してもらってもいいしな。


「ダンジョン攻略楽しんでくれよ?」


 男たちに感化されたのか、俺も性格が悪くなった気がする。ダメダメ。もふもふたちに慕われる良いダンジョンマスターでいなくちゃ。


『僕が倒しに行ってあげようか?』

「さすがにそれはやめてやれ」


 リルの提案に、反射的にスンッとなった。

 油断しきった男たちの前に突如現れる神狼フェンリル。普通に災難である。誰もダンジョンに来てくれなくなるぞ。


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