想いはピアノの調べに乗せて
衿乃 光希
第一話 冴木 柚羽 ~目覚め~
第1話 ピアノ
地上からの階段を下りてくる人、改札を出てくる人、地下街へ向かう人。
今日もたくさんの人が私に目を向けることなく、足取り軽やかに交差して行く。
半袖にサンダル姿の人が多い。まだまだ残暑が厳しいようだ。
いつも見かけるあの女性はデートだろうか。いつものぱりっとしたスーツではなくて、淡いピンクのかわいらしいワンピース姿だ。大変よく似合っている。いってらっしゃい。楽しい一日になるよう祈っているよ。
あの男性は足取りが重いな。仕事帰りだろうか。
よく頑張りましたね。お疲れ様。ゆっくり休めるといいな。
おや、妙齢のご婦人に手を繋がれて改札を出てきた少女が私を見た。大きな瞳がきらきらと輝いていく。
純粋な目を向けられると、私も心が湧き立つ。まあ、物体である私に心はないのだが。
ああ、ご婦人の手を引いてこちらに向かってくる。
私に自由に触れてくれてかまわない。それが今の私の仕事だから。
思うがままに、人の目も耳も気にせず、私を奏でてくれ。
ようこそ、ピアノのある駅へ。
「ちょっとだけ。ねえお祖母ちゃん」
「お祖父ちゃん待ってるから、少しだけよ」
二人は横長のイスに並んで座った。少女が右手を伸ばす。
奏で始めたのはとなりのトトロ。テンポはゆっくりだがたどたどしさはなく、練習の成果がしっかりと表れている。
指の圧力がばらばらで、ピアノ経験者でないのは聴けばわかる。が、一本指ではなく正確な指運びで演奏できているから、経験者に教わっているのは間違いないだろう。
左手による伴奏がないのが残念なところだ。習い始めたばかりの初心者だろうか。
幼いピアニストの心に少しばかり触れさせてもらおう。
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