第18話 新の救出
「さて、次の話に進みましょう。新さんの事をどうするか……」
巫女は言いよどんだ。
新は、現在は北に拐われている。
桜の話を信じるのならば、新は北で強制的に戦わされる奴隷になっているという。大昔にいた剣闘士というものと同じだ。
「全ての関係者が、新さんが一二三さんを殺そうとしたと発言しているわ。本来ならば新さんには厳しい罰を与えなければならないのに……」
巫女は、俺を見た。
この集落には、死刑はない。一番重い罰は追放である。しかし、それだって集落の外で生きていけるという前提だ。無論、危険な外では生き残るのは難しいだろうが。
「俺は……。新については、迷っています」
殺人未遂というとんでもない罪を犯した新だが、彼も自分と同じ集落で暮らしていた仲間だ。幼馴染で、友人だ。
見殺しにするというのは、酷いような気もする。だが、助け出したところで、どうするのか。中央の集落で新を裁いたら、おそらくは追放となるだろう。
新を助けたところで、待っているのは追放。
それでは、助ける意味はあるのか。
「一二三が行かないなら、俺が行く」
そんな発言をしたのは、桜であった。
桜は立ち上がって、俺に向かって手を伸ばす。自分の斧を返せ、と言いたいのであろう。
「桜さん。あなたは、新さんと親交があったの?」
巫女の疑問に、桜は答える。
「顔を会わせたこともない」
桜の言葉に、巫女を含めた全員が首を傾げた。
顔も見たことがない人間を助けに行くというのは、いささか不自然だ。しかも、新は中央集落に戻ったら罰せられる身の上である。助けに行く意味すらないかもしれないのだ。
「桜、正気なのか?」
俺の言葉に、桜は頷いた。
決意を固めた桜には、子供の無謀さがあった。放っておけないが、無鉄砲な正義故に目が離せない。
「もちろん、正気だ。おかしく思うなよ。これは、俺の個人的な考えからだ」
桜は、ふんと鼻を鳴らす。
桜が新を助ける理由は、俺たちが考えるものとは根本的に違うらしい。
「俺は……。ただ自分の理由に、新を使いたいだけだ。俺は、元々は北の出身。だから、北に帰る理由が欲しかったんだ」
理由が欲しい、と桜は言った。
ということは、理由がなければ北の集落には帰りたくもないということだ。
俺は、桜に対する違和感を思い出す。
新が巻き込まれた北の集落の娯楽に、桜は嫌悪感を抱いている。しかし、それは嫌っていても自分から動こうとするようなものではなかった。
もっと強い嫌悪感があったならば、桜は迷わずに壊滅させていたはずだ。それぐらいの行動力と強さが、桜にはある。
だが、今は新を理由にして北に集落に戻ろうとしている。考えすぎかもしれないが、桜は新のことを隠れ蓑にしているのではないだろうか。
「そんなに嫌なところに行くのに……。顔も見たことがない新を助けに行く事を理由にできるのか?」
俺の言葉に、桜は笑みを見せた。
相変わらず、桜は美しい。けれども、どこか儚い笑顔でもある。
「いつかは、俺がやらないといけないことだしな」
桜は、そう言って遠くを見つめた。明らかに、桜は何かを隠している。
俺は、自分の拳を強く握る。
心を決めたのだ。
「俺は、桜と共に新を救出する」
俺の言葉に、桜は目を点をしていた。
俺の気持ちが分かったか、と桜に知らしめることは成功した。桜に発言に驚かされた意趣返しである。
新奪還に桜が行くと聞いた時には、これと同じぐらいびっくりさせられたのだ。
ただし、俺は伊達や酔狂で新を助けに行くとは言っていない。桜の事が心配だったし、俺としても新のことについて決着をつけたかったのだ。
「お前は、新って人間に殺されかけたって言っていたのにか?」
桜は、不思議そうに俺を見た。
俺から見たら桜の方がずっと不思議な存在なのだが、本人に自覚はないらしい。
「俺がいないと誰が新なのかも分からないだろ。確かに、俺は新に殺されかけた。けれども、同時に桜に助けられた」
命の恩人が危ないところに行くのだから、出来るだけ助けたい。その想いは、不自然ではないだろうと思う。
「一二三さんは、そう言うと思いました」
守は、大きなため息をついた。
巫女にいたっては、くすくすと笑っている。いつもの毅然とした表情ではなく、少女然とした可愛らしい顔だった。
俺の行動は、俺を昔から知っている人々には簡単に想像できるものだったらしい。つまりは、いつもの俺だ。
「一二三さん、桜さん。御二人の心のままに行動してください。けして、未練など残さぬように」
俺は、守の言葉を噛みしめた。
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