呪いで骸骨人間になった、呪いは俺を一生離してくれない

品画十帆

第1話 蘇りの秘物〈竜骨〉

 あれは、もう百年前の事だ、もう脳は無いのだが、今も鮮明におぼえている。


 俺はダンジョンで、凶悪なトラップに引っかかったしまった。

 それは、俺をアンデットの骸骨人間(スケルトン)へ、変えてしまう恐ろしいわなだ。


 骨から肉をぎとられ、全ての内臓を抜き出される、恐怖と激痛に、俺はいつまでも絶叫していてたと思う。


 骨ばかりの骸骨人間になり果て、不死の呪いがかかったまま、俺はダンジョンを彷徨さまようしかない。

 骸骨人間が地上へ出れば、たちまち見つかって、聖職者に討伐されてしまうだろう。

 聖なる光に包まれ、のたうち回るような苦しみの中で、消滅してしまうんだ。



 俺がまだ少年の頃、百十年前に街で見たことがある。


 住民は、討伐される光景を見て喜び、拍手喝采はくしゅかっさいしていたな。

 俺はその中の一人だった、〈骸骨人間なんか消えちまえ〉と笑っていたよ。


 拍手喝采されながら、皆に笑われながら、消滅するのは絶対にごめんだ。


 それなのに、ひょこひょこと地上に出るのは、愚の骨頂ぐのこっちょだ。

 俺は少年時代に見た光景を、骨に刻み込んでいる。

 骨がむき出しだから、今は簡単だろう。


 ダンジョンを彷徨ほうこうしているのは、もう一つの理由がある、それはよみがえりの秘物〈竜骨〉を手に入れるためだ。

 〈竜骨〉は、どんな状態になっていたとしても、たちまち蘇ると伝承されている、すげぇアイテムなんだ。


 それさえ手に入れば、俺は人間へ戻り、もう一度高くみ切った青空を、見上げる事が出来る。

 なにもかもが解放されて、心がどこまでも広がっていくはずだ、それを夢みている。



 「きゃー、助けてください」


 ダンジョンの奥から、若い女性の悲鳴が聞こえてきた。

 俺はどうしようと迷いに迷ったが、最終的に助ける事にしたんだ。


 それは声が若い女性だったせいだ、たぶん、おっさんだったら、見捨てていただろう。

 骨になったといえ、まだ男としての本能が残っていたんだな。


 それがすごく嬉しい。


 まだ俺の全てが、骸骨人間になっていない、と思えたからだ。


 飛ぶように若い女性の前に出て、骨に肉がまだついているゾンビを、バタバタと切り倒していく。

 ゾンビに触られると、体の肉が腐り落ちてしまうが、俺には元から肉が無い、骨だけだから平気なんだ。


 だから俺は、動きの遅いゾンビを恐れる必要は無い、ただのザコだ。

 三十体ほどのゾンビをミンチ状にして、戦闘は俺の圧勝で終わる、だてに百年間ダンジョンを彷徨していた訳じゃない。


 剣技はもう剣豪並みなんだぞ。

 普通の人間が百年もの期間、剣の修行を出来るはずが無いからな。

 俺は剣技でも人間じゃ無いんだ。


 「ひぃ、お助けください」


 若い女性は俺を見て、腰を抜かしている、おまけに股間が濡れているのは、らしたせいだろう。


 無くなった鼻にも、少し臭い匂いがただよってくるな。


 「心配しなくても、俺は元人間なんだよ。 悪辣あくらつなトラップの呪いなんだ」


 「へっ、そうなんですか。  そう言えば人間の男性が二重写しに見えます。  こう見えても、私は聖女なんですよ」


 お漏らし聖女か、ただ可愛い顔をしているから、まあ良いか。


 「へぇー、聖女さんか。 それならゾンビくらい、簡単に討伐出来るだろう」


 「そうでも無いのですよ。 聖なる光を使える人は少ないのです。 何年も教会で厳しい修業をしたのですが。 まだ私はいやしの光しか使えません」


 「ふうん、それなのに、こんなダンジョンの奥まで、なぜ来たんだい」


 「それは、ダンジョンで手に入るアイテムが欲しいからです。 聖なる宝玉を求めてきたのです」


 「なるほど。 修行で身につかなかった聖なる光を、聖なる宝玉を使って手に入れるんだね」


 「えぇ、それが私の夢なんです」


 「俺の名前は〈ザギイ〉って言うんだ。 俺もアイテムを探しているんだけど、一緒に探すかい。 少しは安全だろう」


 「はい。 私は〈ミンミ〉です。 どうぞ、よろしくお願いします。 〈ザギイ〉さんが探しているのは、秘物〈竜骨〉ですよね」


 「へぇー、良く分かったな」


 「ふふふっ、呪いを解くアイテムと言えば、秘物〈竜骨〉が一番ですもの。 修行には座学もあるんですよ」


 「なるほど。 そりゃそうだ」


 俺と〈ミンミ〉は、探しているアイテムがかぶっていない事もあり、一緒に探索をする事にした。


 「着替えますから、絶対にこっちを見ないでくださいね」


 〈ミンミ〉は漏らして濡れた服を着替えている、チラッと見えた丸いお尻が、やけに白く見えた。


 出るはずが無い、つばが出てしまう。


 柔らかくて美味しそうだ、ダメだ、気を確かにもて、体は骨だけだが、心はまだ人間のはずだろう。



 〈ミンミ〉の戦闘力はあまりないが、癒しの光が使えるため、探索はスムーズに運んでいる。

 聖なる力が〈ミンミ〉には無いため、アンデットの俺を癒す事が可能なんだ。


 戦闘で体力が落ちた俺を、一回の癒しで1/20だけ回復する事が出来る。


 1/20は、男性が体に持っている、体重と比較した場合の、骨の重さの割合だ。

 ただし、1/20だけでも継続した戦闘の場合は、かなりの助けになるし、何年も修行しただけあって〈ミンミ〉の癒しの力は連発がきくんだ。


 俺は〈ミンミ〉と共に、今までには無いスピードで、急ぎ探索を進めた。

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