14話 魔物と共存する村で

 私が【敵避け】を使いながら、洞窟調査の一団と一緒に近くの村へ到着する。先に一団の男から聞いた情報によると、ここは魔物と生活している村とのことだ。


「ここだ。我々はこのまま、ここに停めていた馬車でヴァイツに向かうが、君は村に行くのかね?」

「はい。洞窟の中でも長く過ごしましたし、休みたいなと」

「そうか。重ねてになるが、魔物が歩いているはずだ。気を付けたまえよ」

「ありがとうございます」

「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はジェイク。騎士をしている。もしまた会うことがあれば、よろしく頼む」

「私はエルといいます。吟遊詩人です」

「承知した。それではな」


 そう言ってジェイクさんは別方向に去っていく。他の人も結構な量のトカゲ肉を私に渡して去っていった。



 振り返ると村が目に入る。広めの土地にぽつぽつと、数件の家屋と大きめの建物が建っていて、複数の作物で雑然とした畑が、大きな範囲に広がっている。その周りを少し低めながらも、しっかりとした木の柵で二重に囲んでいる。

 開拓村を思わせる長閑な場所だと感じながら、柵の間に開いている村の入口を通ると、素朴で可愛らしい少女がいたため声をかけてみる。


「こんにちは。ここは、いい村ですねぇ。」

「おー、こんちはぁ。そうけそうかわたすわたしにゃ、わっがんねぇなぁ」

「ええ。そうなんです。それでこの村に滞在したいんです。村長さんとか取り仕切っている人に、泊まる場所があるか伺えたらと思いまして」

「あー、そならそれならムラオサんとこだべなのところだなあっこあっちのでっかい家におんべよいるよ

「ありがとうございます。いってみますね」

「あいょーぅ」


 村長ムラオサさんの情報を貰えたので行ってみることにする。村長のムラオサさんという名前なのかもしれないが、こう呼んでいれば間違いはないだろう。

 村長さんの家に向かう間に周囲を見渡していると、様々な魔物が目に入る。畑を耕しているウシ、家の前で番をしているオオカミ、軒先にぶら下がっているコウモリ、道端を歩くネコと多い。本当に生活と密着しているのだろう。


 きょろきょろと夢中になって周りを見ながら歩いていると、すぐに村長さん宅に到着する。シカやクマなどの魔物が入口にたむろしており、圧を感じるほどだ。驚かせないように控えめな声で「ごめんね、入らせて」と言うと、のそりと退いてくれる。


「こんにちは。村長さんはいらっしゃいますか?」

「はいはい。どちらさんかね」


 そう言いながら奥から出てきたご老人。白く長い髭に、腰が曲がって杖を突いている。


「私、旅をしていまして、この村に2泊ほど滞在したいのです。泊まれる場所はありますか?」

「おや、こんな辺鄙な村に珍しいのぅ。しかし外でも見たとは思うが、ここには魔物も住んでおる。大丈夫かの?」

「大丈夫ですよ。私も魔物を連れていますので。このシルクとリルが仲間です」


 そう言い、シルクとリルに「自由にしていいよ。迷惑かけないくらいにね」と促すと、2匹がふわりヒュルリと浮き上がる。それを見て、驚く村長さん。


「ほぉー、珍しい。村じゃ動物ばっかだからの。これはどんな魔物じゃろうか」

「シルクは服の魔物で、音で衝撃を出します。リルは剣の魔物で、持った人は操られますよ」


 そう伝えると、村長さんは「それはもう呪物じゃろ」と小声で呟き、頬を引き攣らせる。シルクとリルが空中で、体を広げて大きく見せようとしている。怖いぞアピールをしているようだ。


