20話 依頼の下水道入口へ
ラウンジで休んでいると、準備を終わらせたジルさんが戻って来る。
しっかりとした革の鎧に大きなハンマーを背負い、道具を入れたウエストポーチを腰に付けている。今から行く下水道に合ったものが入れてあるようだ。
「待たせたね」
「じゃ、行こっか!」
流石はパーティーメンバーというべきか、短い会話で済ませている。早速、移動しようとするシャイン君に私は制止の声をかける。
シルクとリルの紹介をしたいと思ったからだ。私と一緒に戦ってくれている仲間なのだから。
「皆、少し待ってもらってもいいかな?私の仲間を紹介しておきたくて」
「いいよ、いいよ!ボクも気になってたしね!」
「アタシも装備する魔物ってのは気になったね」
「儂もだな。音の連射は驚いた」
皆、それぞれシルクとリルに興味を持っていたらしい。模擬戦は悔しい結果になったけど、2匹の魔物を装備して戦うスタイルは珍しいものだと思う。
「それでは紹介します。このクロークがシルク、種族はラップクローク。音の衝撃での攻撃に演奏もしてくれます。それからこの剣がリル、種族はダンシングソード。血を吸う剣、持つと足を動かして攻撃を回避してくれたり、踊りでバフをかけてくれます。」
そうシルクとリルを軽く持ち上げながら紹介する。すると皆から少し微妙な反応が返ってきて、代表するようにジルさんが発言をする。
「いやぁ、それ憑かれてない?大丈夫?」
「大丈夫ですよぉ。最初は私も勝手に動く感覚が怖かったけど、だんだんとリルの動きが私とシンクロするのが癖になっちゃって。シルクもずっと一緒だし、ね」
「うーん?」
シルクとリルに同意を求めながら、皆に心配は無用だと伝えると、納得していないような顔をしながらそれでも頷いてくれた。紹介されたシルクとリルは嬉しそうに私に、すりすりスリスリとじゃれてくる。
仲間の紹介も終わったので、これから向かう下水道の話をしたいと伝えることにした。
「次は下水道について、教えてもらってもいい?」
「それはボクが依頼内容を教えるよ!歩きながらでもいいよね?」
「大丈夫、よろしく」
「途中までは人通りが多いから話さずに行くよ。静かになったら依頼書を見せるね!」
そう言って指差しポーズ。だんだんと、このポーズにも慣れてきてしまった。
宿屋から出て高級衣類やアクセサリ、飲食店が並ぶ道を通り過ぎる。途中、脇道に入り進んでいくと、どんどんと建物が少なくなっていく。きちんと整備された道の横に、草木の無い空き地が並んでいる。
そこを真っ直ぐ進む道中でシャイン君が依頼書を見せてくれた。
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【依頼内容】
依頼者:下水道管理局
いつからか首都ヴァイツの下水道入口から腐臭がするようになった。
下水道の入口は、あまり人が立ち入らない場所にあるために気付くのが遅くなってしまったのだ。
管理や掃除を任せている部下に確認をしたところ、外注業者の担当が行方不明になっているらしい。
行方不明になった担当者の捜索と、腐臭の原因を調査してくれ!
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【備考】
通常、この広い道の両側に深い水路が流れている下水道は、換気ダクトも設置されているため臭いが籠ることは無いはずです。
それにも関わらず入口から腐臭がするということは、何かしらの要因で空気の循環が行われていないと考えられます。
本件の問題は施設の故障、ガス、魔物、業者の担当自身と複数の可能性があり、何が起こっているのか予想の難しい依頼です。
依頼受諾者は安全に配慮して、無理のない範囲での探索をお願いします。
また原因が確認できた場合は、可能であれば排除してください。原因の排除が難しい場合は帰還後、報告をお願いします。
記載 冒険者互助協会
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依頼主の方では臭いがする以外はわからないようだが、下に書かれている冒険者互助協会が途中帰還を認めているのが幸いだ。
そもそも冒険者互助協会とは何だろうか。依頼が終わった後にでも、覚えていたら聞いてみよう。
「目的は、依頼書に書かれている下水道の臭いが酷いから原因を探す。行方不明になった担当者を見つけるの2つ」
「そゆこと!」
「アタシが臭い消しは持ってきてるから安心しな」
「儂の方でも風の魔法で換気するぞ」
準備する時間があれば私も買い物をしたのにと、少し恨めしい気持ちでシャイン君を睨む。彼はどこ吹く風で、頭の上に"?"を飛ばしているような顔をしていた。
荷物から鼻と口を覆う布に薬草を挟んで取り出しておく。シルクとリルは魔物なので臭いを気にしないかもしれない。ただシルクに腐臭が付くかもしれないので、後で脱臭剤は買っておこうと決意する。
「シャイン君。次があったら、どんな依頼か先に教えて」
「もう終わった後の話?余裕だね!」
違う、そうじゃないとため息を吐く。これにはジルさんもロベルトさんも同意見らしく、私を可哀そうな目で見ている。
「それで下水道の中はどう進む?手あたり次第っていうわけじゃないんでしょう?」
「地図があるから、まずは管理室に向かうよ!」
「確かに管理人と、異常の手掛かりが見つかりそう」
「そゆこと!」
話をしていると大きな格子がはまった扉が見えてくる。まだ入り口まで距離があるのに、何かが腐ったような甘く酸っぱい臭いがしてくる。胃の中から込み上げる不快感を堪えながら薬草の布を揉み、口元を覆って頭の後ろで結ぶ。
「これはひどいなぁ」
思わず零すと、皆が頷き同意を示す。あまり話をして呼吸をしたくないようだ。私も同じだが、シルクとリルにはやはり関係ないのか、いつも通りの様子をしている。
周囲を見る余裕もない私達。シャイン君が扉の前に立ち、持っていた鍵で開ける。
むわっと強くなった臭気を感じて顔を顰めながら、扉の奥に進んでいく。
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