warmwarmwarmwarmwarm

シエリアたちのまちには名門めいもんのセポール大学だいがくがある。


そこには付属ふぞく図書館としょかんがついていて、これがまた立派りっぱな作りで蔵書数ぞうしょすう半端はんぱではない。


学内だけでなく、市民にも一般解放いっぱんかいほうされており、多くの人でにぎわう殿堂でんどうとなっている。


今回はそんな図書館としょかんからの依頼いらいだった。


管理人室かんりにんしつとびらをノックして中に入ると引きつった顔の男性が立ちくしていた。


ちらりとこちらを見る顔は戦慄せんりつとしていた。


早速、本題にうつろうと2人は向かい合ってソファにすわった。


お茶を持ってきた職員しょくいんのトレイはガタガタれている。


これはよっぽどの事案じあんだとシエリアは身構みがまえた。


管理人室の男性は前置きした。


「私、ボンと申します。貴女様あなたさま百戦錬磨ひゃくせんれんまのトラブル解決人かいけつにんとおうかがいしております。頼んでおいてなんなのですが、今回ばかりは……」


随分ずいぶんとまぁめられたものだとシエリアはめずらしく少しカチンと来た。


「で、依頼とはなんでしょうか?」


「あなたにはターゲットの本を……焚書ふんしょしてほしいのです」


図書館の命とも言える本を焼く。これはおだやかではない。


続けてボンは依頼の詳細しょうさいを語りだした。


「この図書館の深部しんぶには″warm″という″本の怪人かいじん″がひそんでおります。それだけならまだしも、最近は来館者らいかんしゃ危害きがいを加えることが増えまして。これを退治たいじしていただきたいのです」


本の虫だから″ワーム″なのだろうか。なんとも言えないネーミングである。


シエリアはより詳しい事情じじょうを聞いてみた。


「warmはいを出してくるのです。それに正解しないことには怪人かいじん屈服くっぷくさせることはできません。手痛ていたいダメージを受けて図書館からほうされてしまうのです」


前に誰かがいどんだような口ぶりである。


「ええ。何人も知恵ちえ猛者もさたちが本のダンジョンにもぐったのですが、怪人かいじんを打ちやぶれたものはいなくてですね……」


なんともおそろしい話だが、なやんでいても始まらない。


「問題の傾向けいこうとかあるんですか?」


ボンはうなづいた。


「学力を求めるクイズや学術的がくじゅつてきな問題が多いようです。学業成績がくぎょうせいせきすぐれた生徒なら勝てそうなのです……が……」


管理人は口ごもってから言った。


「それが……なぜか苦手分野にがてぶんやがピンポイントで見抜みぬかれてしまっていて。全教科万能せんきょうかばんのう天才てんさいにもどこかしら穴がありますから。そこをかれる」


