第3話 俺の命、賭けてやるよ

 太陽は男に向かって走り拳を強く握る。


「なんだ?小僧。テメェはただの常人だろ!邪魔すんじゃねぇぇ!!」


 男は太陽に向かってエネルギー弾放つ。エネルギー弾は太陽の身体に衝突して爆発する。太陽は爆発の衝撃で吹っ飛び、後方に止まっていた車に強く衝突する。


「っっっぐぅっぁあ!!.......っぁゔぁぁあー!!」


 あまりの衝撃と痛みで、太陽は痛々しく叫ぶ。


 や....やばい。体中が痛い。全身が痛い。体の内側から殴られてるてるようなものすごい痛みが体中に走る。


 これは骨が何本かやられてる、どっかの部位も激しく損傷してるな。分かっていたがやっぱり俺じゃなんも出来ないのか......常人じゃ何も出来ねぇのか。


「馬鹿な奴だな、死ねー!!!!」


 男は太陽に向かってエネルギー弾をさらに放つ!


 クソ、なんも出来ねーで死ぬのか......クソったれが!!!


 太陽は目を瞑り、攻撃を喰らおうとする、すると目の前に彼女が現れる。


「あんた、ほんと馬鹿じゃない?」


 彼女は呆れた顔をしながら、シールドで太陽をエネルギー弾から守る。


「あなた無理してでも走りなさい、私が時間を稼いであげるわ。【青の鳥籠】」


 彼女は男に向かって透き通った青色の鳥籠を生成し、閉じ込める。


「これで、少しは時間を作れる。私についてきて!」


 そう言い、彼女は太陽の手を引っ張って走る。


「ちょっと待っっ....て待って....全身痛すぎてやばい」


 情けない声と顔で太陽は嘆く。


「だから言ったでしょ!常人のあなたじゃ何も出来ないって!」


 呆れた顔で、彼女は太陽を睨みながら言う。


 ◇


 少し離れた所まで逃げてきた2人。彼女は太陽に話しかける。


「私は小林恵、超人研究組織【クローバー】の研究員よ、さっきの奴が狙っているのはこの超人覚醒剤よ」


 恵はアタッシュケースを開けて説明する。アタッシュケースの中には小さな注射器に入った緑色の物が2つ入っていた。


「超人覚醒剤?なんだそれは?」


「簡単に言うと、常人を超人へと覚醒させる薬よ」


「そんなことできる薬があるのかよ!?」


「必ずしも成功するわけでないわ。それに副作用が出る可能性もある。最悪、体が変化に対応できず破裂する可能性もある。まだ実験中の薬よ。それが内部の裏切り者によって情報が敵に渡り、今追われてる所よ。」


「なるほどな、てか【クローバー】っていう組織は何者なんだ?」


「クローバーは政府公認の超人を研究する組織よ。年々、敵が増加傾向にある。そのため結成されたのが、クローバー。私はそこの研究員、分かったかしら?」


「んー情報がいろいろとありすぎて....頭がパンクしそうだ」


「そうこれは、あなたみたいな常人は関わっちゃいけない事案なの!だから早く逃げなさい」


「小林って言ったけ、あんた?あんたもしつこい人だな。俺はヒーローになりたいんだよ。だから今ここであんたを見捨てて逃げたらヒーロー失格なんだよ」


「しつこいのはあんたよ!!ヒーローになりたいのは充分分かったわ。けどあんたは今ここで戦っても、逃げてもヒーローにはなれないわ!......何故か分かるかしら?あなたは常人だから、それだけの理由よ」


