カッパ・カッパー・カッペスト

めずらしい依頼者クライアントが来た。警察署けいさつしょからのたのみである。


通常、シエリアは犯罪はんざい担当たんとうすることはない。


結果的けっかてき警察沙汰けいさつざたになることはあるが。


だが、難題請負人なんだいうけおいにん連絡れんらくが来るということはタダごとではないのはあきらかだ。


なんでも、最近になってカッパが出ると言われるいけき事件が多発たはつしているという。


のどかな場所なので、やってくる人たちははんが出るという発想さえなかったのだろう。


それにつけこんで金品きんぴんぬすむとは言語道断ごんごどうだんだ。


犯人はんにん目星めぼしはついているんですか?」


雑貨屋少女ざっかやしょうじょたずねるとおまわりさんはこまった顔をした。


「それがね〜、カッパの仕業しわざじゃないかって言われてるんだ」


怪異案件かいいあんけんだ。道理どうりでシエリアに回ってくるわけだ。


シエリアは以前、河童かっぱというUMA《ユーマ》を追ったことがある。


頭にさらを乗せて、背中には甲羅こうらを、そして手足には水かきがある。


断片的だんぺんてきな情報だが、インパクトがあり、特定とくていするには十分だった。


さっそくシエリアはカプァいけへ急いだ。


到着とうちゃくすると彼女は竿ざおを取り出した。


きしからさがすよりったほうが早いらしい。


雑貨屋少女ざっかやしょうじょ普段ふだん、さまったりなんてしないのでペーペーもいいところだった。


ただ、魚でなくカッパなられるだろうという根拠こんきょのない自信じしんがあった。


使うのは鉄の地味じみなルアーである。


明らかにチョイスを間違っていた。音痴おんちなんてこんなもんである。


「ええいッ!!」


ポチャンと音を立てたので少女はロッドをった。


いい感じにルアーが水をかいた。


だが、魚もカッパも一向にかかることはなかった。


やはり、世の中そんなに簡単にはいかないものである。


途中、なにかかかったと思ったが、ただのがかりだった。


気づくと、シエリアはうつらうつらとしてしまって睡魔すいまに負けた。


するとピンク色をしたカッパの女神様めがみが現れた。


身体の特徴とくちょうなどから一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


貴方あなたの落としたのは金のルアーですか? それとも鉄のルアーですか?」


女神はそううた。


「ふにゃっ!?」


突然とつぜん出来事できごとにシエリアはね起きてすぐにこたえた。


「あっ、はい!! 私が落としたのは鉄のルアーてす!!」


シエリアは″″真実しんじつ″を返した。


するとピンクのカッパは慈悲深じひぶかい笑顔をかべた。


正直者しょうじきもの真実しんじつを重んじるの貴女あなたにはこの金のルアーをし上げます」


少女は両手りょうて左右さゆうって遠慮した。


「いえ、いいですよぉ!! 悪いですって!!」


それをくかかずか、女神めがみは金のルアーを渡すと池に沈んでいってしまった。


シエリアは目をパチクリさせた。


「なんだったんだろ今の……。でもなんだかカッパさんが犯人はんにんとは思えなくなってきたな……」


その様子を双眼鏡そうがんきょうで見ている男がた。


連続置れんぞくおきのはんの男である。


中年ちゅうねんで頭は禿げ上がり、まるでさらのようになっている。


口はとんがり、あちこちシミだらけで、少し人間離にんけんばなれした見た目をしていた。


そんな彼はこれを見てニタリニタリと笑っていた。


「おほぉ!! 鉄のルアーと金のルアーを交換してくれるってか!! こりゃ乗るしかねーなビッグ・ウェブによ!!」


すぐに男はぬすんだ竿ざおぬすんだルアーをらした。


「げっへへ。カッパの女神めがみさん、女神めがみさんよォ……ォォっしゃがかりッ!!」


すると再び、カッパの女神めがみが姿を表した。


「あなたの落としたのは金のルアーですか?それとも鉄のルアーてすか?」


泥棒どろぼう嬉々ききとしてさけんだ。


「もちろん、金のルアーですよォォ!!」


それを聞いたおんなカッパは顔をしかめた。


「あなたは真実を言っていませんね。うそつきは泥棒どろぼうののはじまりです!! どっちもあげません!! めッ!!」


女神はピカピカと謎の光を放った。


そして真犯人しんはんにん心臓しんぞうが止まるかと思った。


頭のさら背負せおった甲羅こうら、手足の水かき、シミだらけのはだ、とんがったくち……。


