第11話

「つばき」


「何だ?」


「私は、」


「待て」


「・・・?」


 急にどうしたのだろう。


「お前は勘違いしているな」


「何をですか?」


「俺がお前を嫌っていると」


「・・・え?」


 何で?

 そう思ったの?


「言っただろ。

 お前は俺の猫だと」


「・・・まさか、盗聴器?」


「正解」


「何で?」


「本当に鈍いな」


 これでも、鋭いって思っていたのにな、


「何時俺がお前を嫌っていると言った?

 無関心だと言った?」


 何か饒舌で怖いんだけど、


「言ってない」


「そうだよな。

 誰からの入れ知恵だ?」


「分かってるくせに」


「さぁな。

 お前を拾ってから三年前まで一度もこの家に誰も招き入れてない」


「嘘だっ?!」


「何が嘘なんだ?

 お前に一度も嘘を吐いたことはない」


「でも、」


「何がでもだ?」


「だって、あの日いたもん」


「あの日?」


 もういいや。


 全部言ってしまおう。


「三年前の7月23日、

 朝いつも通り起きたら椅子に座ってた。

 その人が言ってた。

 つばきは辞めておけって」


「だから、俺から逃げたのか?」


「そうだよ」


「そうか。

 自由にしすぎたようだ」


「・・・?」


 首を傾げたのと同時に首に強烈な痛みが生じた。


「痛い」


 痛いと呟くとなお痛くなる。


 それが嚙みつかれた痛みだと気づいたのは血が出てきたからだ。


「痛い」


「それは悪いな」


「思ってない声」


「思ってる、思ってる」


「そう」


「瑠璃は知っているか?

 首に噛み痕を付ける理由?」


「知らない」


 知ってても言いたくない。


「執着だってよ。

 俺はお前に執着してるんだってよ」


「うん、今日はエイプリーフールじゃないですよ」


「知っているが?」


「そうですか。

 これは夢ですね」


「いいや、現実だが?

 何ならもう一回噛もうか?」


「遠慮します」


 もう、痛いのは勘弁だよ。


「そうか。

 こんなに言葉にしてるのに伝わらないのか。

 残念だ」


「貴方が私に執着していて、盗聴しているってことなら分かりましたよ」


「賢い瑠璃なら伝わるって思ったのにな」


「何がです?」


「俺が愛してるってことぐらい」


「認めたくない。

 そしたら、この三年間は何だったんだよ?!

 それに、貴方に対しての感情が分からない」


「さぁな。

 別に分からなくていい。

 それなら洗脳するまでだ」


「なら、壊してくださいよ。

 立ち直れなくなるぐらいに」


「いいんだな?」


「はい。

 どうせ、貴方に拾われたあの日から私の命は貴方のものですよ」


「そうだったな」


 そう言い、妖しく笑う貴方は一番奇麗だった。

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飼われている私は犬を拾いました! 天川星夜 @4252akuma

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