第42話 新


 俺の怪我を手当てしたのは、シズクと名乗る女だった。一二三は、俺とシズクを残して地下に向かって行った。桜という男は、その一二三を追いかけていった。


 俺は、それぞれの姿を見て「馬鹿らしい」と呟いた。


 優子が、一二三を捨てた理由。


 一二三は、一番に優子を守ってやれない。今だって、地下にいる住民たちを優先した。


 普通だったら、あんな奴らを助けたりはしないだろう。だって、他人を戦わせて楽しんでいた奴らだ。そんな奴らを助けて、何になるというのか。


「まぁ……あいつにとっては、俺も変わりがないか」


 優子を寝取って、一二三を殺そうとした。


 一二三からしてみれば、俺は殺したって足りないぐらいに恨めしい人間だろう。なのに、どうして助けたりしたのだろうか。


 一二三を殺そうとした時点で、中央集落に戻ったところで俺の処分は追放に決まっている。


 追放は、死刑と同じようなことだ。


 だから、俺を救う意味などない。


「どうして、自分が助けられたか分からないって顔ね」


 シズクは、俺に語りかける。


 改めて、シズクという少女を見た。意思が強そうな目で、シズクは俺を見つめている。


 その瞳は、優子とは正反対のものだ。不安症の優子瞳は、いつも揺らいでいた。


「それは、一二三が前に進むために必要だからよ。あなたの意思も何も関係ない」


 シズクは、きっぱりと言い放った。


「なんだよ、それ。一二三のやつ……。俺に未練たらたらじゃないかよ」


 普通だったら、恨んでいるものだろう。


 俺は、一二三を殺しかけたのだから。


「一二三にとって、あなたも集落の仲間だったから。殺されかけても恨めなかったし、見捨てられなかったのよ」


 シズクは、ため息をついた。


 俺は、気になっていた事を尋ねる。


「優子……。優子は無事なのか?嵐士も……」


 俺を慕っていた子分と最愛の女。


 二人の顔が、脳裏に浮かぶ。


「二人とも亡くなったそうよ。嵐士という人が集落の門を燃やして、優子もゾンビに食べられたと聞いたわ」


 シズクの言葉に、俺は目を見開いた。


 幸せにすると誓った女は、俺の知らないところで死んでしまったという。


「嘘だろ……」


 優子が死んだとしたら、俺は何のために一二三を殺そうとしたのだろうか。優子を幸せにするための選択だったというのに。


「一二三を殺してまで得ようとした幸せなんてなかったということよ」


 シズクの声が、俺の耳に届く。


 その意味を理解するには、時間がかかったけれども。


「俺は……なんていうことを」


 こんなことになるのなら、一二三を裏切らなければ良かった。優子の甘言に耳を貸さずに、恋心に蓋をしていればよかった。



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