別れた世界(パート1)

滝川れん

第1話異世界へ迷い込む

     異世界へ迷い込む

 “あかね”だ!優二はバス停の向こうにいる人物に目をやった。しかしあかねはイギリスへ移住したはずだった。そのあかねが“なぜここに?“そう思ったが、気が付くとあかねの後を追っていた。

 

彼女は路地裏の廃ビルに入って行きそのビルの屋上に行った。優二も屋上に上がった。

 屋上に着くとドアがあるだけで誰も居なかった。彼は“あかねは、どこに行った?”と思いドアを開け外に出た。そこは草原になっていて他に何もなかった。彼は慌てて戻ろうとしたがドアは無く自分だけが草原の真ん中に居た。


 “いったいどういう事だ!早くここから抜け出さなければ”と焦り、やみくもに歩いたが草原が続くだけで何も変わることは無かった。このままだと体力を消耗するだけだと立ち止まりどうするか考えた。


 そうこうするうちに陽が沈み出したので彼は焦った。しかしどうすることも出来ず“このままここに居なければならないのか“と諦めたかけた時、人影みたいなものが見えた。”人がいる“とその人影の方へ歩いて行った。


 近づくとその影は少女のものだった。少女は黙って優二を見ていた。

「お嬢ちゃん・・」と優二は話しかけた。

 少女は「おじさん誰?」と訊いてきた。優二は

「僕はおじさんじゃなくお兄さんだよ。」と言った。こんな時に “おじさん”にこだわっている自分に少し呆れたが続けて


「ここはどこか分かる?」と訊いた。

 少女「ここは中天よ。」

 “中天・・?どういう事だ?おれは一体どこに来てしまったのだ”そんな疑問を持ちながら話を続けようとした時「私帰る。」と言って少女は走り出した。


「待ってどこに行くの?」と言い追いかけた。少女はしばらく走るとしゃがみこんだ。疲れたのかと思い覗き込んだら少女は草を分けていてそこにボタンらしきものが見えた。


 少女はそのボタンを押した。すると5メートルくらい先にドアが現れた。少女はそれを開け中に入って行った。優二も続いた。


 ドアを抜けるとそこは森になっていて月明かりが周りを照らしていた。少女は森の奥に入って行きその先に光が見えた。それは家から出ている明かりで少女はその家に入って行った。


 そして「おじいさん変な人が付いてきた。」と言った。老人は優二を見て

「あなたは・・・」と訊いてきた。

「私は怪しいものではありません。」と言ったが、


 老人は「この辺では見かけないが・・・」と怪しんだ。

 優二は今までの事を説明したが

 老人は「あなたの目的は何なのか?」と言った。

「自分はただ元の世界に戻りたいだけです。」と説明した。話しているうち老人の表情が和らいだ。


 「あなたの話はにわかには信じられないが、話しているうちあなたの人柄は分かった。あなたに協力してもいい。」と言って家へ招き入れそして老人は何か考えて

「明日の朝、西に有る泉へ行きなさい。」

「どういうことですか?」


「その泉で人が居なくなるという事件が起きた。その事が、あなたがここに来たことに何か関係があるのかもしれない。手掛かりはそれだけだ。本当に細い糸みたいなものだが、それをたどる事によって何か打開策が見つかるかもしれない。」


 優二は話を聞いて雲を掴むようなものだがそれしか手掛かりが無いのならそれに頼るしかないと考えて、

「分かりました明日泉に向かいます。」それを受けて老人は奥に入って行き


「食事をしながら話をしよう。」と優二を招いた。

 彼がテーブルに着くと、おばあさんが食事を持ってきて

「疲れたじゃろ、これを食べて元気を出しんさい。」とパンとスープを勧めた。


 食事を出されて優二は空腹なのに気づいた。そして「遠慮なく。」と食べ始めた。

 それを見ていた老人は

「若い者はたくさん食べなければだめだ。」と呟いた。

 彼は食べ終わると「美味しかったです。」と言った。


 老人「この世界の話をする前にお前さんの事をもう少し聞こうか。」と言った。

 優二は、自分は高校三年生で進路を決めかけている事、これからどう社会と関わっていくか悩んでいる事をはなし、また高校生になると自分が何者か考える事があったが、堂々巡りで答えは出なかったことも話した。


 その事は話すつもりは無かったが、なぜか話してしまった。そしてそれに対する答えを期待するものではなかった。


 老人は「若い時は悩むものじゃよ、そして何らかの答えを出してもそれが正しいか、どうかは年を取らないと分からないものじゃよ。」

 その答えは優二にとって納得いくものではなかった。

 老人は彼の反応を見て「分からんか・・・」と呟き


「前さんの話はここで止めるが、老婆心の忠告として言っておくが、人との係りを断ってしまうとそこで終わってしまう、誰かと繋がっていなさいよ。」と言って、

「では、この国で起こっている事の話をしよう。」


「この国は、犯罪らしきものは無く、平和なものじゃった。しかし最近奇妙な事件が起こっているのじゃよ。」

「どういうことですか?」


「それは南の国が特使を派遣してきた時から始まったのじゃよ。その特使が言うには “南の国で災いが起こっている。その災いがこの国にも迫っている、それを避けるために一緒にその災いを取り除こう。”との伝令だった。


 それを聞いた王様は “この国には守り神が居る、その神が守ってくれるのでこの国に災いが起こる事は無い。”と言い特使を返してしまった。


 その特使が帰ってから村人の間でこの国に災いが来ると噂がたった。王様はその噂を打ち消そうとしたが、それは出来ずなおさら広まっていった。そんな時泉で村人の神隠しが起こった。


 村人たちは何かの悪い事の兆しではないかと恐れ始めた。そしてお前さんが来たのじゃよ。」それを聞いた優二は


「僕がここに来た事に何か関係があると・・・」

「それは分からない。そしてこの村には言い伝えがある。“災いが起こる時勇者が現れる。その勇者が災いを鎮めるだろう。”と。」


「それはどういうことですか?」

「何でもない、チョット思い出しただけじゃよ。今日はもう遅い話はこの位にして寝るとしよう。」そう言うと老人は優二をベッドに案内して自分も寝室に入って行った。


 彼はベッドに入ったが、今日の事を考えれば考えるほど分からなくなった。そして寝ようとしたがなかなか寝付けず朝方ウトウトしただけで目が覚めてしまった。朝になるとおばあさんが


「これを持って行きなっせ。」と弁当を渡した。

優二は「ありがとう。」と言い続けて

「おじいさんは?」と訊いた。

「森へ行ったよ。」


「森でなにをするのですか?」

「イノシシ狩りじゃよ。」

「そうですかおじいさんにもお礼を言っておいてください。」

「気にすること無いよ、早く元の世界に戻れるといいな。」


「そうですね。お世話になりました。」と言って泉に向かった。

 泉に向かってすぐは、陽は上り切ってなく薄暗さが残っていたが、泉に着く時には陽は上り切っていた。


 泉に着いてはみたが “どうすればいいんだ?”と周りを見渡した。しかしどうすることも出来ず、ぼんやり周りを見ていたら虹が出た。


 “雨も降っていないのにどうしてだ?”と思ったが、なぜかそれを目指して歩き出した。

 少し歩くとネコがこちらを見ていた。その猫は付いて来い、みたいに歩き出した。優二はつられて歩き出すとネコは脇道に入って行った。そこには誰かうずくまっていた。

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