「常人とか、超人とか俺には関係ねぇ。目の前の困ってる人を助けたい。それがヒーローなんだよ!!」


 太陽は恵に対して、真剣な眼差しで訴えかける。それを恵は冷たくあっさり返す。


「諦めなさい、あなたはヒーローにはなれない。選ばれなかったのよ」


「だったら......その超人覚醒剤とやらを俺に使わしてくれよ!!」


「はぁーーー!!??あんた、何言ってるの?話聞いてた?絶対に超人になれるわけじゃない、最悪死ぬのよ!まだ実験中の薬なのよ!」


「そんなこと分かってる。けど俺が今ここでその薬使わないと、あんたは死ぬだけじゃないのか?......俺にかけてみろよ!俺があんたを助けてやる」


 この男、冗談を言ってる顔ではない。もの凄く真剣な眼差しで私を見て訴えかけてくる。けどあの薬はまだ実験中、最悪死ぬ。


「あんた、死ぬ覚悟あるの?ヒーローになりたいんでしょ?ここであの薬を使って、成功するかも分からないし最悪死ぬのよ、それでもいいの?」


「あぁ、俺はそれでもいい。俺は今がヒーローになるための大きなラストチャンスかもしれない。後悔はない」


 しょうがない........私は、この男に賭けてみる。


 恵はアタッシュケースから注射器を1つ取り出し、太陽に見せる。


「分かったわ、これを首元に打ち込むの。打って数秒後には、もう効果が出るはずよ。それで超人にならなかったら、失敗よ。さっきも言ったとおり、最悪死ぬかもしれない。それでもいいな受け取って打ち込みなさい」


 太陽は迷うことなく、恵の手から注射器を受け取り、それを首元に近づける。


 これで、もしかしたら俺は超人に覚醒するかもしれない。ヒーローになれるかもしれない。

 諦めなくて良かった、今まで。


 太陽は首元に注射器を刺し、薬を打ち込む。


 どうやって超人になったか分かるんだ?力でもみなぎってくるのか?分からない。


 そうこう考えてると数秒間経つ。


「なにも起きないんだけど」


 クスッと恵が笑いこう言う。


「あんた、運がいいわね」


「え、俺超人になったのか!!?」


「いえ、あなたは失敗したのよ。もう数十秒は経った。それで何も変化がない。あなたは超人になれなかった。でも運がいいことに副作用も何も出なかった」


 っは!?ふ...ふざけんな...てことは俺はヒーローに......


「っっ嘘だ!!い..いや、まだ分かんないだろ!!俺は.....俺はヒーローになるんだ!」


 超人になれなかった現実を受け止めきれない、太陽は情けなく、恵に訴える。


「あなた、いい加減諦めなさい。あなたはヒーローになれなかった。今、最大のチャンスがあった.....けどあなたは超人になれなかった。もう諦めるしかないのよ。あなたは選ばれなかったのよ」


 現実を見れてない太陽に恵は現実を突きつける。


「ふ...ふざ..ふざけんな!!!お前が、お前が!勝手に俺の人生を決めるな!!!」


 太陽は瞳に少しの涙を潤しながら、恵に怒鳴る。


「あなた、現実を受け止めないよ。この国に常人でヒーローをやっている人はいるかしら?......いないわよね。それが答えよ。ヒーローは選ばれた超人しかできないものなの。あなたは選ばれなかったのよ、いいかげ....」


 恵が太陽にそう言いかけた時、周辺が爆発し、爆風が2人を襲う。爆発の煙幕から、追っ手の男が現れる。


「おい嬢ちゃん、厄介な技使ってくれたな!まぁあんな程度じゃすぐに壊せるけどな!」


 思ったより壊すのが早いわね。はやく、そこの現実を見れてない奴を逃さなきゃ。2人とも死んでしまう。


「あんたの夢は終わったのよ、早くここから逃げなさい!!」


ふざけるな!ふざけるな!!俺は....ヒーローになるんだ!


「......俺は諦めない」


 太陽は男の方へ走り出す。


 あいつ、正気なの!?まだ戦おうとしてる。薬を打っても超人になれなかったのに。....なんであいつはまだヒーローを諦めないの!?


