第9話 天人堂に集う仲間たち
天人堂は、ただの食事処ではなかった。それは、様々な分野の専門家たちが集い、知識を交換する場所でもあった。大和はその名の通り、物事の深い理解と調和を大切にする人物であり、彼の周りには多くの「知恵の使い手」たちが集まっていた。彼らの訪れが、天人堂の物語に新たな色彩を加えていた。
アキもまた、天人堂で過ごす時間を通じて、様々な専門家たちとの交流を深めることになった。これらの出会いが、彼女の人生にどれほどの影響を与えることになるのか、まだ誰も知らなかった。
ある日のこと、天人堂にはアユミという薬草学者が訪れた。彼女は、薬草や植物を使って心身を整えることに情熱を注いでいる若き学者で、長年、大和と親交があった。アユミは、その日の昼に大和が出す特別な薬草入りカレーのために、季節ごとの草花を集めてきた。
「これが、今年の春に収穫した新芽たちよ。」
アユミは、手にした小さな籠から新鮮な草花を取り出し、大和に見せた。その草花たちは、色とりどりでありながらもどこか落ち着いた美しさを持っていた。
「これらは、胃腸を整える効果があるのよ。特に春は肝臓が疲れやすい季節だから、この薬草が効果的だわ。」
アユミは、細かに説明を加えながら、大和と一緒にその薬草をカレーに加えていった。薬草の持つエネルギーが、カレーに深みを与え、食べた者の心と体を整える役割を果たす。
その日のカレーを食べたアキは、しばらくしてから不思議な感覚に包まれた。心の中に静けさが広がり、何かがスーッと浄化されていくのを感じた。
「このカレー、何だか心が軽くなる気がします。」
アキがそう言うと、大和はにっこりと微笑んだ。
「薬草は、心と体をつなげるもの。君も、この薬草の力を感じているんだろう。」
アキは頷き、ふと見上げると、アユミが草花を大切そうに扱う姿が見えた。彼女の存在は、天人堂にとって欠かせない一部となっていた。
次に天人堂に現れたのは、カナという占い師だった。カナは、星座や天体の動きを読み解き、人々の運命を導くことができると言われている女性で、大和とも長年の付き合いがある。彼女は、天人堂で過ごす時間をとても楽しみにしており、たびたび訪れては、天人堂の食事とスパイスの効能について語っていた。
ある日、カナはアキと共に食事をしていた際に、こんな話を始めた。
「スパイスと星座には、意外な関係があるんだよ。」
カナは、スパイスの盛り合わせを指しながら言った。「例えば、アジアンカレーに使われるクミンは、牡羊座のエネルギーを持っていると言われている。牡羊座は積極的で情熱的な星座だから、このスパイスを使うことで、活力を高めることができるんだ。」
アキは驚きの表情を浮かべながら聞いた。「星座とスパイスが関係しているんですか?」
「もちろん。それぞれの星座には、特有の性格やエネルギーがあり、それに合ったスパイスを使うことで、もっと自分らしく生きるための手助けができるんだよ。」
カナは微笑みながら、続けた。「例えば、蟹座の人には、消化を助ける生姜が良いと言われている。生姜は、感情のバランスを取る効果もあるんだ。」
その話を聞いて、アキは興味深くカレーを一口食べた。「じゃあ、私が今、食べているこのカレーには、私に必要なスパイスが入っているんですね?」
「その通り。」
カナは優しく答えた。「あなたには、少し活力を与えるスパイスが必要だった。それが、今日のカレーにぴったりだったのよ。」
その日の晩、アキは自分の心が少し軽くなったように感じた。カナの言葉が頭の中で響き、星座とスパイスの深い関係が徐々に理解できるようになっていた。
そして、天人堂に時折訪れる料理人のジョウは、和食の名人であり、旬の素材を使って料理を作り出すことに情熱を注いでいる人物だった。ジョウは、天人堂の料理に和のエッセンスを加え、スパイスとの絶妙な組み合わせを試みていた。
ある日、ジョウが大和に頼まれて作った特別な料理が、天人堂に新たな風を吹き込むことになる。それは、「和風薬膳カレー」という名の料理で、和の素材を用いたカレーだ。彼の目指したのは、東洋の健康食をベースにした、まろやかでありながら深みのある味わいだった。
「このカレーは、ただのカレーじゃない。心身のバランスを整えるために作ったんだ。」
ジョウはカレーを持ちながら、誇らしげに言った。
そのカレーを食べたアキは、またもや不思議な体験をした。和の素材とスパイスが融合したカレーは、体にじわじわと温かさを広げ、心もほぐれていくような感覚を与えてくれた。
「和とスパイス、こんなに合うんですね。」
アキは感動しながら言った。
「和の食材とスパイスは、調和を生むものなんだ。」
ジョウはにっこりと笑って答えた。
天人堂に集う仲間たち、それぞれの専門家たちは、料理を通じて一人ひとりに新たな気づきと成長をもたらしていた。アキもまた、彼らとの交流を重ねることで、心と体がより深く調和する感覚を感じるようになっていた。そして、大和が作り出す料理は、ただの食事ではなく、人生を豊かにするための「薬」として、ますます多くの人々の心に響いていた。
天人堂のカレー薬 まさか からだ @panndamann74
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