最終話
「このアマぁ。よくも俺様の
連れ出された人気のない校舎裏でわたしは豹変した彼に睨まれた。
「いいか? 俺様は
「ひぅ!?」
壁際まで追い込まれ、恐怖で足が竦む。
ただ此処の志望動機はともかく、真面目に勉強してきた結果がこんな最悪の状況に陥るなんて悲しくなってきた。
「まぁ、俺様だって鬼じゃあない」
「へ?」
不気味な嘲笑で彼は――
「自主退学しろ」
とんでもない条件を突き付けてきた。
「そう悪い条件じゃねぇだろ?」
大胆にも脅迫してくる
「い、嫌……です。絶対に嫌、です……」
「あ”?」
怖いけれど、これだけは譲ってはいけない。
「わ、わたしは……自分が変わりたくて、此処に来ました。心配する家族をせ、説得してまで……だから、た、退学になる訳にはいかないんです!」
恐怖を抑えて言い切ったわたしを彼は冷めた目で見据えている。
そして――
「あぁ、そう。だったら仕方ないなぁ……」
大仰に手を広げワザとらしく言いながら指をパチンと鳴らした。
……………………?
「あ? 何だ、おいっ!」
何も起こらず訝しく思っていると、彼は苛立ちながらもう一度指を鳴らすも何も起こらず草むらの方に視線を向けて叫んだ。
「お前の手下なら今は寝てるぞ」
そのセリフの後、その草むらからドサドサと物音がして、目をやるとそこには気絶した男の人たちが倒れていた。
そしてもう一人――
「て、テメェ。また俺様の邪魔をしようってか? この不良風情が!」
「お前も似たようなもんだろうが」
「あ……」
卒業式の日にナンパから助けてくれた銀髪の彼がスマホを向けながら佇んでいた。
「っ! テメェっ、まさか今の――っ!!」
「ああ。しっかりと動画に納めさせてもらった」
「チッ! 覚えてやがれ!」
わたしを脅迫した動画を撮られたと知った男は捨てぜりを吐いて立ち去っていった。
「大丈夫か?」
「あ……」
不意に声を掛けられあの時のように体が熱くなって胸が苦しくなってきた。
「……? おい、本当に大丈夫なのか?」
「は、はい……また助けてくれてありがとうございます」
ナンパされたのは美亜だけど……それでも感謝を伝えるのは大切なことで、何よりわたしにとっては自分の在処を確かめるチャンスでもあって、
「髪だけでなく、『
「! は、はい。よくわたしだと……」
「双子だからって全く同じって訳じゃないだろ」
そう、双子だからって全く同じわけじゃない……だから――
「だっからって
「ど、どうして……?」
この人はわたしが偽装していた理由を知って?
「どっちが姉か妹かはともかく、あっちの方が言い方は良くないが陽キャっぽっかった。ソレを今まで引き摺っているということは、幼い頃からのトラウマだと判断した……俺の偏見だが」
「う、うぅ……」
美亜や両親意外にもわたしのことを解ってくれる人が、それもあったのはまだ二回目の銀髪で怖そうだった男の子。
「悪い。泣かせるつもりじゃ……」
「い、いえ……あなたも、わたしと同じで見た目で判断されて苦しんでいたのだと思ったら、つい……間違っていたらごめんなさい」
わたしの言葉に彼は驚いたように目を見開いた。
「驚いたな。とっくに諦めていたんだけどな……」
「はい。わたしも同じでしたから……」
そして目の前の彼に救われて……体が熱く胸の鼓動が高鳴って頭が――
「っ!」
「どうした?」
「い、い、いいえ。な、何でもにゃいれす……」
自分の
そんなわたしを彼は真剣な目で見据えて、
「俺は此処では不良の問題児扱いされている厄介者だ。俺に係わるとお前も悪い噂を流されるだろうからほっといてくれ」
「い、いいえ! わたしは、あなたの事をもっと知りたい、です……」
突き放す言葉に反射的に答える私は徐々に恥ずかしさで言葉尻が萎んでいく。
しばし沈黙が続いて――
「くっくっ……くくくっ、はははははっ。俺は
「わ、わたしは烏丸みゅう――っ!?」
気まずい空気を払拭するように彼、茴膳くんが和やかに自己紹介をしてくれたからわたしもちゃんとしたかったのに……噛んじゃって恥ずかしい。
「さっきも言ったが、俺の事はほっといてくれていいんだぞ?」
羞恥で悶えるわたしに、茴膳くんは念を押すように言うけれど――
「い、いえ! わたしは、アナタを――茴膳くんを好きになったから、もっと茴膳くんの事をし……――っ!?」
つい、わたしもムキになって墓穴を掘っちゃった……そのまま埋まってしまいたい……。
「くくっ、好きにしろよ」
「……はい、好きにしますぅ」
愉快そうに去っていく茴膳くんの後ろ姿を見送るわたしは、羞恥心で火照った顔を冷ますように空を仰いだ。
わたしを愛する美亜へ――
わたしも美亜が大好きだけれど、愛する人が出来ました。
本当にごめんなさい。
わたしは…… 子乙女 壱騎 @ikki-nenootome-0013
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