「うぁぁーー!!!」


 太陽は叫びながら男に向かって、拳を勢いよく突き出す。


 しかしそれよりも早く、男の拳が太陽の腹に入り、殴り飛ばされる。


「関係ねぇ雑魚は邪魔すんな!!!!」


 太陽は近くのビルに吹き飛ばされる。


「よしこれで2人になれたな、嬢ちゃん。さっさと超人覚醒剤を渡しな!渡せば、命助けてやるよ」


「あんたに渡すわけないでしょ。あとなんであんたは、私を殺せると思ってるの?私、あなたに負ける気しないんだけど」


 恵は男に向かって、見下しながら煽る。


「クソガキがぁぁー!!!!!」


 男はエネルギー弾を拳に纏わせ、恵に殴りかかる。それを恵はシールドで防ぎ、男の腹に蹴りを入れ、吹き飛ばす。


 男は上手く受け身を取り、すぐに立ち上がりエネルギー弾を飛ばしてくる。


 恵はシールドで防ぎながら、前方へ歩き進む。


 やっぱり私の能力じゃ、奴を倒す決定打がないわね。


 「お前の能力じゃ、俺に致命傷は与えられないだろ!!」


「そうね。でもあなた、すごい攻撃してくる割に私に致命傷あたえてないわよ?」


「テメェ殺す!!」


 男は一瞬で、恵との距離を詰め殴る。それをシールドで防ぐ。しかし、男はかかさず、殴り続ける。


 やばい......これじゃシールドが間に合わ....


 男の拳が恵の腹にめり込み、後方に恵を吹っ飛ばす!!


「っっがぁ!!」


 っはぁ..はぁ...まともに食らったわね。こんなの何発も喰らってたら体が保たないわ。


「諦めろよ嬢ちゃん。これで終わりだ。 【豪爆弾】」


 男は自身と同じぐらいの大きさのエネルギー弾を生成し、恵に向かって放つ。


「【青の鳥籠とりかご 修羅しゅら】」


 私の最高レベルの技、青の鳥籠 修羅。これで防げなかったら、私はもう奴に勝てない。これに賭けるしかない。


 エネルギー弾はゆっくりと恵の方へ近づく。エネルギー弾の周囲は削れ、ものすごい風圧が襲いかかる。


 エネルギー弾が青の鳥籠に衝突し、衝撃波と爆風が周囲に放たれる。


 青の鳥籠が徐々にヒビが入り、崩れ落ちていく。


 やっぱ、ダメかしら。私はここで.....


 すると、横から抱き抱えられ、何かに体が包まれる。それと同時にエネルギー弾は爆発し、大きな爆発と共に衝撃波と爆風が街を壊す。


 っ、ん?、何故私は無事なの?


 目の前を見ると、血が垂れ続けている太陽の姿があった。


「っあ、あんた!!本当に何がしたいの?なんで私を助けるの?あんただけで逃げればいいでしょ!?」


「あん?それは出来るわけねぇだろ!俺は.....俺はヒーローになりてぇんだよ。.......だからこれ使わせてもらうぜ」


 太陽はもう1つの超人覚醒剤を手に持っていた。


「あんた、いつの間に!?.....駄目に決まってるでしょ!あんた、それ使ったら今度こそ死ぬわよ!!1回目で、副作用がなかったのはもの凄く運が良かったの。もし、2回もそれを打ったら......今度こそあんたの体、破裂するわよ!」


「んなこと考えれば分かるわ、それでもやるんだよ。俺はこれを最後のチャンスだと思ってる.........だから賭けてやるよ、俺の命。これで超人になれたら俺の勝ち、なれなかったら俺の負け。ただそれだけだ」


「あんたいい加減にしなさい!!なんで命を無駄にしようとするの!あなたはこのまま逃げれば、また平穏に生きられるのよ!あんたは運がいいの!なんでそれが分かんないのかしら!」


 いつの間にか、恵は涙を浮かべながら太陽を説得する。


「あんたにも、事情があるのかもしれない.....けど俺にも譲れない事情があるんだよ。俺はもう......」


「ごちゃごちゃうるせーな。安心しろ、お前らまとめて殺してやるから。まずは、何の力もねぇのに挑んでくるバカからだ。死ね、オラァ!!【豪爆弾】」


「馬鹿!!逃げなさい!!」


 恵は泣きながら、太陽に叫ぶ。


 太陽めがけて、豪爆弾が近づいてくる。太陽は薬を首元に打ち込む、それと同時に豪爆弾が破裂し周辺が大きな爆風で巻き込まれる。


 爆発から数秒が経ち恵の視界が煙から徐々にはっきりし始める。すると、煙の中から1人の影と、その周辺からバチバチと音がする。


 恵の目の前には、体からバチバチとエネルギーを放出してる太陽の姿があった。


「あなた...まさか?」


「あぁ、俺の勝ちだ」


 クスッと太陽が恵に笑顔を向ける。


 





















 



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