骨も軋むRENAI

へのぽん

RENAI

 朝、萩野蓮は仕事を休んで総合病院へと行くと、待合室はすでに人で溢れ、蓮も含めたみんなの苛立ちに満たされていた。そして予約していたCT、MRI、エコー、血液検査とした後、昼食の後、三時前診察室に通されて、特に異常のないという検査結果を聞かされた。

「血液検査も数値的に何もないですね」

 医者から数値の紙を渡された。

 夜な夜な骨が軋んで眠れないんよな。

「ストレスかもしれませんね。関西から東京に越してきたんですよね。環境の変化かも」

「ストレスなのかな。特に太ももとか二の腕の骨に響いてきて眠れないんですけどね」

「少し安定剤で様子を見ますか。筋肉の緊張ををやわらげるお薬です。頓服で出しておきますから、一度痛いときに飲んでください。緊張しているのかもしれません」

 二週間様子を見ることに。


 蓮は途中でスーパーに寄ると、値上げして量が減った惣菜を買い、会社名義の賃貸マンションの二階に帰宅した。ここに越してきてからおかしいんだよなと思いつつ、怖いので幽霊の類は考えないようにしていた。

「ただいま。鍵」

『萩野蓮様を認識しました。おかえりなさい』

 解錠された。

 玄関とリビングの電気がついた。

 お淑やかな声だ。

「テレビつけて」

 テレビがついた。引っ越してくると、通常のマイク兼スピーカーの音声認識システムが備えられていた。スマホに連動してくれるので暇つぶしにやると、なかなか便利で使っている。

「湯を溜めてくれ」

『もう一度お願いします』

「お湯を溜めてください」

『四十度二百リットルで溜めます。お風呂の栓をお確かめください』

「結局行かんといかんのかい」

 途中、冷蔵庫から缶ビールを出して浴室の栓がされているのを見た。どうも納得できない機能だなと思いつつ自分で湯を溜めた。

 しかし疲れた。

 何もしてないのに。

 ただ病院で診てもらうだけで疲れた。

 コタツに入ると惣菜とビールを前にしてテレビのチャンネルを変えた。ベランダに誰かいそうな気がしたがいないことにした。

『現在はNHKです』

「お勧めの映画は?」

 なぜこんなにテレビに興味がないのか。

 あ、いつも会社にいるからか。

 八時前だ。

『石坂浩二主演「悪魔の手毬唄」はいかがですか。お湯張りが終わりました』

 蓮はカップラーメンで締めた。


 風呂から出ると、寝室のベッドで寝転んだところで思い出して、薬を一粒飲んだ。

「電気消して。おやすみ」

 と伝えると、スマホを充電器に差してベッドルームサイドに置いた。妙な眠気に襲われて眠れそうな気がした。が、途中で骨の軋みで目が覚めた。草木も眠る丑三つ時。薬のせいかうつらうつらとしながら腕やら太ももをさすっていると、ふと空気が響いているのに気づいた。

 スマホを抜いた蓮はリビングに行き、ダッシュボードの上の端末の隣に置いた。

「おまえらなあ、俺の寝てる間にイチャイチャしてたんやな。AI同士にしといたる」

 以降、蓮は熟睡できた。

 おわり

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