そう、彼はカッパにされてしまったのである。


「グッグエエエ!! グエグエ!!」


思わずカッパ男はいけに飛び込んだ。


そしてくるったようにあたりをおよぎ回った。


シエリアはこれを見逃みのがさなかった。


「えいッ!!」


金のルアーをつけて投げると反応があった。


「ゴボッ!! ゴボッ!! 金だぁ!! 金!! 金!! これはオレの金だァァァ!!」


カッパになった男が針にかかったのである。


変身してもなお金にすがる。


つくづくあわれな男だった。


「フィーーーーッシュ!!」


雑貨屋少女ざっかやしょうじょなぞけ声をかけながら竿さおを引いた。


その時、警備けいびしていた2人のおまわりさんがたすけにきてくれた。


「よぉし!! 後は我々われわれに任せたまえ!!」


さすがに屈強くっきょうなおまわりさんに勝てるわけがなく、盗人ぬすっとカッパは陸に引き上げられた。


そしてまるで両手を抱えられた宇宙人うちゅうじんのようにUMA《ユーマ》は警察署けいさつしょ連行れんこうされた。


完全かんぜん未知みち怪物かいぶつであったカッパが犯人はんにんとしてつかまったとすぐにセポールじゅううわさになった。


あまりの反響はんきょうの大きさに警察署けいさつしょ犯人はんにんを公開することにした。


だが取調室とりしらべしつには頭にさらをのせたようなハゲ頭、無数のシミにとんがった口の男が気絶きぜつしているだけだった。


調べれば調べるほどただのオッサンである。


彼は捕獲ほかくしたカッパの容姿ようし酷似こくじしていただけであった。


どうやらカッパに変身へんしんしたのは一時的で、この人物がきの犯人はんにんだったようだ。


このままただのおっさんをき出してもみんな退屈たいくつさに不満ふまんべるだろう。


事件にエンタメせいもとめる警察署けいさつしょもおさっしではあるのだが。


そして彼らはシエリアにきついてきた。


こういう時にかぎって無茶ぶりで難題解決人なんだいかいけつにんたよるのだ。


少女はなやんだがもしかしたらと思い、いけに戻ってきた。


呼びかけるように声を放つ。


「カッパの女神様めがみさま!! 私、カッパさんの誤解ごかいきたいんです!! 手伝っていただけませんか!?」


すると、水色にキラキラと光る小石が飛んできた。


のぞき込むとそこは池の水底みなそこつながっていた。


きっとこれを通じてやってきてくれるのだろう。


帰ってくると、街中まちじゅうの人が集まっているかと思えるくらい野次馬やじうまが集まっていた。


前方ぜんぼう朝礼台ちょうれいだいには所長しょちょうがいるが、もはや制御せいぎょかない。


雑貨屋少女ざっかやしょうじょはその台にのぼって、声をかけた。


真犯人しんはんにんはカッパさんではなかったんです!! いまからカッパの女神様めがみさまを呼びます!! 彼女の話を聞いて下さい!!」


シエリアが足元に水色の小石を置くと女神様めがみさまがせり上がってきた。


おもわず歓声かんせいが上がる。


だが、カッパの女神様めがみさまはいきなりうた。


「あなたが見ているのはカッパですか? それともカッパではありませんか?」


突然とつぜんこえかけにみんな戸惑とまどった。


言われてみればホンモノにも見えるし、コスプレにも見える。


だが、まぼろし存在そんざいだけあって8割方わりがたくらいの人が首を左右さゆうに振った。


「あっ!! いけない!! ″真実″を答えないと!!」


シエリアがそう言った時にはもうおそかった。


ニコニコしていた女神めがみの顔色か豹変ひょうへんしたのだ。


本物と思われなかったのがよっぽど気に食わなかったらしい。


「カッパをしんじよ……カッパをしんじよ……」


女神めがみがチカチカとまばゆい光を放ったかと思うとその場の全員がカッパになってしまった。


シエリアは裏稼業のポリシーにはんして、目立ってしまったかと思われた。


しかし、このカッパニックのせいで完全に有耶無耶うやむやになったのだった。


ケッケッ!! クワックワッ!! カカカケケケ!!


……ケッ、コカカ

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帰ってきた!! とらぶる・ぶれいきんぐ!! 〜雑貨屋少女と無理難題・にっ!!〜 しらたぬき @siratanuki

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