「まぁ、ええか。ええのんか?んー、それで2泊じゃったな。村はずれの誰も住んでいない小屋なら使ってええぞい」

「ありがとうございます。あとは結構な量のトカゲ肉があるんですが、村の皆さんにおすそ分けしてもいいですか?」

「それは村の集会所に行くとええ。村のモンが酒を飲んどるから、ツマミに喜ばれるじゃろ」

「わかりました。それじゃあ、小屋を使わせてもらいますね」

「その子らを見てると大丈夫そうじゃが、問題は起こさんようにな。いや、本当に、頼むぞ」


 村長さんにお礼を伝えて家を出る。そのまま村のはずれに向かって、これから過ごす小屋を見上げる。木製の屋根と壁のしっかりとした建物だ。

 中も質素ながら作りはきちんとしている。入ってすぐに居間と調理場になっていて、右手前に小部屋、その隣に水場がある。そのままでも十分泊まれる。

 小部屋に荷物を置いて、貴重品と大量のトカゲ肉を持って、集会所に向かうために外に出て移動する。



 教えてもらった木造の大きい建物に到着する。ここが集会所のはずだ。

 村の道から中の大広間と舞台が見えており、おそらくはその横にある細い通路が控室や調理場に繋がっている。既に大広間には村の人々や魔物がいて、お酒を飲んだり談笑している。


「こんにちはー。少しの間、村に滞在させていただく、エルといいます」

「おぉー、さっき皆の話に出とった奴だな。見ないのがいるっつーて」

「そうなんですねぇ。旅をしてまして、少しご厄介になります」

「厄介になるなら帰ってー、なんてな。ガハハ」

「帰っちゃうと、お土産のお肉も帰っちゃいますよ?」

「おぉん、それ先に言いなって。歓迎するからよ!おーい、おばちゃん、肉来たぞ肉!焼いて」


 とりあえず誰かにと思い声をかけると反応してくれた、既に酔った赤ら顔の男性が「おばちゃん」と大声で呼ぶと、近くの恰幅の良い年配の女性が立ち上がる。


「あたしゃ、ここで飲んでるよ。まったく」

「あ、これ。お土産のお肉なんですが、奥に持って行った方がいいですか?」

「いいの、いいの。あたしがやるから頂戴な」


 と勢いよくお肉を持って奥に行くおばちゃん。

 周囲ではお肉に対して乾杯をしたり、肉ー!うぇーい!と騒いでいる。お酒の肴になれば、話題は何でもいいのだろう。そこに交じり話をしている内に、おばちゃんに調理されたトカゲ肉のおつまみが行き渡る。シルクとリルもここでは遠慮しなくてもいいと、あっちにふらふらこっちにフラフラと遊んでいる。


 料理を食べ、話題は旅の事、魔物の事、外で起こっている事と色々あり、楽しい時間を過ごしていると、職業の話になる。吟遊詩人であることを伝えると、何かやってくれとリクエストがあった。


 それではと舞台に上がり氷琴を広げる。今回は宴会用に、盛り上がる曲をチョイスするためコンガも作る。

 演奏することが伝わったのか、シルクとリルも舞台の上に飛んできたので「今日はマンボだ」と伝えると、楽しそうに頷いた。



 それでは開始とマンボのイントロを弾き始める。

 皆の耳を集めるための、伸びる音に印象深いスタッカート、そして掛け声を!――ウッ!


 リズミカルな音を打ち鳴らし、要所で揺れ伸びる音と締めて切る音を交互に叩く!

 視覚でも楽し気に、大きく弾む動きにステップを踏んで、観客も巻き込み盛り上げて!――ウッ!


 リルとシルクも空中で、クルクルくるくるダンスを踊り、ぱん、ぱん、たたたたんっと曲にノッて打楽器を打ち鳴らす!溜めて叩く!連続で叩く!ハァ――――ウッ!


 わかりやすくもノリのいいリズムを繰り返し、そして最後まで疾走していく――――!



 騒ぎに騒ぎ、お祭り騒ぎで舞台を降りて、酔い潰れる人が出る中で、良い頃合いと小屋まで戻る。


 洞窟を抜けてそのまま宴会まで、今日も密度の高い一日だったなと、思い返してくすりと笑顔。シルクとリルの手入れも行い、今日はよく眠れそうだと久しぶりのベッドに入る。



「明日もこの村で楽しもうか」



 呟く私に、グリグリすりすりと2匹共にくっついてきた。




―――――――――――――――――


 楽曲イメージ:マンボ「Mambo No. 5」



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