事前じぜん対策たいさくを立てようともこればかりはやってみないと始まらない。


シエリアは図書館へと踏み込んだ。


「えっと……巻末かんまつし出しカードに名前を書き込んでいく……と。なんかイタズラ書きしてるみたいだなぁ」


適当てきとうに本を手にとってサラサラと″シエリア″と書き込んでいく。


何冊なんさつか書き込んでいくと怪異かいいあらわれ始めた。


「ん? どのしカードにも″warm″って書いてある」


だんだん″warm″の名前が増えていき、最後の本の貸出かしだしカードにはびっしり″warm″と書かれていた。


「うわっ、気持ち悪っ!!」


気づくとシエリアは仄暗ほのぐら書庫しょこに居た。


「ホーッホッホッホ!!」


笑い声の方を向くと玉乗たまのりしてアコーディオンを弾いた白塗しろぬりのピエロが居た。


「オーッホ。おじょうちゃん、なかなか博識はくしきみたいだけど、苦手科目にがてかもくはハッキリしてるねェ!!」


後退あとずさりしつつ、雑貨屋少女ざっかやしょうじょたずねた。


「あ、あなたが″warm!?″ ここは穏便おんびんにに……。イタズラをやめてくれないかな?」


しばらく2人の間を沈黙ちんもくつつんだがすぐにピエロはニタリと笑った。


馬鹿言ばかいっちゃいけないよ。私は半端はんぱ知恵ちえかぶれをぶっつぶすのが生き甲斐がいなんだからねェ!!」


怪人かいじんは急に邪悪じゃあくな表情に変わった。


これはまずい。シエリアは直感ちょっかんで感じ取った。


「問題!! このヘビの種類、なぁんだぁ?」


ピエロはこぶしからシュッと斑模様まだらもようのヘビを飛ばした。


「ぎゃああああああッッッ!!」


少女は退いて尻もちをついてしまった。


「ホホホ。私の勝ちね」


すると怪人かいじんは激しくアコーディオンをらした。


「ふんふふふふん♪ じゃ〜ばらばらばらジャバラバラバラ!! 蛇腹折じゃばらおり〜♪」


すると、シエリアの右腕みぎうでからペラッペラの蛇腹状じゃばらじょうになってしまった。


「う、ウソでしょ? ぎゃああああああッッッ!!」


そして彼女は意識いしきを失った。


「うわぁあッ!!!」


シエリアは学内がくないのベットできた。


「う、うで!! 右腕みぎうで!!」


あせって右腕みぎうでを確認したが、異変いへんは無かった。


看護婦かんごふになだめられて彼女は横になった。


すると管理人のボンが見舞いに来た。


「と、いうわけなのです。やはり彼にはかないません。この依頼は取り下げということで……」


だが、シエリアはめげなかった。


「待ってください。痛い目をあわされたまま逃げ帰るなんて出来ません!! それに、本が好きな人がこんな思いをするなんて許せません!! warmは私が焚書ふんしょします!!」


とは言ったものの、全くアテがない。


頭をかかえながら学内をとぼとぼとあるいていると噂話うわさばなしが耳に入ってきた。


「この間のあれとあれの単位のテスト、カンニングしてやったぜ!!」


「おっ、バッカだろ!? カンニングバレたら年間の全単位剥奪ぜんたんいはくだつだぞ? 留年確定りゅうねんかくていだぞ!!」


「おい、うっせ。声がデケェよ!!」


それを聞いてシエリアに電撃でんげきが走った。


すぐに彼女は対策に乗り出した。


セポール大学のあちこちに特製とくせいのスピーカーを設置した。


同時にシエリアは特殊とくしゅなマイクをチューニングした。


管理人かんりにんは不安げだ。


「あの……シエリアさん、また挑むというのですか? 今度はどんな目にあうかわからないのですよ?」


それを聞いて雑貨屋少女ざっかやしょうじょ親指おやゆびを立てた。


「まぁ、なんとかなると思います!!」


そして、彼女はまた怪人かいじん対峙たいじした。


「ホホホ。ムボーなむすめだね。またヘビ、くれてやるよォ!! 問題!! このヘビの種類は?」


シエリアは気絶きぜつしそうになったが、チラチラ見ながらヘビの特徴とくちょうをマイクにしゃべった。


すると手持ちの機器ききから声が溢れた。


「「「ケタケタシロヘビ!!!!」」」


学内に繋いだスピーカーから正解がわかる学生が回答してくれているのだ。


それを伝わって″warm″に″答え″が直撃した。


「ぐ、ぐえぇっ!! か、カンニングなんて卑怯だぞ!!」


挑戦者は言い換えした。


弱点じゃくてんばっか狙ってくあなたには言われたくないよ!!」


ピエロはアコーディオンをかきらした!!


「ぐむぅ!! 最新データならどうだ!? セポールで見つかった新種のヘビの学名がくめいは!?」


またもや学内の知が集結した。


「「「セポール・セポーラー・セポリスト!!!!」」」


こんなやりとりを何度も繰り返すと怪人かいじんは弱ってきた。


「ぐへぇ……もうるなりくなり好きにしろぉ……」


そしてポンッとけむりをあげてほんになってしまった。


どうやら屈服くっぷくさせられたようだ。


これを燃やすことがシエリアのミッションだったが、彼女は本を拾うとカパンに入れた。


「ま、マジかよぉ……」


当然ながらただの本なので抵抗ていこうできない。


「本は大事にしないとね!」


管理人かんりにん釈然しゃくぜんとしない様子だったが、退治たいじには成功したので依頼は成功に終わった。


こうして情けをかけられた″warm″は今も雑貨屋ざっかや本棚ほんだなおさまっているらしい。

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